社会保険労務士関連ニュース(2001年/第3四半期:2001/10-12)

2001年(平成13年)度 第3四半期 2001年10月〜12月に新聞等で発表されたニュースです。

【LastUpdate 2002. 1. 2】

【Add 2002. 1. 2】

  母子家庭の児童扶養手当 満額、年収130万円未満に

2001/12/30 朝日新聞朝刊

  総額抑制厚労省案 支給対象は拡大
 低所得の母子家庭に支給される児童扶養手当を見直す厚生労働省案が明らかになった。離婚の急増により母子家庭は年々増えており、母子家庭の就労意欲を促すという名目で、一部の層を除き年収が増えるにつれ手当と年収の合計額(総収入)が増えるように工夫する。支給対象世帯も拡大するが、満額支給の要件は厳しくし、全体の支給額も抑制する。政府は関連する政令を改正し、02年12月支給分から見直しを実施する方針だ。
 
 母子家庭は98年には955,000世帯と、5年前に比べて2割も増加。児童扶養手当を受給しているのは01年度末で71万世帯にのぼる。このため、手当財政がひっ迫。02年度予算案で社会保障関係費の伸びが抑制されたこともあって見直しが迫られ、手当総額は前年度比0.1%減の2637億円に抑制することにした。
 現行の手当制度は2段階制。母子2人世帯で年収が204万8,000円未満だと、満額の月42,370円(年約51万円)を支給される。年収204万8,000円以上300万円未満では、月28,350円(同34万円)となり、300万円を超すと支給されなくなる。このため、年収204万8,000円と300万円を少し超えた年収だと、手当の金額を加えた総収入でかえって損になる「逆転現象」が生じている。
 見直し案は、月42,370円の満額支給となる対象を年収130万円未満に限定。一方で、一部支給を受け取る世帯の範囲を年収365万円未満まで拡大する。年収130万円以上365万円未満の層には、手当を月42,360円から月10,000円まできめ細かく設定する。
 見直しが実施されると、例えば年収200万円世帯の場合、手当を含めた総収入は238万円となり、現行に比べて年13万円減。年収250万円の場合、総収入は280万円となり、年40,000円減となる。一方で年収300万円世帯の場合、これまでは手当を受け取れなかったが、年22万円の手当を受け取れるようになる。
 「日本労働研究機構」の母子家庭調査(今年10月発表)に基づけば、見直しにより母子世帯の約半数が減ると推定される。このため母子家庭を支援する市民団体などは、満額支給の収入要件を厳しくし、支給総額を抑制する見直し案に反発している。
縮む中高年・正社員雇用 失業率最悪5.5%

2001/12/29 日本経済新聞朝刊

  11月の完全失業率(季節調整値)が5.5%t過去最悪を更新した。その内訳をみると、中高年の男性を中心に正社員の減少が目立つ。一方、2000年度の派遣社員の総数は前年度比29.8%増の138万7,000人と過去最悪を更新したことが厚生労働省が28日まとめた人材派遣事業報告でわかった。人件費を抑制するために企業が正社員雇用からパート、派遣に移行させる動きが加速している。
 
非自発的失業 45歳以上が半数に
 11月の労働力調査によると、企業の経営破たんや解雇に伴う「非自発的失業者」は前年同月より29万人増え123万人と過去最悪になった。大成火災海上保険、新潟鉄工所や空調設備工事を手がけるエルゴテックなどの上場企業の破たんが相次いだ結果が明確に表れた。
 最も影響を受けたのは45歳以上の中高年の男性だ。この層の非自発的失業者は56万人となり、全体の半分弱を占めた。サラリーマンなどの雇用労働者の減少分(57万人)や、過去最悪となった世帯主の完全失業者(101万人)と重なる部分が多い。
 年齢別の完全失業率をみると、15歳-24歳は前年同月比0.6ポイント低下して8.4%に改善した。また雇用契約期間が1ヶ月未満の人と週30時間未満の短時間労働者はいずれも増加した。賃金の安い若年層やパートの雇用機会は拡大していることを裏付けた。
 大企業はこうした傾向が顕著だ。厚労省の調べによると、従業員1,000人以上の企業の新規求人は正社員が大幅なマイナスとなった半面、パートは3ヶ月ぶりに増加に転じた。特に流通、繊維などの業種でこうした動きが目立つ。
 
派遣社員最高、138万人 昨年度29%増
 パートの広がりと並んで派遣社員も急増している。派遣社員のうち、派遣会社に登録しておき仕事があるときだけ働く「登録型派遣社員」は2000年度に111万4,000人と、前年度に比べ24.8%増えた。常用派遣社員は27万3,000人となり、約5割増だった。
 総務省が集計している労働力調査では人材派遣をサービス業に区分している。サービス業の就業者数は派遣社員の急増に引っ張られる形で前年同月比41万人増と堅調に伸びている。問題は、雇用の受け皿の拡大を上回るペースで完全失業者が増えていることにある。
 日本総合研究所の山田久主任研究員は「サービス業は正社員以外の雇用形態が多く、正社員の終身雇用や年功制を前提にしたシステムとは違う。製造業、建設業などに勤めていた人がサービス業に移ったときは賃金は下がることが多いので、消費者は夫婦共働き型の働き方を増やしていく必要があるだろう」と話している。
高齢者雇用 確保求める

2001/12/28 日本経済新聞夕刊

  バリアフリー 「省庁の壁越え対策」 政府が大綱決定
 政府は28日の閣議で、高齢化社会の対策の指針となる高齢社会対策大綱を決定した。健康面でも経済面でも恵まれないという旧来の画一的な高齢者増にとらわれない政策を推進する必要があると指摘、就業年齢制限による一律の優遇制度の見直し、65歳までは希望者が働けるよう定年の引き上げや継続雇用制度の導入による高齢者の雇用確保などを求めている。
 大綱は1995年に成立した高齢社会対策基本法に基づくもので、5年ぶりの見直し。省庁の壁を越えて取り組むべき課題として、高齢者に地域社会への参画を促すような活動基盤の整備や生活環境のバリアフリー化、家族を通じた世代間の連帯強化などをあげた。
 具体的には、特別養護老人ホームの全室個室化の促進などサービスの質の向上、生活環境の面では2015年までに全住宅の2割をバリアフリー化することを目標として打ち出した。社会保障制度では年齢にかかわらず負担能力のあるものに能力に応じた負担を求めていくべきだとしている。
 経済面や健康面などの男女差に対して男女共同参画社会にふさわしい視点を持つことも提唱、若年期からの資産形成など老後に備える自助努力を支援する必要性を訴えている。

高齢社会対策大綱のポイント
就業年齢制限や年齢による一律の優遇制度の見直し
年齢によらない能力に応じた社会保障負担
地域社会への参画を促進
生活環境のバリアフリー化の推進
職業能力開発、求人開拓など再就職支援
定年年齢引き下げ、継続雇用に向けた事業者への指導
高齢者の起業支援
2015年度までに高齢者に配慮した住宅を全住宅の2割に
残業時間18%減 11月

2001/12/28 日本経済新聞夕刊

   厚生労働省が28日発表した11月の毎月勤労統計(速報)によると、従業員5人以上の製造業の1人あたり所定外労働時間(残業時間)は12.1時間と前年同月と比べ18.2%減った。9ヶ月連続の減少となり、生産の不振を背景に減少幅は前月(15.9%)から拡大した。
厚生年金 保険料3兆円不足

2001/12/27 日本経済新聞朝刊

  2000年度計画比 賃金低迷や加入減
 サラリーマンが加入する公的年金の厚生年金の保険料収入が2000年度は約20兆円と政府が1999年度に作成した年金の財政計画を約3兆円(1割強)下回ったことが明らかになった。景気悪化による賃金の伸び悩みに加え、加入者が予想以上に減少したためだ。2004年度の年金制度改革では財政計画の見直しが必至で、保険料が予定より大幅に引き上げられる可能性も出てきた。
 
保険料上げ幅見直しも
 公的年金は自営業者の国民年金、公務員の共済年金、サラリーマンの厚生年金に分かれる。厚生年金は保険料収入の約4分の3を占め、公的年金の柱になっている。政府は公的年金を安定的に運営するため5年に一度、年金支出を賄うのに必要な保険料収入を推計し財政計画を作っている。
 99年に作成した現在の財政計画は初年度の2000年度の厚生年金保険料収入を22兆9,000億円と見込んでいたが、実際の収入は18兆7,000億円にとどまった。追加収納を加味しても20兆円に届かず、計画を1割以上下回ったもようだ。一方、厚生年金の給付は21兆円に達し、保険料では足りず運用益を取り崩して給付に充てた。
 保険料収入が計画を大幅に下回ったのは、加入者が計画より約200万人少ない約3,200万人にとどまったためだ。厚生年金はサラリーマンの月収の一定割合の保険料を本人と事業主が折半で負担する。景気低迷を背景に失業者が増えたうえ、正社員を厚生年金に加入義務のないパートに切り替える企業が増えている。加入者の平均月収の前年比伸び率も1.1%(2001年3月)と、財政計画の2.5%を下回った。
 2001年度も加入者が大幅に増える兆しは見られない。このため、2005年度まで3,400万人台の加入者が続くとする現行の財政計画の達成は困難との見方が増えている。
 株価低迷などで過去の保険料を積み立てた資金の運用も不振。財政計画を達成するには毎年4.0%の運用利回りが必要だが、厚生年金など公的年金の一部を運用する年金資金運用基金(旧年金福祉事業団)の2000年度の利回りはマイナス5.16%、2001年度上半期もマイナス6.72%だった。旧大蔵省資金運用部に預けた資金も低金利で利回りが低下、厚生年金の2000年度の利回りが99年度(3.62%)を下回るのは確実だ。
 現在の財政計画は年金支給の財源を賄うため、厚生年金の保険料率を月収の17.35%から2025年までに約28%に段階的に上げる予定にしている。保険料や運用収入が計画を下回る状態が長期化すれば、計画より大幅に保険料率を引き上げないと予定した年金を支給できなくなる。
失業率最悪5.5% 11月

2001/12/27 日本経済新聞朝刊

   11月の完全失業率(季節調整値)は5.5%と前月比0.1ポイント上昇、3ヶ月連続で過去最悪を更新する見通しとなった。総務省が28日に発表する。景気の悪化を背景に企業が人員削減を続け、失業者が増えた結果とみられる。企業業績の先行きが依然として不透明ななかで、雇用情勢は厳しさを増している。
 完全失業率はリストラなどを受け7月に5.0%を付けた後、9月が5.3%、10月が5.4%と上昇を続けている。世界経済の同時原則などから企業業績が悪化、設備投資意欲は冷え込んでいる。個人消費低迷なども雇用環境に本格的に波及しつつある。
 政府は今年度の経済見通しで平均失業率を5.2%としている。これが実現するには12月から来年3月までの間の失業率が平均で5.4%にとどまる必要がある。業績回復を目指した企業の人員削減は今後も続く見通しで、政府が平均失業率の見通しの修正を迫られる可能性も出ている。
外国人労働者9年連続増加 厚労省調査

2001/12/26 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省が25日発表した2001年の外国人雇用状況報告によると、6月1日現在の外国人労働者の延べ人数(直接雇用と間接雇用の合計)は前年に比べて6.8%増の22万1,121人となり、1993年の調査開始以来、9年連続で増えた。
 外国人労働者を直接雇用している事業所は5.2%増の18,484ヶ所で、労働者数は8.3%増の130,440人と、いずれも過去最高。厚労省は「専門技術職種などの人が増え、全体数を押し上げている」と分析している。
失業者把握きめ細かく 失業理由6分類に

2001/12/23 日本経済新聞夕刊

  総務省来年から 詳細分析、年4回公表
 総務省は完全失業率を算出するために実施している労働力の内容を、来年1月分から改める。毎月実施する調査では、失業理由の回答に「定年」などの項目を加える。失業期間別の失業者数など詳細なデータの公表も、これまでの年2回から4回に増やす。10月の完全失業率(季節調整値)が5.4%と過去最高を更新するなか、失業者の動向をよりきめ細かく機動的に把握し、今後の雇用対策に生かすのが狙いだ。
 労働力調査は総務省が15歳以上の約4万世帯を対象に毎月実施し、完全失業率、労働力人口、業種別の就業者数などを推計している雇用指標。これまではこうした毎月の通常調査とは別に、毎年2月と8月に特別調査を実施し、失業期間別の失業者や、就業を希望していても求職活動はしていない「潜在的失業者」などを調べてきた。
 今回の改定では、これまで年2回の特別調査で調べてきた項目を「詳細集計」として毎月調査の中に加え、四半期ごとの結果を2月、5月、8月、11月に公表することにした。詳細集計の調査世帯は約1万。年2回の現行方式よりも失業者の動向を「タイムリーに提供できる」(総務省統計局)ようになる。
 これにより例えば、失業期間が1年以上の長期失業期間が1年以上の長期失業者(92万人)のうち自発的失業者や、企業倒産・解雇による非自発的失業者がそれぞれ何割いるかといった多様な集計ができるようになるので、失業者の実態をより多くの角度から分析できるという。
 毎月実施・公表する調査の内容も充実させる。失業者の理由別の内訳はこれまで自発的失業者、非自発的失業者、学卒未就職者、その他の4つに区分してきたが、新たに「定年・雇用契約の満了」、「収入を得る必要が生じたから」の2つを加えて計6区分とする。
 従来は定年退職した人も非自発的失業者に含まれていたが、例えば企業のリストラのため定年を待たずに解雇された深刻な状況の人と明確に区別する。「収入を得る必要が生じた」はこれまで「その他」に該当していたものの、景気の悪化などで家計の収入減を補うため求職活動を始めた人が何万人いるのか、内訳が分かるようにする。
 就業者の産業区分も細分化する。現在の「運輸・通信業」は「運輸業」と「通信業」に2分し、就業者数が増え続けているサービス業は「情報サービス」「医療・福祉」「教育」などに分け、どの分野で雇用の受け皿が拡大しているかを詳しく明らかにする。
年金と医療・雇用保険 申請 ネットで一括 加入逃れを防ぐ

