利尻岳が見える地点また四季折々によってその形を変えます
礼文島から跳めた夕方の利尻岳の美しく烈しい姿を、私は忘れることが山来ない。 海一つ距ててそれは立っていた。利尻富士と呼ばれる整った形よりも、むしろ鋭い岩のそそり立つ形で、それは立っていた。岩は落日で黄金色に染められていた。島全体が一つの山を形成し、しかもその高さが千七百米もあるような山は、日本には利尻岳以外にはない。九州の南の海にある屋久島もやはり全島が山で、二千米に近い標高を持っているけれど、それは八重岳と呼ばれているように幾つもの峰が群立しているのであって、利尻岳のように島全体が一つの頂点に引きしぼられて天に向ってはいない。こんなみごとな海上の山は利尻岳だけである。 翌日の午後、私達は利尻島を離れた。きれいに晴れた秋空であった。稚内へ向って船が島から遠ざかるにつれて、それはもう一つの陸地ではなく、一つの山になった。海の上に大きく浮んだ山であった。左右に伸び伸びと稜線を引いた美しい山であった。利尻島はそのまま利尻岳であった。それもいよいよ遠くなり、稚内の陸地が近づいて来た。やがて山も消え、その山の形に白い雲が一と所海面に湧き上っているのが、利尻岳の最後の 面影であった。 日本百名山「利尻岳」 深田久弥 |
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