<2001.11.29“Shifting Images”発売記念コンサート>セルフライブリポート(“Jazz Life ”02年 2月号より)

 

 11月29日に銀座ヤマハホールで、<“Shifting Images”発売記念コンサート>を行ないました。お陰様で、ホールもほぼ満席になり、まずはほっとしております。
 

 わたしのオーケストラは、普段神田“TUC”をはじめとして、ライブハウスでの活動が中心ですので、こういうホールでの自主公演は実は始めて経験です。今回は“ホール演奏の意義”ということに話を絞って書いてみたいと思います。
 まず、ホールというのはさすがに音響が良いということはまず感じました。ライブハウスは大編成向きに出来ているわけではないですから、どうしても周囲の音をバランス良く聴く事が難しいのですが、良いホールは、自然な反響が素晴らしいので、全体の音がクリアに響きます。それだけに、良いところはますます良く聴こえますが、アンサンブルのちょっとしたズレなども、ごまかしがきかず、自分達の真実の姿がさらけ出されるこわさがあります。
 また、ライブハウスのお客様というのは、本当に熱心なジャズファンが中心ですが、今回のように500人規模のホールですと、客層はかなり色々で、“ジャズの生演奏は始めて”という方も結構いらっしゃいます。“(カウント・ベイシーやサド・メルあたりならまだしも)ビッグバンドといえば、グレン・ミラーのあの名曲、ベニー・グッドマンの例のナンバーをやってくれるんだろう”という期待感のようなものもひしひしと伝わってきました。
 ですから、普段はわたしのオリジナルを中心に演奏しているオーケストラですが、今回はファーストセットはCDの曲を中心に、セカンドセットは有名なスタンダードをわたしなりにアレンジして演奏しました。しかし、これはお客様に迎合して、ということではありません。“ウケそうだから、有名な曲を何となくやる”という態度は、すぐに伝わってしまいます。やはり、“皆さん御存じの曲だけど、こんな新しい切り口もあるんですよ!”と提案し、挑戦する姿勢がないと、納得はしていただけないのです。
 だから、今回はどの曲より“ムーンライトセレナーデ”が一番難しかった。あの有名なメロディーに、どうやって新鮮で現代的な味を加えるのか。あの独特なビブラート奏法をとり入れるのか入れないのか、だけでも相当考えないと、とても中途半端な曲になってしまいます。エリントンやモンクの曲は、コンボでも多様なバージョンがありますから、アレンジも色々考えられますが、ビッグバンド固有の名曲というのは、構成やソリスト、演奏手法も含めての名曲で、手を入れるのにかなり勇気がいりました。
 また、ホールでの演奏は限られた時間の中で、ヴァラエティーに富んだ選曲にしなければならないので、ソロも普段よりはかなり短かめになります。しかしそこは、各自短い中できちんと言うべきことはいう、というソロになっていて、さすがに皆プロフェッショナルだな、とこの点は改めて感心しました。
 

 今回の経験をとおして、ビッグバンドは、やはりホールでの演奏経験を積んでいく必要があることを痛切に感じました。ホールにいらっしゃるお客様というのは熱心でコアなジャズファンばかりではないわけですが、そういうお客様にも十分に楽しんでいただける演奏ができる、というのは本当に大切なことだと思うのです。こういう客層の方には細かい技術の差や、メンバーの知名度などで納得していただくことはできません。メンバーひとりひとりが、いかにその音楽を愛し、心の底から楽しんで真剣に演奏しているか、そういう音楽の原点のようなものに対する姿勢がダイレクトに試されてしまうのです。
 たとえば、ジャズライフの読者にはいきなり“今回のビッグバンドでは・・・”と書き出しても良いけれども、一般誌に書く時は“ビッグバンドとは、どういう構成で、人数は、その歴史は・・・”というところから説明しなければいけません。演奏者側がその両方に対応できなければ、ジャズという音楽は広がっていかないと思います。お陰様で今回は“えーっと、このメンバーって、ジャズ界ではとっても有名な方たちなんだそうですねえ。”と仰っていた様なお客様にも“生の演奏の迫力と楽しさが伝わってきてとても良かった”“また聴いてみたい”というような感想をいただくことができました。
 “ライブハウスに足を踏み入れるのはちょっと躊躇するけど、でもジャズって何か興味ある”という潜在ジャズファン層を開拓するためにも、ホールでのコンサートやCDの制作は本当に大切なことなんだなと実感しています。2001年にこのふたつができたことは、とても良かったと思っています。
 

 “この不況の時期によくビッグバンドなんかやっているねえ”と良く言われますが、わたしは世の中があまり良くない今のような時代こそ、贅沢なもの、豪華なものが求められていると思います。大勢の人間が一斉に音を出す迫力、楽しさは、他の編成では決して得られない素晴らしさで、ぜひ多くの方に生で体験していただきたいと思っています。
 

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