2001/12/22 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は2003年度から企業など事業員の厚生年金や医療保険、雇用保険の手続きを一括して電子申請できる仕組みを導入する。パソコンでデータを入力すればインターネットを介して、複数の手続きが同時に済むようになる。社会保険庁などの現場の行政コスト削減にもつながる。手続き一元化によって、年金・医療保険の加入を免れる事業所を把握し、是正する狙いもある。
 サラリーマンが加入する厚生年金や医療保険、雇用保険は労使で保険料を分担しており、加入や保険料納付の手続きは本人ではなく事業所がしている。
 加入・脱退などの申請に必要な基礎データはほぼ共通だが、旧厚生省が所管する厚生年金・医療保険と旧労働省が所管する雇用保険は申請書が別々。窓口も年金・医療は社会保険事務所、雇用は労働基準監督署・公共職業安定所と、異なる。事業所はほぼ同内容の書類を何枚も作り、別々に届ける必要がある。届け出件数は雇用保険の被保険者取得届だけでも、年間570万件にのぼっている。
 インターネット申請が使えるようになるのは全国約200万の事業所。まず2002年度中に、事業所が年金・医療と雇用保険の申請書を社会保険事務所か労働基準監督署のどちらかに届ければ、両方で受け付ける書類ベースの「ワンストップサービス」を始める。
 2003年度にはネット申請のシステムを導入する。行政への申請・届け出を2003年10月までにオンライン化する電子政府計画の一環。事業所の所在地や給与などの基礎データを一度入力すれば、年金・医療と雇用保険3種類の手続きが同時にできるようになる。入力ミスや入力漏れも自動的に把握、すぐパソコン上で訂正を促す。
 ネット申請による一括処理を導入するのは、法律で義務づけられているのに厚生年金や医療保険に加入しない事業所が増えていることへの対策でもある。
 現役世代の労使の保険料で高齢者の費用を賄う年金・医療保険制度で非加入が増えると、制度に残る事業所や加入者の保険料負担が一段と重くなる。現在は事業所データを雇用保険と別に管理しているため「非加入」の発見は難しいが、一括処理すると簡単に是正を求められるようになる。
 行政も書類点検などの手間が省け、全国で約37,000人の職員を抱える社会保険事務所や労働基準監督署など厚労省の地方機関の事務量が減る。坂口力厚労相は保険料徴収一元化について「役所も血を流す必要がある」と再三表明している。
 ただ厚労省・社会保険庁事務局は、浮いた人員は年金相談や医療の診療報酬請求書の点検など重点業務に転換する考えだ。
70歳以上の負担50円引き上げ 医療費で厚労省

2001/12/21 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は70歳以上の高齢者が定額制の診療所で支払う自己負担額を2002年4月から50円引き上げ、1回850円(月4回まで、5回目以降は無料)とすることを決めた。高齢者の外来医療費の増加に伴う定時改定で、定率制の診療所や病院にかかった場合の自己負担上限額も引き上げる。2002年9月末まで6ヶ月間の適用。
今年の賃上げ 最低の4163円

2001/12/19 日本経済新聞朝刊

  伸びも最悪1.5% 厚労省調査
 厚生労働省が18日発表した賃金実態調査(速報)によると、民間企業の今年の賃上げ額(労働者数に応じた加重平均)は4,163円と1980年以来の最低水準となった。賃上げ率(同)も1.5%と過去最低だった昨年と同水準にとどまった。同省は「企業の業績悪化が大きく影響した」とみている。
 調査は9月に従業員100人以上の2,628社を対象に1-12月の賃金改定の状況を聞き、1,781社の回答を得た。
 賃金を改定しなかった企業の比率は前年比2.2ポイント増の21.3%と過去最高となった。賃上げする企業が73.8%、賃下げする企業が2.2%といずれも前年を下回り、従業員の雇用を守るため賃金を据え置く傾向が強まった。
 人件費抑制のため企業が力を入れる対策をみると、「人員削減、欠員不補充」が13.4%と前年より4.6ポイント増えた。配置転換や賃金制度の改正などの回答は減り、希望退職の実施などで従業員を減らす方法を採用する企業は確実に増えているとみられる。
来春高卒予定者の就職 内定、最悪の50.7% 10月末時点文科省調査

2001/12/18 日本経済新聞朝刊

   来春卒業予定で就職を希望している高校生の就職内定率(10月時点)は前年同期比5.6ポイント減の50.7%出、これまで最低だった1999年同期(55.5%)を下回り、過去最悪となったことが17日、文部科学省の調査で分かった。
 調査は全国の国公私立高校を来春卒業予定の約132万4,000人を対象に実施した。就職希望者は約256,000人で、このうち内定者は約13万人にとどまり、約126,000人(男子63,000人、女子63,000人)が内定していなかった。
 内定率は男子が53.8%(前年同期比6.1ポイント減)、女子が47.2%(同5.0ポイント減)。
 学科別では、「鉱業」が65.4%で最も高く、次いで「商業」52.4%、「水産」49.6%、「総合」48.3%などの順。「普通」は42.6%と苦戦している。
 内定率は全都道府県で前年を下回った。70%を越えたのは、岐阜(75.0%)、三重(71.7%)、富山(71.5%)、愛知(70.9%)の4県のみ。一方、沖縄(16.3%)が突出して低く、北海道(29.3%)、宮城(30.3%)、青森(34.0%)などが低調だった。
専業主婦の年金 保険料免除、見直し提起

2001/12/15 朝日新聞朝刊

  厚労省検討会 夫の負担案が軸
 厚生労働省の「女性と年金検討会」(座長=袖井孝子・お茶の水女子大教授)は14日、年金制度を「専業主婦標準型」から「共働き標準型」へ転換するよう促すことを柱とした報告書をまとめ、坂口力厚労相に提出した。サラリーマン家庭の専業主婦が、基礎年金の保険料を免除されている「第3号被保険者」制度の見直しを提起。何らかの負担を課す方法として、夫が支払う保険料に妻の分を上乗せする案を軸に検討が進められる見通しだ。
 
 政府はこの報告書に沿って、年明けから社会保障審議会年金部会で具体案を詰め、04年の年金改革を目指す。
 夫がサラリーマンで年収130万円未満の妻は、年金保険料を負担しなくても基礎年金(満額で月67,000円)が支給される。対象は1,500万人。しかし専業主婦の給付費用は、夫だけではなく単身者や共働き男女が払う保険料など給与所得者全体でまかなわれている。働く女性が増えライフスタイルの多様化も進んでおり「不公平感を助長している」との意見が強まっている。
 このため報告書は専業主婦の保険料免除制度の見直しについて、自営業者らと同じ月額13,300円(現行)を払う案や夫がこの金額を肩代わりする案など6案を併記。このうち、夫に共働きや独身者より高い保険料率で負担をしてもらう案について、「世帯単位の受益という点で不公平感を解消できる」として特にメリットを強調している。
 この案だと単身者と共働き世帯の保険料負担は減るが、専業主婦世帯は夫の月収40万円の場合で月4,000円の負担増となるため、とりまとめは曲折も予想される。
 報告書は、年金給付額の水準を決めるモデル設計を「専業主婦世帯」(夫17.1万円、妻6.7万円)から「共働き世帯」(夫17.1万円、加入期間に応じ妻7.7万円または妻10.3万円)に変更することを提起した。
 さらにパートの厚生年金適用拡大のため、現在年収130万円以上としている加入要件を65万円以上に引き下げるとともに、正社員の労働時間の4分の3以上としている加入基準を「2分の1以上」にし、間口を広げるよう提言している。しかし、加入すると、基礎年金に上乗せされる報酬比例部分も受給できる半面、収入に見合った保険料負担もすることになる。厚労省によると、第3号の約3割が働いており、約300万人近くが対象になると見られ、働き続けるかどうかの判断は個人によって分かれそうだ。
 
「女性と年金検討会」報告書の骨子
厚生年金のモデル 「妻は専業主婦」世帯から「共働き夫婦」世帯に
パートの厚生年金 就労時間を正社員の4分の3以上から2分の1以上に、年収要件を130万円以上から65万円以上に
第3号被保険者制度 専業主婦世帯の負担を求めるなど6案
育児への配慮 育児中の保険料免除などを検討
離婚時の年金分割 家裁を通じ当事者の協議で可能にする選択肢導入
遺族年金 片働き世帯と共働き世帯の給付の不均衡をなくす
正社員へ道開く 紹介予定派遣急速に広がる

2001/12/11 日本経済新聞朝刊

   派遣先企業への正社員採用を前提にして、人材を試用的に送り込む紹介予定派遣が急速に広がっている。昨年12月の制度解禁後、パソナ、テンプスタッフ(東京・渋谷)など大手派遣会社が積極的に制度を利用、派遣期間終了後に7、8割のスタッフが派遣先に正社員として採用されている。受け入れ企業側は派遣中に適性や技能を見極めることができるため、即戦力の獲得に活用するケースが多い。「将来は転職の1割が派遣経由となる」(テンプスタッフ)との見方も出てきた。
 
適性見極め即戦力に 求人企業、採用コスト削減
 紹介予定派遣を希望する人材は、まず人材派遣会社に登録、正社員としての採用も視野に入れている求人企業があれば送り込まれる。派遣期間は最長1年間だが、日本では3ヶ月未満が一般的。
 期間終了後にスタッフ本人と派遣先の求人企業が合意すれば正社員雇用に切り替える。正社員採用が成立した場合、派遣会社には採用者の年収の最大25%の手数料が入る。
 テンプスタッフの場合、この1年間で大学の新卒者240人と転職希望者500人の合計740人を紹介予定派遣として企業に派遣した。まだ派遣中の人材もいるが、派遣期間の終了後370人が求人企業の正社員として採用された。職種別では事務と営業が主力で、「年齢層では20代後半の若手社員が多い」(同社)という。
 リクルートスタッフィング(東京・千代田)は今月から、銀行に窓口担当者ら20人弱の派遣を始めた。準大手のプロフェシオはクレジットカード会社に営業担当10人を正社員候補として送り込んだ。
 正社員採用時の手数料収入など通常の派遣より利幅が大きいため、人材派遣各社は2002年度に紹介予定派遣人数を大幅に増やす計画だ。
 1年間で65人を派遣したプロフェシオは来年度は500人に増やす。大手のマンパワー・ジャパン(東京・千代田)も今年の約3倍の1,000人を送り込む予定だ。
 紹介予定派遣が広がる背景には企業の採用コストが重い点がある。「1回の求人で200-300人の応募があるが、採用に至るのは1%以下。募集広告や選考、面談に1人あたり100万-150万円の費用がかかる」(大和証券グループ本社)という。紹介予定では、派遣会社が人員の募集・選考を担うため、求人企業の採用比を軽減できる利点がある。
 また「派遣登録者の7割は将来、正社員採用を望んでいる」(リクルートスタッフィング)。このため人材派遣各社は正社員志向のスタッフの登録を掘り起こしている面もある。
厚生年金空洞化の兆し 「未加入」2割

2001/12/ 8 日本経済新聞朝刊

  保険料重荷 企業が敬遠
 法律で加入が義務づけられているにもかかわらず、厚生年金に入らない企業が増えてる。零細企業が保険料負担を嫌い加入を見送っているためで、加入義務のある事業所のうち2割程度は非加入とみられる。正社員を加入義務のないパートに切り替える動きもあり、加入者(被保険者)数はピークから130万人も減った。すでに非加入問題が深刻化している国民年金に加え厚生年金でも「空洞化」が進むと、公的年金制度は大きく揺らぎかねない。
 厚生年金は保険料が労使折半のため事業所単位で加入することになっている。法人すべてと従業員5人以上の個人事業所に加入義務があるが、加入事業所数は1997年度末の170万をピークに減少に転じ、昨年度末には167万に減少した。これは加入対象事業所がほぼ重なる雇用保険の83%で、残りは最初から加入していなかったり、事業所移転などを機に途中で制度から抜け出たりして非加入になっているとみられる。
 
未納黙認も
 非加入が増えているのは保険料が事業主負担分だけで給与の8.675%(労使合わせて17.35%)にも達するからだ。景気低迷で資金繰りが苦しくなっている零細企業などには、「労使合わせて保険料が1.2%の雇用保険には加入できても、厚生年金は負担が重すぎる」という声が多い。加入企業でも、2年以上保険料を納められずに徴収不能と見なされる「欠損」が年々増えている。
 厚生年金に加入しない場合、事業主に罰金(30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役)を課すことになっているが、実際に適用した例はない。赤字企業に納付を強制すれば倒産に追い込みかねないためで、非加入や保険料の未納を黙認することもあるという。
 
パート移行
 事業所の加入が減った結果、加入者数も昨年度末には3,219人となり、ピーク時の97年度から3.8%減少した。加入している企業の間でも、公的年金など社会保険に加入しなくてもすむ短時間就労のパートを採用する動きが加速しており、総務省の労働力調査の雇用者数に対する厚生年金加入者の比率は70%にとどまっている。
 公的年金のうち国民年金は若者を中心に対象者の2割弱が保険料を納めておらず、一足早く非加入が問題化している。厚生年金でもこのまま加入減が止まらなければ、全体の加入者の大半を占める公的年金の2本柱でともに空洞化が進むことになる。
10万人の雇用創出 緊急雇用対策法きょう成立

2001/12/ 7 日本経済新聞朝刊

   参院厚生労働委員会は6日、45歳以上の人を対象に人材派遣の期間を最長3年に延長したり、職業訓練期間中の失業手当の給付期間を延ばしたりすることを可能にする雇用対策臨時特例法案を与党などの賛成多数で可決した。企業の経営破たんの増加で、再就職が難しいといわれる中高年の失業はさらに深刻になるとみられる。政府は規制緩和と職業訓練の充実で雇用を年10万人以上増やすことをめざす。
 
中高年の派遣期間延長
 改正法案は7日の参院本会議で成立する見通し。成立すれば政府は来年1月に施行する考えだ。
 6日の青木建設の民事再生法の適用申請など、金融期間の不良債権の処理加速に伴って経営不振企業の破たんが今後も続くのは確実だ。中高年層を中心に失業者の増加は避けられず、再就職を円滑にする支援策が課題になっている。
 派遣社員の派遣期間は現在、販売・営業などの業務について最長1年となっている。人材派遣各社から「社員が仕事に慣れたころに派遣期間が終わるので使いにくい」と派遣期間の延長を求める声が強く出ていた。
 法案は45歳以上の社員に限った特例として派遣期間を最長3年に延ばし、企業が中高年の派遣社員を活用しやすくする。厚生労働省によると、この規制緩和による中高年の雇用創出効果は年間約5万人。今年10月に派遣社員を受け入れている企業を対象に実施した緊急アンケートでは、ほぼ5社に1社の割合で中高年の受け入れを希望しているという。
 職業訓練では45-59歳に限って失業手当の給付期間が切れた後も訓練期間中は手当てを支給する「訓練延長給付制度」を拡充する。現在この制度を利用して訓練を受けられるのは1回限りだが、十分な訓練時間を確保して再就職に必要な能力が身につけられるように2回目の訓練も認める。
 利用者は1回目の訓練終了後に公共職業安定所のカウンセリングを受け、再就職のためにどんな訓練を受けるのが望ましいかの支持を受ける。1回目の訓練終了から2回目の訓練開始までの期間(最長30日)も失業手当を支給してもらえるなど、安全網が強化される。
 経営を革新するため中高年を雇い入れる中小企業向けの助成制度を新設し、事業主は1人を雇用すると賃金相当額の4分の1を支給される。厚労省はこれに伴う雇用創出効果を年1万人と推計している。
 総務省によると、10月の完全失業率は45-54歳は3.7%だが、55-64歳だと6.1%に跳ね上がっている。
給付カット 企業に広がる

2001/12/ 6 日本経済新聞朝刊

  一般社員も対象3-12% ITや鉄鋼目立つ
 不況にあえぐ企業の人件費削減が一般社員の月々の給付にまで及んできた。従来の景気後退時には役員報酬や管理職給与のカット、一般社員については賞与や残業時間の削減といった対策にとどまるケースが大半だった。一種の聖域でもある月々の給与にまで踏み込む企業が急増しているのは、今回の不況の深刻さを浮き彫りにするとともに、労働組合が賃金よりも雇用優先に傾いていることを物語っている。
 
 給与カットを決めた企業は情報技術(IT)不況の荒波をまともにかぶった業種に目立つ。横河電機は半導体検査装置の受注落ち込みで、9月中間決算は54億円の赤字に転落した。「赤字は企業として株式に対する責任を果たしていない」として11月分からカットを実施した。
 三菱マテリアルもシリコンウエハーなどの電子材料が極度の不振で、2002年3月期は赤字転落が避けられない。2年前に希望退職を実施したばかりということもあって「組合員も含め、痛みを分け合って回復を目指す」という。
 鳥取三洋電機は今春完成させた世界最大級の液晶工場がIT失速で本格稼働せず、苦境に陥った。九州不二サッシは新規事業の半導体製造装置用部品などがIT不況の逆風を受けた。日本通運も収益源の航空貨物の取扱量が激減した。
 過剰設備で構造的な不振に陥っている鉄鋼業界でも賃金カットが相次ぐ。神戸製鋼所は「過当競争で深刻な不況にある」(水越浩士社長)との認識から、即効性のある賃金カットを労組に提案した。住友金属工業も出向者の転籍などによるコスト削減では追いつかないことから決断した。
 具体的な削減方法は企業によって異なる。日本通運は本給や諸手当で構成する基準内賃金を削減。トクヤマも基準内賃金で削る。九州不二サッシは基準内賃金をカットするほか、住宅手当(1人月約1万円)の支給もやめた。
 鳥取三洋電機は基本給を12月から1割前後カットするが、来年4月には定期昇給を実施し、そのうえで再度1割カットして「定昇の実施とその分の賞与への反映」を求める労組の要求に配慮した。
 神鋼と住金は年収をベースに削減する予定で、労組との交渉次第では、一時金でまとめて削減し、月例給与は従来のままとする可能性もある。
 給与カットの幅は一部を除くと3-6%が中心。給与の減額幅は40歳で月に1万-2万円程度になるものとみられる。神鋼の場合は管理職を含めた全従業員の年収を5%削減する計画なので、1人あたりの削減額は平均で年間30万円程度になる見込み。年間の所得が減れば、所得税も減るので、純粋な手取りの減少額はこれよりも小さくなる。
 企業は業績が悪化するとまず役員報酬や管理職の給与・賞与カットに取り組む。年俸制などを採用している管理職の場合は削減は容易だが、労働組合員となっている社員の給与カットは労組の抵抗もあり、企業も聖域視してきた。
 しかし、企業の収益に対する人件費の割合を示す労働分配率は企業収益の低迷もあってバブル崩壊以後は上昇。1995年あたりから米国を超えたとみられており、これが日本企業の国際競争力を失わせる要因の1つとも指摘されている。グローバル競争で生き残りを賭ける企業があえて給与カットに踏み切れるのもこうした背景もありそうだ。
 
雇用と賃金労組板挟み
 賃金カット提案に労働組合は複雑な表情を見せる。しかし、旭ダイヤモンド工業の労組のように「業績は悪化しているが経常赤字ではない」と強く抵抗している労組は少ない。大半は提案を了承している。
 上新電機労組は「産業界が人件費抑制の流れになっており、業績から判断してもやむをえない」と受け入れを決めた。三菱マテリアル総連も「カット率を下げる交渉をするが、あまり下げると対策の意味がなくなる。厳しいことは承知している」(労組幹部)と、今回の対策が終了したときの明確な経営戦略や処遇を含めた役員の責任追及を中心に交渉に臨む方針だ。
 賃金問題に詳しい社会経済生産性本部の北浦正行・社会労働部長は「次の春闘の最大のテーマは雇用。企業業績は今年度下半期も悪化しており、組合は賃金で譲歩しても雇用を守ることを優先するはず」と指摘。ワークシェアリング(仕事の分かち合い)導入の論議が一段と強まると予測している。
残業時間15.9%減 10月製造業 8ヶ月連続現象

2001/12/ 3 日本経済新聞夕刊

   厚生労働省が3日発表した10月の毎月勤労統計(速報)によると、製造業の所定外労働時間(残業時間)は12.2時間と前年同月より15.9%減った。8ヶ月連続の減少で、情報技術(IT)関連などの生産不振が主因。減少幅は毎月(14.0%)より拡大した。
 製造業の残業時間は足元の経済状況を示す。従業員30人以上の事業所の残業時間は前年同月比16.6%減と一段と落ち込み、大企業の製造業を中心に生産調整が一段と深まっている。全産業の残業時間は同8.1%減の9.2時間になった。
 所定外給与(残業代)は17,560円と、前年同月より8.6%減った。所定内給与、ボーナスなど「特別に支払われた給与」はいずれもマイナス。全体の現金給与総額は前年同月比1.2%減の285,698円と、6箇月連続で減った。

【Add 2001.12. 2】

  失業率5.4% 最悪更新 10月リストラ加速

2001/11/30 日本経済新聞夕刊

   総務省が30日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は5.4%と前月より0.1ポイント上昇し、2ヶ月連続で過去最悪の記録を更新した。特に男性の完全失業率は運輸・通信業や製造業、建設業などのリストラ加速を受け、前月より0.4ポイント上昇し、過去最悪の5.8%。厚生労働省は雇用情勢について「厳しさを増している」と分析、民間エコノミストからは失業率は今後上昇するとの声も出ている。
 坂口力厚生労働相は30日の閣議決定後の記者会見で、完全失業率の悪化について「大変厳しい状況となった」と表明。雇用対策だけに問題に対応するのは「限界に近づきつつある」と述べ、経済全体を活性化するための総合的な政策が必要だと強調した。
 求職者1人あたりの求人数を示す有効求人倍率(季節調整値)は0.55倍と前月比0.02ポイント低下した。
 完全失業者数は352万人と、前年同月比で7ヶ月連続の増加。このうち企業の倒産・解雇などによる非自発的失業者は114万人となり、45-54歳の男性を中心に増えた。
 男性の完全失業率が5.8%と過去最悪になったのに対して、女性はパートなど短時間就業が増えたことから前月よりも0.4ポイント低下し、4.8%だった。世帯主の完全失業者は前年同月と比べ16万人増え、金融危機に直面した1998年の年平均と同程度の増加幅となった。世帯主の完全失業率は3.7%と過去最悪を更新した。
 就業者数は前年同月を103万人下回る6,405万人と7ヶ月連続で減った。100万人を上回る規模の就業者数の減少は、第一次石油危機の影響を被った74年10月以来27年ぶり。
 業種別にみると、米同時テロの影響を受けた航空会社を含む運輸・通信業が前年同月比16万人減と5ヶ月ぶりにマイナスに転じ、サービス業を除くすべての業種で減少した。製造業は83万人減と減少幅が拡大した。
 厚労省が同日発表した10月の有効求職者数(季節調整値)は前月比で4.4%増えたものの、有効求人(同)は前月比で0.6%減った。新規求職者1人あたりの新規求人数を示す新規求人倍率(同)は0.87倍と前月より0.13ポイント低下し、1年6ヶ月ぶりに1倍を割り込んだ。
サラリーマンの医療費 3割負担 先送りで決着

2001/11/30 日本経済新聞朝刊

  政府 「2003年4月実施」 与党になお異論
 政府・与党は29日、2002年度からの医療制度改革の大枠で合意した。調整が難航していたサラリーマン本人の患者負担(現行2割)の3割への引き上げについては「必要なとき」に実施するとの表現を医療制度改革大綱に盛り込むことで決着した。政府は医療保険料の徴収基準を月収から年収に変える「総報酬制度」の導入と合わせて、当初予定より半年遅れとなる2003年4月から実施する考えだ。
 政府・与党社会保障改革協議会は同日夜の会合で、医療制度改革大綱を正式に決定した。政府は来年の通常国会に健康保険法改正案など関連法案を提出、2002年10月から順次実施したい考えだ。小泉純一郎首相は協議会の冒頭で「(患者、保険加入者、医療機関で痛みを分かちあう)三方一両損の考え方は守られていると思う」と合意を評価した。
 サラリーマンの患者負担の引き上げをめぐっては、2002年10月からの実施を目指す首相側に、受診抑制につながることを懸念した自民党の厚生族議員が激しく反発し、調整が難航していた。首相は同日午後から自民党の山崎拓幹事長、麻生太郎政調会長ら党五役と断続的に対応を協議。最終的には山崎幹事長が提示した妥協案を受け入れ、引き上げ時期について玉虫色の表現とすることで決着した。
 政府は「医療保険財政はひっ迫している」として、2003年4月に予定する保険料への総報酬制導入と同時に、患者負担を3割に引き上げる方針を関連法案に明記する考え。党五役はこれを了承したが、自民党の厚生族議員は「患者負担の引き上げは保険料の引き上げと同時ではない」(丹羽雄哉医療基本問題調査会長)と説明しており、与党が法案を審査する段階で再び調整が難航する可能性も残っている。
 このほか70歳以上の高齢者の自己負担については定率を1割とする一方、高所得者に限って2割に引き上げる。外来の月額上限(大病院5,000円、中小病院3,000円)は撤廃し、外来・入院にかかわらず同じ水準に統一する。健康保険組合などから財政支援を受ける高齢者医療制度の対象年齢は現行の70歳以上から75歳以上に引き上げる。
 高齢者医療費に強制的な上限を設ける「伸び率管理制度」の導入は見送る一方、診療報酬体系の合理化などを通じて高齢者医療費の伸びを極力抑える指針を法律に明記する。
 医療機関に支払う診療報酬(薬価を含む)は「引き下げの方向で検討、措置する」と明記したが、具体的なマイナス幅は年末の来年度政府予算案決定に持ち越した。
 
医療制度改革大綱の骨子
サラリーマン本人の患者負担(現行2割)を「必要なとき」に3割に引き上げ。政府は2003年4月実施を目指す。
サラリーマンの医療保険料の徴収基準を月収から年収に変更する「総報酬制」を2003年4月に導入
70歳以上の高齢者の患者負担は定率1割(高所得者は2割)。外来・入院にかかわらず同じ月額上限を適用する
高齢者医療制度の対象年齢(現行70歳以上)を75歳以上に引き上げ
高齢者医療費の伸び率抑制へ指針を作成し、法律に明記
2002年度の診療報酬(薬価を含む)は引き下げの方向で検討
未払い賃金 立て替え限度296万円に上げ 労政審答申

2001/11/30 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は29日の労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)に、倒産企業に勤めていたサラリーマンの未払い賃金を国が立て替え払いする制度の拡充案を諮問し、「妥当」との答申を得た。45歳以上の中高年が受け取ることのできる限度額を現在の136万円から296万円に引き上げる内容。失業者の生活を支える安全網の強化の一環で、来年1月から実施する。30歳以上45歳未満の人の限度額は現行の104万円が176万円、30歳未満の人は56万円が88万円にそれぞれ引き上げられる。
ワークシェアリング 政労使で検討会

2001/11/28 日本経済新聞朝刊

  日本独自の形態を探る
 厚生労働省は1人あたりの労働時間を減らして仕事を分かち合う「ワークシェアリング」の導入に向け、政府と経済界、労働界による検討会(仮称)を創設する準備に入った。欧州の経験を踏まえた日本での導入方法や、その際の政府の支援策などを話し合うのが目的。年内の創設をめざして労使双方と調整を急ぐ。
 政労使三者による検討会は坂口力厚生労働相が事務当局に指示した。日経連と連合は10月末にワークシェアリングに関する共同の研究会を設置したが、検討会はこれとは別に創設、政労使が一定の社会合意を視野に協力策を協議する場とする構想だ。
 ワークシェアリングには(1)企業の業績不振に対応して一時的に労働時間短縮(時短)と賃金削減を実施する「緊急避難型」(2)パート社員や派遣社員など非正社員の活用を促す「多様就業対応型」(3)法定労働時間を短くして雇用労働者を増やす「雇用創出型」--などの種類がある。
 坂口厚労相は日本で導入するには「まずどのタイプで行くかを決めなければならない」と述べており、検討会は日本の実情にあったワークシェアリングの形態を最優先で検討する見通しだ。
 例えば多様就業対応型の場合だと、非正社員のセーフティネット(安全網)を整えるため、税制、年金などの社会保険の適用方法の見直しが必要となる。厚労省は労使双方の意見を聞きながら具体的な支援方策を探る構えだ。
医療保険 一元化目指す 政府・与党抜本改革案まず統合・再編

2001/11/28 朝日新聞朝刊

   政府・与党社会保障改革協議会の医療制度をめぐる抜本改革案が27日明らかになった。サラリーマンが加入する健康保険組合や自営業者らの国民健康保険など、負担がばらばらな医療保険制度の一元化を将来の方向とすることや、複雑で医療の進歩に対応していない診療報酬体系の抜本改革を、ともに「極めて重要」と明記している。抜本改革については、政府と自民党など与党3党も一致しており、29日の協議会で決定する最終報告にも盛り込まれる。
 いずれも実現までには一定の時間がかかるとみられるが、政府・与党の方針として確認されることで、医療改革に拍車がかかりそうだ。
 抜本改革案は、まず医療保険制度の一元化の方向と手順を示した。制度間で異なる負担を公平にできるとともに、小規模な保険者の財政負担を防ぐ狙いがある。
 その第一段として(1)サラリーマンが対象の被用者保険については保険者の自立性や自主性を尊重しつつ、現行の規制を緩和して統合・再編を進める(2)自営業者を対象とし市町村が保険者となっている国民健康保険は、市町村合併の動きと並行して統合・再編を進め広域化を図る、との方針を示した。いずれも具体的な目標を掲げるとしている。
 ただ、被用者保険と国保の最終的な統合については「1つの有力な考え方」としながらも、経済基盤や所得の把握が違うため、国民の理解を得るには、相当な時間が必要としている。
 一方、高齢者医療制度については、現役世代が中心の医療保険から拠出金の扱いを中心に論議をさらに進め、支払い能力のある高齢者の負担や、新たな財源の確保などを含め、公平で安定的な制度の構築が必要と指摘している。
 さらに現行の診療報酬体系については医療技術の進歩や医療提供体制の変化に対応しておらず、過度に複雑になっていると批判。医療技術や医療機関の運営コストが適切に反映され、分かりやすい体系へ転換を進めると明記している。

【Add 2001.11.25】

  医療費本人負担1割下げ 保険料率は0.54ポイント低下 政管健保で厚労省試算

2001/11/25 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は2002年度の医療制度改革で、中小企業の社員が加入する政府管掌健康保険の保険料率をどの程度引き下げられるかを試算した。制度改革をしない場合に比べ、保険料率は全体で0.7ポイント下がって8.3%になる見通しだ。このうち加入者本人の医療費負担割合を現行の2割から3割に引き上げることで0.54ポイントの料率引き下げ効果を見込んでいる。
 このほか高齢者医療費に上限制を設けることで、0.1ポイントの料率引き下げ効果を想定。高齢者医療制度の対象者を現在の70歳から75歳に上げれば、現役世代が負担している拠出金が減るため、0.14ポイントの保険料率引き下げにつながるという。ただ厚労省の制度改革案には、料率引き上げにつながるものも含まれている。
 与党内では、厚労省が改革案に盛り込んだ患者負担増や高齢者医療費への上限制導入などへの反発が強く、一部の実施見送りや先送り論が広がっている。ただ改革を先送りすればその分、保険料率を引き上げざるを得ない可能性がある。

【Add 2001.11.24】

  大卒初任給2年ぶり増 厚労省調査

2001/11/23 朝日新聞朝刊

   今年の大卒の初任給は19万5,100円(前年比0.7%増)と2年ぶりに増えたことが、厚生労働省が22日発表した賃金構造基本統計調査でわかった。男子は19万8,300円(同0.7%増)、女子は18万8,600円(同0.6%増)。「景況感がやや上向きだった時期に、採用が決まっていたためではないか」と同省では説明している。
 高卒は前年比0.6%増の15万4,000円で、やはり男女ともに増加。一方、高専・短大卒の初任給は横ばいの16万5,900円で、女子が0.1%増(16万3,800円)だったのに対し、男子は0.8%減(17万300円)で、唯一、前の年より下がった。
男女の賃金格差 厚労省が研究会

2001/11/22 日本経済新聞夕刊

   厚生労働省は、男女間の賃金格差について要因や企業の諸制度が及ぼす影響などを分析する研究会を発足することを決めた。メンバーは学識経験者ら8人で、27日に第1回会合を開く。
 厚労省によると、正社員の所定内給与でみても女性は男性の約6割で、格差縮小の動きは鈍いという。研究会は賃金格差に影響を与える家族手当の今後の動向なども検討に加える考えだ。約1年かけて格差解消のための方向性を示した報告書をまとめ、労使双方に提案する。
差額ベッド増床 容易に 「高くても良い医療」拡大

2001/11/22 日本経済新聞朝刊

  厚労省が規制緩和 来年4月から
 厚生労働省は公定価格の保険診療と医療機関が独自に価格を決める自由診療との併用を認める「特定療養費制度」を2002年度から大幅に拡充する。高い料金を払ってでもより良い医療を受けたいという患者の声にこたえるのが狙い。医療機関は通常の病室よりも環境が良い「差額ベッド」を増やしやすくなる。診察予約料もとりやすくなるので、大病院の混雑解消にもつながる。
 21日の中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)の診療報酬基本問題小委員会に基本的な考え方を示した。年明けの中医協総会で細部を詰め、来年3月までに全国の医療機関に通知、同4月から実施する予定だ。
 現在、1つの病院のベッドのうち半分までは差額ベッドにできるが、それ以上は厚労省の承認が必要。今回の規制緩和で、大学病院などは7-8割まで承認なしで差額ベッドとすることが可能になる。
 患者が自らの治療法について複数の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」の普及策も導入する。最初に診察した医師は、ほかの医師への情報提供料を患者に請求できるようにする。別の意見を求められた医師は患者に相談料を求めることができる。
 また大病院で診察待ちの患者の混雑を解消するために、診察予約料をとりやすくする。現在も予約料をとることはできるが、条件が細かすぎるために実際に導入している病院は少ない。このため予約料をとる条件を緩和するほか、患者が特定の医師を指名する際に料金を上乗せするのも認める。大病院から診療所などを紹介してもらったにもかかわらず、再び大病院で治療を求める患者には再診料を上乗せできるようにする。
 臓器移植など高い医療技術が必要な「高度先進医療」にも価格の上乗せを認める。現在、対象はベッド数300以上の大学病院などに限っているが、こうした要件を引き下げることなどで、高度医療を実施できる医療機関を増やす。
 医療機関側に自由な価格設定を認めれば金持ち優遇のおそれが出てくる。同省は「弱者を締め出さないように運用する」(保険局)としている。
再就職1人に30万円助成 あっせん依頼企業の厚労省

2001/11/22 日本経済新聞朝刊

   労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は21日、民間の人材紹介会社や再就職支援(アウトプレースメント)会社に、従業員の再就職先のあっせんを依頼する事業主を助成する「最終就職支援給付金」(仮称)を創設する省令改正案要綱を答申した。厚労省は改正省令を12月1日から施行する。
 この給付金はリストラのため1ヶ月に30人以上の人員削減を計画し、離職予定者の再就職援助計画を作成した企業が対象。アウトプレースメント会社などへのあっせん費用の4分の1(1人当たり上限30万円)を支給する。
 民間の再就職支援会社は求人情報の提供や進路相談などで公共職業安定所よりきめ細かな求職者向けサービスが期待できるが、1人当たり100万円前後の高額な費用が必要。厚労省は給付金を使ってこうした企業の負担の一部を肩代わりし、民間のノウハウを通じて円滑な労働移動を促す。
 希望退職に応じた45歳以上、勤続10年以上の従業員を6ヶ月-2年の間休業させる事業主に助成する「退職前長期休業助成金」も創設する。いっぺんに大量の離職者が出るのを防ぐ「激変緩和」の効果を狙ったもので、事業主が休業期間中に払った手当、教育訓練費用のそれぞれ3分の1(上限はいずれも1年間)を支給する。
派遣社員の健保 来春に 業界挙げ設立 待機中も加入

2001/11/20 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は人材派遣会社でつくる日本人材派遣協会に対して、派遣社員が加入できる総合健康保険組合の2002年4月設立を認可する。派遣社員が求職期間中に健保に継続して加入することも認める。派遣社員は働いている間は派遣元の健康保険に加入するが、手続きが煩雑なため加入を見送る人も多い。業界全体で総合健保組合を設立すれば、不備も目立っていた派遣社員の医療保障が充実し、雇用形態の多様化に対応できる。
 派遣社員が正社員の4分の3以上の労働時間で2ヶ月以上続けて働く場合、何らかの健康保険制度への加入が義務づけられている。派遣元の会社の政府管掌健康保険に加入する場合が多いが、派遣期間が終われば無職扱いとなるため、国保に移らなければならない。
 健保から国保に移る場合は派遣社員が自ら市町村の窓口で手続きをするが、短期間に勤務先が変わる場合には手続きが面倒なため、国保に入ったままの人や、国保にも健保にも入らず保障にない状態の人も多い。派遣会社側も健保保険料の事業主負担を嫌って、健保加入を積極的に呼びかけない例もある。
 厚労省は派遣社員が次の派遣先を見つけるまでの空白期間が1ヶ月以内なら、すでに加入している健保に継続して加入することを認める。新設の総合健保は派遣社員の働き方に配慮し、空白期間が1ヶ月を超えても派遣社員の負担が増えないで加入し続けることができる。
 同協会は派遣社員は平均年齢が低いため総合健保組合を設立すれば政管健保より保険料率を抑えられるとみている。人材派遣社員には全国で約100万人が登録している。このうち新しい健保組合に加入するのは数万人程度になる見通し。
 派遣社員や転職者が増えるなど雇用の流動化は徐々に進んでいる。健康保険でも派遣社員の扱いが改善されれば、働き方の多様化を進める要因になるとみられる。
医療費負担 70-74歳 増加率大きく

2001/11/20 日本経済新聞朝刊

  今後14年間 厚労省案導入で
 厚生労働省の医療制度改革案について、同案が実現すると1人当たり医療費負担(保険料と患者負担など)の増加率は、70-74歳の年齢層だけ現行制度が続いた場合よりも大きくなるとの試算を富士通総研がまとめた。
 富士通総研は現行制度が続く場合と厚労省案を予定通り2002年度に導入した場合の両方について、2000年度から2015年度に1人当たり医療費負担がどう増加するか試算した。経済成長率が1%の場合、1人当たり負担は64歳以下で1.74倍、75歳以上も1.49倍となり、現行制度が続いた場合(1.82倍、1.65倍)と比べて負担の増加率は低くなる。
 厚労省案では現役世代の会社員は受診時の自己負担が医療費の2割から3割に上がるため患者は通院回数を抑え、結果的に1人当たり負担も軽くなる。高齢者医療費も経済成長率に連動して上限を設ける「伸び率管理制度」を導入することから1人当たり負担は現行制度より軽くなる。
 一方で70-74歳は現在は高齢者医療制度で公費助成と現役世代の健保組合などから財政支援を受けているが、制度改革で高齢者医療制度の対象から外れる。対象から外れると医療機関で支払う自己負担が2割と現行の2倍に急増するため、医療費の伸びが現行制度より小さくなっても1人当たり負担は重くなる。
 1人当たり負担は保険料と受診時に医療機関で支払う自己負担、公費負担分の合計額で、物価上昇の影響を除いた実質値。厚労省は制度改革が1人ひとりの受益・負担に及ぼす影響は試算が困難として示しておらず、制度改革の功罪が国民から見えにくい一因と言われる。富士通総研の試算は世代別の負担変化を初めて示すもので、制度改革論議にも影響を与えそうだ。

【Add 2001.11.18】

  国内で12万人削減 希望退職他業種に 上場82社計画

2001/11/18 日本経済新聞朝刊

   上場企業今年発表した国内の人員削減計画(一部自然減含む)が12万人強に達した。情報技術(IT)不況が深刻な電機・情報関連企業をはじめ、流通や医薬など幅広い業種で希望退職などに踏み切る企業が増えている。総人件費を抑えるためのグループ会社への転籍や、分社化による事実上の賃金引き下げの動きも加速。終身雇用や右肩上がりの賃金を前提にしてきた企業の雇用・人事戦略は大きな転換点を迎えた。
(以後、略)
パート 厚生年金に誘導 「女性の年金検討会」報告書案

2001/11/17 日本経済新聞朝刊

   厚生労働相の諮問機関である「女性の年金検討会」は16日、報告書案をまとめた。夫と専業主婦を前提にした制度から、女性が働けば年金で報われる制度に変える内容で、2004年の次期制度改革に盛り込む。パート労働者の厚生年金への加入拡大など保険料を負担する年金の「支え手」も増やす。専業主婦の保険料を免除している制度は意見が割れ、とりまとめを断念、現状維持となった。
 
「女性の年金検討会」報告書骨子
(1) 標準的な年金(モデル年金)
  夫だけが働く専業主婦世帯から共働き世帯に変更
(2) パート労働者への厚生年金の適用
  労働時間と年収の適用基準を下げ、パートの加入を拡大
有力案は労働時間:正社員の3/4 → 1/2 年収下限:130万円 → 65万円
(3) 専業主婦の保険料免除(第3号被保険者)
  免除の是非をめぐる意見集約できず
(4) 育児支援など
  今後検討
(5) 遺族年金
  妻が働き自分の厚生年金を持てば遺族年金との合計受給額が増えるよう併給基準を見直す
(6) 離婚時の年金分割
  分割が可能となる仕組みを導入

保険料免除 専業主婦は継続
 検討会は12月に最終報告書をまとめ、厚生労働省は社会保障審議会で制度の具体策作りに入る。
 
パート300万人 厚生年金加入
 企業の正社員を主な対象とする厚生年金の適用基準を緩和、主婦パートなどの加入を促す。現在、適用基準に達していないパートは国民年金に加入しているが、会社員や公務員の夫が扶養する主婦らは年収130万円未満なら国民年金保険料の支払いが免除されている。雇用者全体に占めるパートの比率は約2割に上昇しており、厚生年金保険料の担い手が今後、減る恐れがあり、基準緩和に踏み切る。
 パートは現在、就業時間が正社員の4分の3以上の人だけが厚生年金に加入しているが、この基準を就業時間2分の1以上、年収65万円以上に引き下げる案が有力。この案を適用すると新たにパート主婦が300万人近く厚生年金に加わるとの試算もある。
 
共稼ぎ世帯モデル 給付減額論の下地
 働く女性が増えたため、標準的な年金額を示す「モデル年金」の基準を会社員の夫と専業主婦の世帯から共働き世帯に切り替える方向。世帯の年金受給額は増えるため、給付水準の引き下げ論を招きやすくなる。
 現在のモデル年金額は夫婦で受け取る全国民共通の基礎年金2人分と夫の厚生年金(報酬比例部分)の合計約238,000円。改定では平均的な夫婦世帯を基準にする。女性の平均的な厚生年金受給額(約16,000円)を上乗せすると25万円強になる。
 
遺族年金受給者 働けば有利に
 厚生年金加入の夫が死亡すると、扶養されていた妻は亡夫の厚生年金(報酬比例部分)の4分の3の遺族厚生年金を受給できる。老後に亡夫の遺族厚生年金を受け取る妻は多く、現在約300万人が受給している。
 妻本人に勤務経験がある場合は老後に自分の基礎年金に上乗せする年金として夫の遺族厚生年金ではなく、自分の厚生年金か、夫と自分の厚生年金の合計額の半額を併給する選択肢もある。ただ、妻本人の収入が亡夫の半額未満なら遺族厚生年金だけを受け取った方が多くなり、約8割の人は自分の厚生年金をもらわない道を選んでいる。
 この供給基準を夫の厚生年金の合計額の5分の3程度に引き上げ、自分の厚生年金を受け取った方が年金額が増える人を増やす方向。遺族厚生年金だけを受け取る妻の受給額を夫の年金の4分の3から5分の3に下げる公算が大きく、勤務経験のない妻の年金水準は下がる。
 
専業主婦徴収は「収入なく無理」
 会社員の夫に扶養される専業主婦の保険料を免除し、給与所得者全員でその分を肩代わりする「第3号被保険者」制度の是非については意見が割れた。保険料免除は専業主婦優遇という批判がある一方、収入のない主婦に負担を求めるのは無理との意見もあり、まとまらなかった。今後も年金部会で検討を続けるが、当面は現状維持の方向だ。
遺族年金の給付抑制 検討会報告案

2001/11/16 日本経済新聞朝刊

  女性就労拡大へ制度改革
 厚生労働相の諮問機関である「女性の年金検討会」は2004年の次期年金制度改革に盛り込む女性の年金に関する報告書案を固めた。夫と死別した女性が全く働かないで老後を迎えた場合の遺族年金の給付を抑制し、働いて厚生年金に加入した方が年金が増える仕組みを検討する。パート労働者の厚生年金への加入拡大や給付モデルを共働き夫婦に転換する方針なども打ち出す。夫婦やパート労働者の厚生年金への加入を促すことで保険料を負担する年金の「支え手」を拡大し、制度の空洞化を防ぐ。
 
パート加入促進も明記
 同検討会は12月に最終報告をまとめる。これを受けて厚生労働省は社会保障審議会年金部会で次期制度改革の具体策の検討に入る。
 焦点の専業主婦の保険料免除制度の是非については意見がまとまらず、現行制度を維持する方向だ。
 夫と死別した女性が受け取る遺族年金の見直しが報告書の柱のひとつ。現在は厚生年金に加入していた夫が死亡すると、扶養されていた妻は亡夫の厚生年金(報酬比例部分)の4分の3の遺族厚生年金をすぐに受給でき、65歳になるとこれに加えて自分の基礎年金を受け取る。この時点で妻本人に勤務経験がある場合は基礎年金に加え、夫の遺族年金ではなく、自分の厚生年金か、遺族厚生年金の3分の2(夫の厚生年金の2分の1)と自分の厚生年金の2分の1の併給という道も選べる。
 現在は妻の収入が亡夫の半額未満ならば、働いて厚生年金などに加入するよりも遺族厚生年金だけ受け取る方が有利になる場合が多く、約8割は自分の厚生年金を受け取らず夫の遺族年金だけを受給している。これが「働いて納めた保険料が無駄になった」という不満を招いている。
 このため併給基準を見直し、全く働かないで老後を迎えた妻が受け取る遺族厚生年金との併給を選んだ方が有利になる層を増やす方向で検討する。
 雇用の多様化デパートを雇う企業が増えているため、正社員を主な対象とする厚生年金の加入基準を緩和し、パートの加入を促す。現在は就業時間が正社員の4分の3以上の人だけが加入しているが、これを2分の1以上に引き下げるほか、年収65万円以上でも厚生年金への加入を義務づける案が浮上している。
 
「女性の年金検討会」報告書案ポイント
パート労働者の厚生年金加入=労働時間や年収などの適用基準を下げ、パート労働者の加入を拡大
遺族年金=妻本人が働いた方が有利な年金を得られるよう基準の見直しを検討
年金モデル世帯=夫だけが働く世帯から「共稼ぎ夫婦世帯」に変更
離婚時の年金分割=合意すれば分割する選択肢を設ける方向
専業主婦の保険料免除(第3号被保険者)=免除制度をめぐる意見が割れ、当面は現行通り免除制度を維持する方向
子育て支援策=子育て世帯を支援する方策を検討
過労死 認定基準を緩和 厚労省

2001/11/15 日本経済新聞朝刊

  勤務 発症前の半年で判断
残業 月平均80時間が目安
 厚生労働省は、長時間労働などが引き起こす過労死の労災認定基準を大幅に緩和することを決めた。同省の専門検討会が15日にまとめた報告書を受けたもので、勤務状態との因果関係を判断する期間を原則「発症前1週間」から「発症前6ヶ月」に拡大、疲労の蓄積の要員となる残業時間の目安を「発症前1ヶ月間に100時間以上、あるいは月平均80時間以上」と明示する。
 厚労省は年内にも全国の労働基準監督署に基準変更の通達を出す。同省は通達後の認定や不服審査で新基準を適用する考えで、過労死の労災認定が増えそうだ。
 現行の過労死認定は、「発症前1週間以内」の就労状況を評価し、「1週間より以前も総合的に判断する」ことを求めている。しかし労基署は長くても1ヶ月程度さかのぼって検討するのが一般的で、それ以上の長期過重労働による疲労やストレスは、事実上認定の対象外となっていた。
 今回の見直しで、検討会は「長期間にわたる疲労の蓄積が血管病変などを著しく悪くし、脳・心臓疾患を発症させる」との基本的な考えを提唱。過重な労働の評価に置いて「発症前6ヶ月間の就労状態を具体的かつ客観的に考察するのが妥当」と結論づけた。
 疲労蓄積で最も重要な要因として労働時間に着目。発症前1ヶ月間に100時間以上の残業をした場合のほか、発症前2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間の各期間のいずれかで1ヶ月当たり平均80時間以上の残業が認められれば「業務と発症の関連性は強い」と判断される。
 労働時間以外では(1)不規則な勤務(2)拘束時間の長い勤務(3)出張の多い業務(4)交替制勤務、深夜勤務--などを判断材料に加えるよう求めている。
高校生「就職厳しすぎる」 内定率 最悪の37% 厚労省まとめ

2001/11/15 日本経済新聞朝刊

   来春卒業している高校生の9月末現在の就職内定率が前年同期比で5.5ポイント減の37.0%となり、1987年の調査開始以来最悪を記録したことが14日、厚生労働省のまとめで分かった。文部科学省が同日発表した調査では、大学・短大卒業予定者の内定率は65.0%と前年よりやや改善、景気低迷による採用減のしわ寄せが高校生の就職を直撃した格好だ。  

景気低迷、大卒シフト

 調査結果について厚労省は、「高校生の就職先である製造業の採用減が響いている。企業の選別が厳しくなって高学歴の大卒を採る傾向も強まっている」(職業安定局)と分析。坂口力厚労相が主な経済団体に採用枠の拡大を要請するとともに、就職説明会を12月まで集中的に開催することを決めた。
 高校生の調査は公共職業安定所を通じて実施。大学・短大は10月1日現在で調査した。
 就職を希望する高校生は全国に約22万3,000人で前年同期に比べ3.8%減ったが、求人数も10%減って約18万5,000人となり、求人倍率は0.83倍と低迷した。内定者数は約82,000人と16.2%もの大幅な減少。内定率は昨年には、過去最低だった一昨年を1.3ポイント上回り42.5%とやや改善したが、今年は一気に30%台に落ち込んだ。
 男女罰の内定率は、それぞれ5ポイント以上悪化し、男子が40.7%、女子は33.0%。地域別では、全国14ブロックすべてで前年を下回った。北海道が14.9%で最も低く、南九州、北九州、東北が20%台となっている。
 大学生の内定率は2年連続でわずかに上昇、男子は67.6%(前年同期比1.6ポイント増)。女子は60.6%(同0.9ポイント増)。短大は前年と同じ36.6%だった。地域別では、近畿地区が好調で、4.3ポイント増え60%台を回復した。
厚年基金 必要資産 基準見直し

2001/11/13 日本経済新聞夕刊

  解散防止へ厚労省 「混合型」導入を決定
 厚生労働省は代表的な企業年金である厚生年金基金について、将来の年金給付を確実にするため保有を義務づける資産水準の引き下げなど制度の規制を緩和する。株価急落などで年金財政が大幅に悪化し、今年度の厚生年金基金の解散は過去最多だった昨年度の29基金を超える可能性が出ている。厚労省は運営基準を緩めるとともに財政立て直しを促す規制緩和も実施、解散の急増を防ぐ狙いだ。13日の自民党年金制度調査会で規制緩和などを説明、今年度中に実施する。
 同省は将来の年金額をあらかじめ決めておく確定給付型年金と運用の巧拙で年金額が変わる確定拠出年金の両方の特徴を併せ持つ「混合型年金」の導入も決めた。2002年度から導入可能となる。
 厚年基金は厚生年金に上乗せして支給するため企業が設ける確定給付型の年金制度。毎年度、年金給付に必要な年金資産を保有しているかを調べ、一定額以上不足していれば掛け金引き上げなどの財政回復計画を策定する必要がある。今回の規制緩和では当該年度で年金資産が不足していても、当該年度を含め過去4年間のうち2年間、基準を満たしていれば回復計画をつくる必要はなくなる。
 財政立て直しのため、厚年基金が支給する年金額も大幅に引き下げることができるようにする。厚年基金は国に代わって厚生年金の一部を給付する「代行部分」と「上乗せ部分」からなる。規定では上乗せ部分は代行部分の3割以上が必要だが、これを1割以上に引き下げる。ただ、年金額の引き下げには労使合意などの手続きが必要になる。
 厚労省が導入を認める混合型年金は米国で「キャッシュ・バランス・プラン」と呼ばれ、普及している制度。企業は毎年一定の利回りを保証するが、利回りは国債利回りなどに応じて簡単に見直すことができる。
厚生年金 離婚時、分割可能に

2001/11/10 日本経済新聞朝刊

  妻の所得補う 厚労省、2004年メド
 厚生労働省は夫婦が離婚時に合意すれば、夫の厚生年金を分割して妻が受け取れる制度を導入する方向となった。離婚の急増に対応、夫に比べ年金の少ない妻の老後の所得を補う。夫婦ともに厚生年金を受け取る場合も、2人の年金を合算後に改めて分割する道を開く。2004年の年金制度改正での導入を目指す。
 厚生年金に加入している会社員は全国民共通の基礎年金に上乗せして厚生年金(報酬比例部分)を受け取る。会社員の夫と専業主婦の妻が離婚した場合、現在は妻の老後の年金は基礎年金(40年加入で月67,000円)だけで、夫の厚生年金は全額夫に入り、女性に不利となっている。
 厚労相の諮問機関である「女性の年金問題検討会」は9日、離婚時に年金分割の道を開く方針でほぼ一致。分割は強制的に2分割するといった手法を取らず、当事者が家庭裁判所などで分割割合を公式に合意した場合に限る意見が多かった。これを受け、12月に発足する社会保障審議会年金部会で具体策を詰める。
雇用確保 労使で模索 「ワークシェアリング」高まる導入論

2001/11/ 8 日本経済新聞朝刊

   1人当たりの賃金を減らし、仕事を分け合うことで雇用を維持・創出する「ワークシェアリング」の実現をめざす動きが活発になってきた。9月の完全失業率が過去最高の5.3%に上昇するなか、日経連と連合が個別企業に導入を働きかけることで合意、政府も後押しする構えだ。海外の事例を直輸入できるかは微妙だが、雇用不安解消の切り札として注目が集まっている。

助成金支給を財務相が打診 政府、積極支援へ

 日経連と連合は10月末、共同でワークシェアリングに関する研究会を発足させた。同時に日経連は会員13社と小委員会を設置。連合も傘下の産業別労働組合と検討委員会を近く立ち上げる。
 それぞれの委員会で協議したうえで、研究会は労働時間短縮(時短)に伴う賃金の扱いなど問題点を整理し、来年3-4月に中間報告をまとめる。
 今年春から始まった労使両団体の競技では、賃下げによる人件費抑制を求める日経連に対し、連合は時間外労働やサービス残業を減らした分で雇用を創出すべきだと主張して対立し、協議は平行線をたどった。
 変化が出てきたのは、大手製造業の大規模な人員削減の発表が相次いだ夏ごろ。次第に態度を軟化させた連合は「所定労働時間が8時間から7時間になって総額所得が減ることもやむを得ない」(笹森清会長)と表明。呼応するように日経連の奥田硯会長も記者会見で「今後、ワークシェアリングを導入する企業が次々と出てくる」と語った。
 政府も日経連と連合の歩み寄りを「大きな変化」と歓迎し、坂口力厚生労働相は「労使双方の調整弁の役割を果たさなければならない」と積極的に仲介役を担う決意を表明している。
 「ワークシェアリングをやろうという企業に助成金を出したらどうか」。塩川清十郎財務相は10月中旬、坂口厚労相に対し、労働時間短縮によって雇用を創出した企業に一定の助成金などを支給する制度の新設を非公式に打診した。
 財務相の提案の背景には、景気の悪化や不良債権処理などの影響で今後も失業者の増加が見込まれ、従来の安全網に加え「失業者を出さない対策」が急務との認識があるとみられる。厚労相はこれにこたえる形で10月下旬に厚労省幹部を緊急召集し、政府の側面支援策の検討を指示した。
 
解雇ルール法制化反対 日経連会長
 日経連の奥田硯会長は7日の記者会見で、坂口力厚生労働相が判例で制限している解雇ルールを法制化する考えを明らかにしたことについて「政労使で十分な検討が必要な問題で、簡単に法制化すべきではない」と否定的な考えを示した。
 法制化に反対する理由として同席した日経連の福岡道生専務理事が「解雇が難しくなる」と経営が拘束されることを挙げた。連合の笹森清会長も6日の会見で「(法制化は)解雇しやすいルールに切り替えるというものが垣間見える」と批判している。
 
保険料など続く負担 コスト削減限定的
 フォルクスワーゲン(ドイツ)、ルノー(フランス)などの海外の例だけでなく、国内でも半導体製造装置メーカーのTOWAが10月からワークシェアリングを導入した。国内の工場従業員計260人を週休3日制、金曜日を原則休日にし、1人当たりの月約3%の給与を削減した。
 TOWAの動きは一時的な業績悪化のためのコスト削減策で、従業員の雇用は維持する「緊急避難型」といえる。労組が存在せず労使協議が不要だったほか、生産ラインの合理化が完了し「人員削減余地がなかった」(企画室)という事情が導入を円滑にしたという。
 だが、ワークシェアリングの普及には課題も多い。企業が従業員を雇用し続けると、賃金以外に負担しなければならない福利厚生費、社会保険料などの固定費が経営を圧迫する。日経連の試算では相人件費は所定内給与の1.74倍。賃下げだけではコスト削減の効果は限定的だ。
 低成長部門を含めて企業が「過剰部門」を抱えたままだと、生産性が落ち込み競争力が低下しかねないとの懸念もある。今井敬・経団連会長も消極的で、2日の連合幹部との会合でも「フランスではさほど効果が出てない」と指摘した。
 労組側でも産別には「来春闘でワークシェアリングについて一歩踏み出すことはない」(鉄鋼労連)と慎重な声が多い。東芝もワークシェアリングを検討したが、調整がつかず断念した経緯があるという。
介護保険料独自減免 310市町村に倍増

2001/11/ 6 日本経済新聞朝刊

  厚労省調査 10月時点、半年で
 所得の低い高齢者の介護保険料を独自に減免している市町村が全国に310と半年間で2.2倍に増えたことが厚生労働省の調査(10月1日時点)で明らかになった。昨年10月から半額に抑えていた保険料が10月から本来の全額(全国平均で約2,900円)に上がり、低所得者の負担増を和らげようと減免措置を導入する市町村が増えた。
 調査は5日の社会保障審議会介護給付費分科会(厚労相の諮問機関)に厚労省が報告した。低所得者の保険料を減免している市町村は昨年10月には72、今年4月には139と徐々に増え、今年10月には全国3,247市町村の1割弱に達した。
 市町村の保険料減免について、厚生労働省は全額免除や一律減免、一般会計からの財政補てんの3つを避けるよう指導。昨年10月時点で順守したのは4市町村と全体の5%にとどまったが、今回は188と全体の約6割を占めた。
高齢者医療費 上限、都道府県ごとに

2001/11/ 5 日本経済新聞朝刊

  厚労省 一律抑制方針を転換
 厚生労働省は2002年度の医療制度改革に盛り込む予定の高齢者医療費の上限制について、全国一律ではなく都道府県ごとに上限を設定する方向で検討する。日本医師会など関係団体が「医療費を抑える努力をする、しないにかかわらず、医療機関の収入が一律に抑制されるのは問題だ」などと強く批判しているため。細部を詰め、今月中旬の政府・与党社会保障改革協議会に提案する。
 厚労省が9月末にまとめた試案では、高齢者医療費について、高齢者人口の増加率と1人当たり国内総生産(GDP)成長率を基準にした年間伸び率の上限を設定。2年後にその超過分だけ診療報酬を引き下げて医療機関の収入を一律に削減するとしている。この案には日本医師会が強く反対しているほか、自民党でも強制導入の見送りや延期を求める声が広がっている。
 厚労省は上限制を先送りすれば「医療機関にも応分の負担を求めるという医療制度改革の根幹が揺らぐ」と判断。全国一律引き下げの当初案を手直しすることで医師会などの反発をかわし、来年度の制度導入をめざすことにした。
 具体的には上限を都道府県単位で設定する方向で自民党などと調整する方針。医療費は地域ごとに大きな開きがあり、最高の県と最低の県の格差は1.5-2倍近くに達している。入院期間の長短など地域ごとに治療傾向の違いがあるためで、都道府県単位で上限を設定すれば医療費の伸びが大きい地域で抑制圧力が働きやすくなる。
解雇ルール法制化

2001/11/ 5 日本経済新聞朝刊

  厚労相意向 2003年までに法案提出
 坂口力厚生労働相は4日、松山市で開いたタウンミーティング終了後の記者会見で、企業が従業員を解雇できる条件、基準などを定めた解雇ルールについて「労使にも意見を聞きながら、取りまとめの時期がきたら法制化したい」と述べ、、2003年の通常国会までに関連法案を提出する意向を表明した。厚労相が解雇ルール法制化の意向を表明したのは初めて。
 解雇ルールについては、政府の総合規制改革会議の基本方針を踏まえて、厚労省の労働政策審議会が9月から検討を進めている。厚労相の発言は2-3年後とみられていた審議会の検討期限を大幅に前倒しする考えを示したものだ。
 現在の労働基準法でも30日前に予告すれば企業は従業員を解雇できる。ただ、過去の裁判所の判例で(1)人員削減の必要性がある(2)解雇を回避する余地がない(3)解雇対象者の選定が客観的・合理的である(4)労使協議など妥当な手続きを踏んでいる--の4条件を満たす必要があるとされ、実際には解雇に踏み切りにくいとされる。
 企業は「解雇がしにくいために新規採用を抑えざるをえない。ルールが明確になれば人材を採用しやすくなる」として解雇ルール法制化を求めている。半面、労働組合は安易な解雇を防ぐことに法制化の主眼を置いており、解雇ルールの内容をめぐって労使間の調整が難航するのは必至だ。
 厚労相はまた、悪化する雇用情勢への対応策について9日に政府、日経連、連合の3者の会議を開くことを表明。1人当たりの労働時間を減らして仕事を分け合う「ワークシェアリング」導入に向け労使間の調整に取り組む考えを示した。
雇用保険料 緊急上げ 厚労省検討失業増に対応0.2%

2001/11/ 4 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は失業者に支給する失業手当の財源となる雇用保険料を、緊急措置として引き上げる検討に入る。失業者が急増し、2002年度中にも雇用保険の積立金が枯渇する恐れが強いため。労使折半で月収の1.2%徴収しているのを時限的に0.2%引き上げる方向で、来年度以降、景気動向をにらみつつ実施時期を探る。制度改革に伴い今年度に0.4%上げたばかりで、個人や企業の負担に直結するだけに、反発も見込まれる。
 
積立金枯渇の恐れ
 保険料引き上げは「弾力条項」と呼ばれる措置で、雇用保険法を改正しなくても厚生労働相の判断で緊急発動できる。保険料率の上限は事業主、サラリーマンが0.7%ずつの1.4%。今回、限度いっぱい引き上げれば、労使の負担は0.1%ずつ上昇する。
 保険料引き上げで約3,000億円の失業手当の追加財源を確保できるが、国民負担は増える。月収50万円のサラリーマンだと月3,000円の保険料が500円増える計算だ。
 9月の完全失業者が357万人と過去最高となり、政府は今年度補正予算で失業手当の給付費を約4,000億円上積みする。これを賄う雇用保険の収支赤字は一段と拡大。給付費の財源として国庫負担の追加や雇用保険の予備費だけでは足りず、積立金を取り崩す必要がある。
 今年度は積立金を4,000億円取り崩し、年度末残高は4,200億円程度まで落ち込む見込み。積立金は93年度に4兆8,000億円に迫る規模だが、来年度も今年度と同じペースで失業手当の支給が続けば、ほぼ底をつく事態となる。
 厚労省は財政面のテコ入れが急務と判断。来年度は失業手当の財源確保策として、失業手当の給付日数を残して再就職した人に一定額を支給する「再就職手当」(4,900億円)を圧縮した分を充当する。そのうえで弾力条項の発動は企業負担などにも配慮し、早くても2003年4月からにしたい考えだ。
 ただ、財政当局には「失業率が5%台半ばから後半で推移すれば、保険料率引き上げは不可避」との見方が強く、発動の前倒しを迫られる可能性もある。国庫負担の引き上げなど他の財源確保策を含め、雇用保険財源の立て直しが来年度予算編成の焦点として急浮上する。発動は毎年必要性を判断し継続できるが、数年にわたり恒常化する場合は法改正も必要となる。
 雇用保険は今年4月から新制度が始まったばかり。保険料率を月収の0.8%から1.2%に引き上げ、失業手当給付費の国庫負担割合を14%から25%に引き上げて増収を図る一方、支出面では自発的失業者や定年退職した人への給付日数を減らし、収支をほぼ均衡させる計画だった。
 これは「完全失業率4.5%、失業手当の受給者は月73万人」を想定した設計。最近は失業率が5%台、失業手当の受給者も110万人台で推移しており、制度改正から1年もたたずに財政が維持不可能な状態に陥りつつある。
公的雇用に非失業者多数 本社調査 7割近い自治体も

2001/11/ 4 朝日新聞朝刊

  厚労省 失業者枠を新設
 急増する失業者に、自治体が国からの交付金で働く場を提供する「公的雇用」。この拡充を目玉にした雇用対策を盛り込んだ補正予算案と関連法案が9日、国会に提出される。公的雇用事業は99年度から実施されており、その運用状況を朝日新聞社が調べたところ、失業者でない人が多数雇われていることがわかった。3分の2を非失業者が占める自治体もあり、失業者への緊急救済策というより、財源不足の自治体が交付金を通常の事業に利用した側面もありそうだ。
(後略)

【Add 2001.11. 3】

  連合、総賃金の減少容認

2001/11/ 2 日本経済新聞朝刊

  ワークシェアリング 導入へ柔軟姿勢
 連合(笹森清会長)は労働時間の短縮などによる仕事の分かち合い(ワークシェアリング)の導入について、これまで反対していた所定内労働時間の削減を認める方向で本格的な検討に入った。残業代だけでなく、所定内賃金(本給)も含めて給料が減ることを事実上容認することになる。失業問題の深刻化を受け、一段と柔軟姿勢で春闘などに臨む必要があると判断した。
 笹森会長は1日から都内で始まった連合の春闘中央討論集会で「ワークシェアリングをやるのなら、(所定内労働時間が)8時間から7時間に、7時間から6時間になって、総額所得という意味で賃金が減ることもやむを得ない状況ではないか」と述べた。
 ワークシェアリングをめぐって、これまで連合は時間外労働やサービス残業を減らした分で雇用を創出すべきだと主張。本給や単位時間当たりの賃金(時給)の削減には強い難色を示してきた。このため賃下げなどによる人件費抑制を主張する日経連などと対立、平行線をたどってきた。
 だが製造業を中心に大規模な人員削減が相次ぎ、9月の完全失業率(季節調整値)が過去最悪の5.3%となるなか、雇用の維持・確保を最優先の課題として取り組むために従来の姿勢を転換。本給を含む給料の減額につながるワークシェアリングを検討せざるを得なくなったとみられる。
 ただし笹森会長は時給の削減については「容認することはあり得ない」と強調。連合は所定内労働時間の削減を容認した場合でも、あくまで雇用情勢の急激な悪化を受けた一時的措置で、景気が回復すれば元に戻す条件が必要だとしている。
社員派遣期間 厚労省見直し案 45歳以上、来年から延長

2001/11/ 1 日本経済新聞朝刊

   厚生労働省は31日、企業のリストラなどで失業した中高年の再就職を円滑にするため、今国会に提出する「雇用保険法等臨時特例措置法案」(緊急雇用対策法案)をまとめた。45歳以上に限って、現在最長1年としている派遣社員の派遣期間を最長3年に延長するのが柱。2002年1月から2005年3月末までの時限立法措置となる。
 法案の要綱は同日の労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)に諮問。同審議会では派遣期間の延長に労組代表委員が反対を表明したものの、公益委員の見解を採用する形で「法案作成は妥当」と答申した。
 45歳以上の派遣期間が最長3年に延長されるのは、販売職、営業職など1999年12月の労働者派遣法の改正で認められた業務。これらの業務に従事する44歳以下の派遣社員の派遣期間は現行の最長1年のまま据え置く。
 法案は失業手当の給付期間が切れた後も、職業訓練期間中は手当を受けられる「訓練延長給付」の拡充も盛り込んだ。
 現在は1回しか訓練を受けられないが、45歳以上-60歳未満の人は公共職業安定所(ハローワーク)の指示に基づき複数回の訓練を受けられるようになる。
保険料負担月5,000円に 厚労省が試算

2001/10/31 日本経済新聞朝刊

  パート月収6万円 厚生年金に加入すると
 厚生労働省は30日、パートで働く人に厚生年金に適用を拡大した場合の負担と給付の変化を試算にまとめ「女性の年金問題検討会」(厚労相の諮問機関)に示した。パート月収が6万円の場合、厚生年金に加入すると本人の保険料負担は月5,000円となる。
 サラリーマンの夫を持つ主婦は将来受け取れる年金額が増えるとはいえ、現在保険料を負担していないので新たな負担となる。単身者や自営業者の夫を持つ主婦は現在の国民年金保険料より負担が軽くなる。
 厚生年金は会社員のため定年後に国民年金に上乗せして支給する公的年金。正社員は全員加入するが、パート従業員は就業時間が正社員の4分の3以上の人だけが加入、これ以外は国民年金に加入する。会社員の夫に扶養され、年収130万円未満の主婦らは国民年金保険料を免除される。厚労省は2004年の年金改革で厚生年金の加入基準を下げパート加入を拡充することを検討しており、一定の前提を置きその影響を試算した。
 厚生年金の保険料は月収の一定割合(現在17.35%)を労使で折半するので、月収6万円のパートの場合、本人負担は月5,000円となる。会社員の夫に扶養されながらパートで働く主婦は現在保険料負担がないため5,000円を新たに負担する。一方、単身者や自営業者の夫を持つパート主婦らは現行制度で定額の国民年金保険料(現在月13,300円)を支払っており、厚生年金の加入すると負担は月8,000円ほど減る。
診療報酬3%程度下げ

2001/10/28 日本経済新聞朝刊

  改革負担 医療機関にも 政府検討
 政府は2002年度から、医療保険が病院などに支払う診療報酬を3%程度引き下げる方向で具体策の検討に入った。膨らみ続ける医療費を抑制し、医療保険財政の悪化を防ぐ。患者負担の引き上げなどの国民負担増だけでなく、医療機関にも負担を求めることで、医療改革を進める。小児科など必要性の高い分野の診療報酬を手厚くするなど配分も見直す方針だ。
 
医師会反発、難航は必至
 11月中旬の政府・与党社会保障改革協議会や中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)に、診療報酬引き下げの方針を示し、年末の来年度予算編成までに細部を詰める。
 診療報酬は患者が治療を受けた際に医療保険から医療機関に支払う治療代。薬の公定価格と合わせて、おおむね2年に1度、医療機関の経営状況や物価・賃金の伸び、保険財政の状況などを反映して改定する。
 政府は来年度予算の新規国債発行を30兆円以下にする方針。このため概算要求基準で本来7兆7,500億円になる医療費の国庫負担を2,800億円減らすことになっている。
 9月末に厚労省が発表した医療制度改革試案では、サラリーマンが加入する健康保険組合の患者負担を現行の2割から3割に引き上げるほか、高齢者医療の対象を70歳から段階的に75歳に引き上げるなど国民負担増を打ち出した。
 しかしこうした制度改正による削減効果は約1,000億円にとどまり、さらに国民負担増を伴う制度改正をするか、診療報酬を引き下げる必要がある。政府は景気後退が鮮明になるなかで、これ以上の国民負担増は困難と判断、診療報酬を2.5-3%減らす方向で検討することにした。
 診療報酬の配分も同時に見直す。医師や専門施設が不足している小児医療や慢性病患者の生活指導など、重要性が高まっている分野への報酬を他の分野より増やす考え。検査や投薬を増やすほど医療機関の報酬が増える「出来高払い」も見直し、治療期間などに応じて一定額を支払う「包括払い」を拡大する。
 日本医師会は「診療報酬の据え置きはやむを得ないが、引き下げは到底容認できない」(糸氏英吉副会長)としている。強く反発するのは確実で、調整は難航するとみられる。

【Add 2001.10.25】

  公的雇用創出 50万人超

2001/10/25 日本経済新聞朝刊

  大半は失業者対象
補正予算 自治体、事業費上乗せ

 公的部門で雇用の受け皿をつくるため、政府が2001年度補正予算で3,500億円を計上する新たな雇用特別交付金の内容が明らかになった。2005年3月末までに、公立学校の補助教員など50万人を上回る雇用創出を目指す。交付金の対象とする都道府県の事業は(1)事業費の8割以上を人件費に充てる(2)雇われる人の4分の3以上は失業者とする--を満たすことを条件とする。各都道府県にも事業費を上乗せするよう要請する。
 「新・緊急地域雇用特別交付金」が対象とするのは、主に失業者に、公立学校の補助教員や違法駐車を取り締まる警察の支援要員、森林作業員などに臨時就業してもらう事業。補正予算に盛り込む雇用対策(国費5,500億円)の目玉となる。来年3月末で現行の雇用特別交付金(2,000億円)が期限切れになった後でも、地方自治体が公共サービス部門で雇用の場を提供できるようにする。
 都道府県は事業計画をつくって国に申請し、人口や求職者数などに応じた金額を国から交付を受ける。対象とする事業に条件を付けることで、新規雇用・就業を生む効果の大きい事業に限定し、国費の無駄遣いに歯止めをかける。
 本来、交付金は全額国庫負担の事業だが、今回は都道府県にも自発的に国の交付額に一定額を上乗せするよう求める。事業費の上積みで雇用者数が増える効果を見込むほか、自治体の元職員を就業させるようなモラルハザード(倫理の欠如)を避ける狙いが背景にある。
 臨時で雇う期間は原則6ヶ月未満とするが、補助教員や児童・幼児の面倒をみる「保育ヘルパー」などの人的サービスは1年程度の就業も認める。
 各都道府県が国の補正予算の成立を前提に12月議会で条例を制定して基金を設立すると、国が基金に交付金を繰り入れる。
 自治体が独自に実施する補助教員などの事業は容認するが、それ以外の事業は「民間にできるものは民間に任せる」との考えから民間企業や非営利組織(NPO)への委託を求める。

【Add 2001.10.23】

  介護の値段 改定に難題 保険制度見直し始動

2001/10/23 日本経済新聞朝刊

  需要・採算ミスマッチ
 社会保障審議会(厚労相の諮問機関)は22日、介護給付費分科会を開き、2003年度に実施する介護報酬など介護保険制度の見直し論議をスタートした。家事援助などの報酬引き上げや、長期入院者の介護保険での受け入れ、保険料改定などの財源対策について来夏までに見直し案をまとめる。サービス体制を整備するため報酬を引き上げれば保険料負担は重くなり、調整は難航しそうだ。
 
●家事援助

 介護保険は介護事業者に支払う報酬を3年おきに見直す仕組みで、今回は2000年度の制度発足以来初の改定となる。
 2001年5月の介護サービス利用状況を介護保険導入前の1999年度平均と比べると、訪問介護は82%増の645万件、デイサービスセンターに通って介護を受ける通所介護は54%増の384万回。厚労省は「介護保険導入で新たにサービスを利用する人が着実に増えている」という。ただ定着度合いには偏りがある。特別養護老人ホームなどの施設サービスは予算の9割弱に達したが、在宅サービスは8割程度にとどまる。
 在宅サービスの利用が低調なのは、費用の1割の自己負担に利用者の抵抗が強いことや、報酬が安いために供給体制の整備が遅れていることが一因と厚労省は見ている。報酬が安いと在宅者の介護サービス計画を作るケアマネージャーなどの専門スタッフが不足、利用者は在宅サービスの使い勝手が悪くなるからだ。
 特に家事援助中心サービスは、30分以上1時間未満の場合で1回1,530円と身体介護(4,020円)と比べて安く、事業者は低収益事業として敬遠する傾向がある。
 
医療との垣根 微妙
●療養型施設
 「医療の診療報酬の議論と足並みをそろえてほしい」(山崎摩耶日本看護協会常任理事)、「(介護は)医療保険との関連で見るべきだ」(矢野弘典日経連常務理事)。この日の分科会では、委員から長期入院者が入る療養型施設などについて医療保険との関係を考慮すべきだという指摘が相次いだ。
 医療と介護の両方を提供する療養型施設(療養型病床群)は、医療保険と介護保険のどちらを適用するか医療機関が選ぶことが出来る。2002年度の医療制度改革案は、医療保険適用の医療機関で長期入院者の自己負担を大幅に増やす計画。これらの入院者が医療保険の適用施設から介護保険適用の施設への転院を希望すれば、療養型施設の供給が追いつかなくなる。長期入院者をリハビリ中心の老人保健施設などで受け入れるよう、今年末の医療制度改革の診療報酬改定と同時に前倒しで見直すべきだ、との指摘もある。
 
引き上げに抵抗強く
●保険料

 「保険料についても議論しなくては給付費の問題も議論できないのではないか」。喜多洋三・全国市長会介護保険対策特別委員会委員長は繰り返し財源問題の検討が必要と強調した。
 2001年度予算の介護保険給付費は4兆2,100億円と前年に比べて約1割増加。介護サービスの供給体制を整えようと事業者への報酬を引き上げれば、サービス利用が予想を超えて急増する可能性が大きい。
 2000年度の介護保険給付実績は予算の85%強にとどまる。利用者ニーズとサービスにミスマッチがあるためだ。ただ2003年度に介護報酬を見直して報酬単価を引き上げれば、介護保険料の引き上げは必至との見方が大勢だ。大幅な報酬引き上げには、介護保険を実際に運営する市町村だけでなく、保険料を負担する現役世代などから反発が出る可能性が大きい。

介護サービス事業者の主な状況

在宅サービス 事業所数 1事業所あたり月平均利用人数 1事業所あたり月平均収入
 サービス種類
訪問介護

13,809

44.6人

2,194,314円

訪問入浴介護

2,811

28.3 

1,283,503 

訪問看護

58,841

22.4 

921,806 

訪問リハビリテーション

45,439

7.8 

162,368 

デイサービスセンターでの通所介護

9,202

65.7 

3,161,381 

グループホーム(痴ほう対応型共同生活介護)

1,300

8.6 

1,981,420 

施設サービス 施設数 1施設当たり平均在所者数 1施設当たり月平均収入
 
特別養護老人ホーム

4,669

63.3人

20,427,874円

老人保健施設

2,789

82.4 

26,956,101 

長期療養型施設

3,954

33.4 

14,441,822 

(注)厚生労働省まとめ。事業所数は2001年9月時点、利用人数や収入は2001年5月分

【Add 2001.10.22】

  年金・健保の解散急増

2001/10/22 日本経済新聞朝刊

  厚年基金 「予備軍」40
健保組合 過去最多に
 企業の年金や健康保険組合の解散が急増している。代表的な企業年金である厚生年金基金は今年度に入り松屋や三越が解散、監督当局に打診中の基金を含めると昨年度の2倍に迫る勢い。健保組合も日本カーボンなどが解散、既に20に達し年間の過去最多を更新した。景気低迷や株価下落による資産運用の悪化に医療費の増加が追い打ちをかけ、負担に耐えられない企業が相次いでいるためだ。国の社会保障制度の縮小も見込まれ、サラリーマンへの打撃となる。
 厚年基金が解散すると、加入者は予定通りの年金を受け取れなくなる場合が多い。健保組合が解散すれば、加入者は政府の運営する健康保険に移る。健保組合は独自に患者負担を肩代わりしていることが多く、解散により恩恵がなくなる。
 今年度解散した厚年基金は11月半ばまでで11。このほか地方厚生局に解散を打診している”解散予備軍”の基金が40程度ある。解散方針を固めてから打診する基金が多いとみられ、年度を通せば過去最多だった昨年の29を超えるのはほぼ確実だ。
 10月までに解散した厚年基金には流通業のほか、東京相和銀行など破たん金融機関もあった。三越のように解散して確定拠出年金(日本版401k)への移行を検討する例もある。確定拠出年金は将来の年金額をあらかじめ約束する厚年基金と違い、運用の巧拙で年金額が変動する。積み立て不足が発生せず、企業負担が軽いだけに、追随する動きも見込まれる。
 健保組合は10月初めまでに20組合が解散。過去最多は昨年度の16組合。岩田屋など流通業の解散が目立ち、合理化による加入者減が財政悪化に拍車をかけ解散に至った例が多い。
 厚生労働省は解散の急増を抑えたい考え。財政悪化した厚年基金には再建計画の提出を求めているが、積み立て不足を解消する期間を現在よりも延長するなど、企業負担が過重にならないように見直す。健保組合についても合併基準を緩和。規模の拡大を通じ財政基盤を安定させる。財政悪化した組合に保険料引き上げなどによる財政再建計画の策定も義務づける。
 ただ、厚年基金は昨年度の運用利回りが平均でマイナス約10%となり、同年度だけで合計7兆円程度の積み立て不足が発生したもよう。健保組合も昨年度は全体で1200億円の赤字で、いずれも企業収益を圧迫している。
 今後も株安などで資産運用環境が改善せず、医療費も増え続ければ、再建を断念し解散する厚年基金や健保組合が続出するのは必至。経済界からは株価対策や、2002年度に予定している政府の医療制度改革で医療費抑制を求める声が強まる見通しだ。
高齢者医療費 5兆円削減可能

2001/10/22 日本経済新聞朝刊

  2007年度、厚労省試算
 厚生労働省は医療制度改革試案を実行した場合、2007年度の高齢者医療が現在の水準並みの11兆円に収まるとの試算をまとめた。医療費の伸びに上限を設け、対象年齢を現在より5歳引き上げ75歳以上とするなどの抑制策をとる結果、現制度のままの場合に比べ5兆4千億円の削減が可能という。
 試算によると、高齢者医療費は制度改革が始まる2002年度に11兆7000億円になるが、改革効果から毎年1-3%減少、2007年度に11兆円になる。一方、全体の医療費は2002年度の29兆4000億円から2007年度に34兆2000億円に膨らむ。

【Add 2001.10.21】

  失業率予測5.4%-6.2%

2001/10/21 日本経済新聞朝刊

  来年度民間調査機関 不況長期化見込む
 民間の主要調査機関の2001-2002年度の完全失業率の予測値が出そろった。世界的な情報技術(IT)不況の長期化や米同時テロなどの影響を受け、国内経済が悪化し、雇用環境が一段と厳しくなると見込んでおり、今年度の予測は平均で5.0-5.5%とし、6月時点に比べ最大0.3ポイント上方修正している。来年度の失業率はさらに上昇し、6%台に達するとの予測も出ている。
 完全失業率は今年7月、8月と過去最悪の5.0%をつけている。失業率予測が最も高いのはBNPパリバ証券。9月下旬時点の予測値では、来年3月に5.6%、2003年3月に6.3%まで上昇する。
 村上尚己エコノミストは「来年度後半に景気が回復しても、伝統的企業の経営者は雇用に手をつけざるを得ない」と製造業の人員削減が高水準で続くとみる。
 第一生命経済研究所は同時テロの影響で米国の景気後退局面入りが確実となり、日本経済の回復もずれ込むと判断。今年9月時点で失業率は今年度が5.2%、来年度が5.9%と予測していたが、10月に入って5.3%、6.2%にそれぞれ上方修正した。2003年3月には6.5%程度まで悪化するという。
 同社の川崎真一郎主任研究員は「日本では330万人の失業者のほかに、約520万人の潜在的失業者(社内失業者)の存在がある」と分析している。
介護施設、64万人分

2001/10/21 日本経済新聞朝刊

  昨年 療養型は計画下回る 厚労省調べ
 厚生労働省は19日、2000年の介護サービス施設・事業所調査を発表した。全国の介護保険施設の定員(10月)は約648,500人となり、2003年度の事業計画の81%を達成した。特別養護老人ホームと老人保健施設は計画通り増えているが、介護保険に合わせて導入した療養型医療施設が当初計画を下回ったためだ。
 内訳は特別養護老人ホームが全体の46%と半分近くを占め、リハビリなどを行う保健施設が36%、療養型医療施設は18%。前年と比べると特別養護老人ホームは5%増、老人保健施設は11%増とほぼ事業計画通りの定員増となった。一方、介護と医療の両方を提供する療養型医療施設は約116,000病床と計画値の6割の水準にとどまった。
 施設別に見た1人当たりの平均利用料は療養型医療施設と保健施設が6万円台で、特別養護老人ホームの3万円台の約2倍となった。介護保険のサービス利用時に支払う1割の自己負担額はほぼ同水準だが、医療提供施設は雑貨や個室料など保険適用外の費用が大きい。
政管健保 保険料率8.3%に

2001/10/18 日本経済新聞朝刊

  2003年度から厚労省方針 年1万8000円負担増
 厚生労働省は両制度改革の一環として、中小企業の従業員が加入する政府管掌健康保険の保険料を2003年度から年収の8.3%(労使折半)にする方針を固めた。現在は月収の8.5%(同)なので料率が下がる形になるが、ボーナスも含めて保険料を計算する「総報酬制」を導入する方針のため、平均的な加入者で年18,000円程度の負担増になる。
 ボーナスにかける政管健保の保険料率は現在1%。厚労省が9月にまとめた医療制度改革試案は2003年度からボーナスも含めた年収全体に同率の保険料をかけることにしている。政管健保の平均的な加入者である月収30万円、ボーナス60万円の場合、年間の保険料負担は現行で約156,000円。試案どおりになると、保険料は約174,000円に増える。
 政管健保は1993年度以降8年連続で実質赤字が続いている。厚労省によると、現行制度のままでは2002年度中に積立金が底を突き、医療費を支払えなくなるという。今回の制度改革で医療費を減らし、保険料を引き上げれば、2003年度から4年間単年度黒字になる。しかし2007年度からは再び赤字に転落するため、もう一段の改革が必要という。
医療費伸び上限現役世代も設定 経団連・日経連が提案

2001/10/18 日本経済新聞朝刊

   経団連と日経連は17日、「厚生労働省の医療制度改革に関する見解」をまとめた。高齢者だけでなく現役世代の医療費の伸びにも上限を設定するよう提案。職域や地域ごとに分かれている医療保険制度の一元化に反対している。医療保険の保険料を月収ベースではなく、ボーナスを含めた年収ベースで徴収する「総報酬制」の導入にも慎重な対応を求めている。

【Add 2001.10.14】

  厚生年金 パート加入を拡大

2001/10/14 日本経済新聞朝刊

  厚労省検討 徴収増へ2004年
 厚生労働省は2004年の公的年金の改革で、企業の正社員を主な対象とする厚生年金制度を見直し、パート労働者の加入を増やす方向で検討する。パートで働く人が増えているので、加入対象者を広げて制度の空洞化を防ぐ。同省では、パート年収が65万円以上の人すべてを加入させる案などが浮上。実現すれば、公的年金の保険料が免除されているパート年収130万円未満の主婦の一部に負担が生じることになる。
 
年収65万円以上 就労時間基準下げ
 厚生年金は企業の従業員のために、定年後に国民年金に上乗せして支給する公的年金。正社員は全員加入するが、パート従業員については、週の就業時間と1ヶ月の勤務日数が正社員の4分の3以上の人だけが加入する仕組みだ。
 これ以外の人は国民年金に加入する。このうち会社員の配偶者に扶養されており、パート年収が130万円未満の主婦らは、国民年金保険料の支払いを免除されている。
 だが雇用の多様化で、正社員ではなくパートを雇う企業が増え、雇用者全体に占めるパートの比率が約2割に上昇。このままでは厚生年金の保険料を負担する人が減る恐れがあるため、厚労省はパートの加入基準見直しを検討し始めた。
 具体策は12月から社会保障審議会年金部会(厚労相の諮問機関)で検討するが、厚労省内では(1)週就業時間が正社員の2分の1以上(2)パート年収が65万円以上--という2つの条件のどちらかを満たせば、厚生年金加入を義務づけるという案などが出ている。仮に年収基準を65万円に下げた場合、300万人近い女性パートが厚生年金に加わるとの試算もある。
 国民年金に加入しているパートは毎月定額の保険料(現在は13,300円)を支払っているが、厚生年金に加入すると月収の一定割合(現在は17.35%)を労使折半で負担する方式に変わる。
 本人分の保険料だけを比べると、年収約184万円以上で現在より負担増になる。
 この案どおりになると、影響が特に大きいのは、年130万円未満のパート収入がありながら国民年金保険料の支払いが免除されている主婦ら。就業時間が正社員の2分の1以上か、パート年収が65万円以上になると厚生年金の保険料を支払わなければならなくなる。
 パート労働の主婦には保険料免除のため年収を130万円未満に抑えている人も多いので、これらの層から改革案に強い反発が出ることが予想される。
 また、社員のための保険料支払いを抑えるために、正社員でなくパートを雇っている企業にとっても負担が増えることになるため、不満が出そうだ。

【Add 2001.10.13】

  85健保に財政再建指示

2001/10/11 日本経済新聞朝刊

  計画作成を厚労省要請 合併基準を緩和
 厚生労働省は10日、財政が悪化している85の健康保険組合に対し、来年2月末までに財政再建計画を作成するよう指示した。健康保険法に基づく措置で、保険料引き上げなどの収支改善を求め、財政破たんを防ぐのが狙い。再建のメドがたたない場合は解散を命令する。同時に健保組合の合併基準を緩和し、連結決算対象企業の合併、編入を解禁する。健保再編を促し、医療保険財政の安定化を目指す。
 健保組合は全国で約1,700あり、主に大企業が従業員と家族のために運営している。被保険者の給与の一定割合(全国平均で8.5%)の保険料を労使で分担し、加入者の医療費を補てんする。医療費の増大により健保組合の財政は悪化しており、厚労省は経常赤字が3年続くなど財政危機の健保に財政再建計画の作成を求める「指定制度」を今年1月に導入した。今回が初の指定となる。
 都道府県別にみると、指定を受けた組合が最も多いのは北海道と大阪で、それぞれ11組合。指定理由では、被保険者数が設立基準を割り込んだ健保組合が45。保険料率がほぼ法廷上限(月収の9.5%)に達し、積立金が規準を下回ったために指定を受けた組合も40ある。いずれも設立企業の人員削減などで被保険者が減り保険料収入が急減している。
 指定を受けた健保は来年度から3年間について保険料の引き上げや独自の医療費給付の廃止といった収支改善策を作成し、厚労省から承認を受ける必要がある。
 厚労省は収支改善のメドのたたない健保組合には債務超過に陥る前に解散を命令する見通し。解散健保の加入者は健保組合のない中小企業従業員のために国が運営する政府管掌健康保険に移る。指定健保のほぼ半数は保険料を法廷上限に引き上げても赤字を解消できない状態で、解散を迫られる健保が増えそうだ。
夫婦2人世帯 年収630万円以上 医療費2割世帯

2001/10/11 日本経済新聞朝刊

  厚労省、医療制度改革で試算
 厚生労働省は10日、2002年度の医療制度改革が実現した場合、高齢者の夫婦2人世帯(1人は給与所得者)で年収630万円以上なら、今の現役世代並みに医療費の2割の自己負担を求めることを明らかにした。年金収入のみの1人暮らし世帯では年収380万円以上が対象になる。
 同省の医療制度改革試案では、自己負担が1割の高齢者医療の対象年齢を現在の70歳以上から段階的に75歳に引き上げるとともに、高所得者の高齢者の自己負担は2割にすることになっている。高所得者の高齢者が1ヶ月に支払う自己負担の上限額は今の現役世代(63,600円)より高い72,300円とする。
 同日の自民党医療基本問題調査会と厚生労働部会の合同会議に報告した。

【Add 2001.10. 8】

  健保組合 解散 過去最高に

2001/10/ 8 日本経済新聞朝刊

  今年度すでに20件 高齢者医療が負担
 健康保険組合の解散が今年度は10月初めの時点で20組合となり、昨年度の16組合を抜き過去最高となった。高齢者の医療費を賄うための拠出金の負担が増え続ける一方、景気低迷による保険料収入の伸び悩みから健保組合の財政が悪化していることが背景にある。来年度の医療制度改革議論にも影響を与えそうだ。
 健保組合は主に大企業が従業員のために設立する医療保険制度。全国に約1,700あり、加入者はサラリーマンとその家族を合わせて約3,200万人。保険料は組合によって異なるが、月収の8.5%程度が平均で、労使で折半して負担する。景気低迷で給与が伸びず、多くの健保組合は保険料収入も増えていない。
 その一方で、70歳以上の高齢者分を中心に医療費は増え続けている。サラリーマンは定年退職すると原則として市町村の国民健康保険に移り、健保組合に加入している高齢者は少ない。しかし、各医療保険制度に原則同じ人数の高齢者が加入していると見なして拠出金を支払っているため、財政を圧迫している。
 これまで健保組合の解散は少なく、解散があっても母体企業の倒産に伴うものが多かったが、1998年度ごろから母体企業は存続しても、組合だけが財政悪化で解散する例が出始める。

【Add 2001.10. 6】

  総合職に占める女性比率2.2% 厚労省調査

2001/10/ 6 日本経済新聞朝刊

   総合職に女性が占める割合が2.2%にとどまっていることが5日、厚生労働省がまとめたコース別雇用管理制度に関する調査でわかった。同省は調査した全215社で法違反と言えないものの事実上の男女格差が生じているとして、女性の活用に積極的に取り組むよう助言した。
 調査は2000年10月から今年3月にかけ、コース別雇用管理制度を導入している215社を対象に、都道府県労働局の担当者が企業の人事・労務管理者と面接して実施した。
 それによると、総合職全体に占める女性の割合は2000年10月時点で2.2%にとどまった。企業別にみても、総合職に占める女性の割合が1割に満たない企業が85.7%に上った。
 さらに2000年度の採用でも、半数の企業が女性の総合職を採用しない一方、一般職については91.3%の企業が「女性100%」だった。コースの転換制度については、9割近くが導入していたが、3分の1の企業で転換の実績がなかった。94.4%の企業が転勤の有無をコース分けの要件にしていた。
高齢者の医療費負担 月収30万円超で現役世代並み

2001/10/ 5 日本経済新聞朝刊

  年金・資産収入なども加味 厚労省改革案
 厚生労働省の2002年度の医療制度改革案が実現すると、高齢者でも月収が30万円超なら通院時に支払う自己負担は医療費の2割と今の現役世代並みに重くなる。全高齢者の約1割が対象になる見通しで、会社役員などは大半が負担増になりそうだ。
 現在は70歳以上の高齢者の自己負担は原則1割と現役世代(2-3割)より低く抑えている。この1割負担の対象が来年度から毎年1歳ずつ75歳まで上がる。1割負担の対象年齢でも所得が現役世代の平均を上回る高齢者の負担は2割と今の現役サラリーマンと同水準に増やす。
 2割負担の基準は今後詰めるが、会社役員など給与所得者の場合、平均月収が現役世代の平均(30万円)を上回れば、負担増になる見通し。自営業者との不公平をなくすため、給与所得だけでなく年金、家賃、資産収入なども加味した課税標準額で定める。現役世代サラリーマンの自己負担は2割から3割に上がる。
専業主婦の年金保険料免除 改革へ6案提示

2001/10/ 4 日本経済新聞朝刊

  厚労省検討会 追加徴収、調整難航も
 女性の年金に関する厚生労働省の検討会は3日、専業主婦の保険料を免除している「3号被保険者制度」について6つの改革案を示した。女性の就労を阻害するなどの批判が強まったことが背景だ。議論の中心になったのは専業主婦分の保険料を夫から追加徴収する案。ただ、追加徴収は不公平を招くという反対論も根強く、12月に予定している報告のとりまとめは難航しそうだ。
 
女性の3分の1対象
 「どれも帯に短し、たすきに長しで……」。検討会の冒頭、事務局から6案の説明を受けた座長の袖井孝子お茶の水大教授は、ため息をついた。
 現在の公的年金保険は自営業者や学生が入る国民年金が月13,300円、会社員の厚生年金は月収の17.35%(これを労使で折半)。会社員の夫を持つ主婦だけは年収130万円未満なら保険料を払う必要はなく、老後には国民年金を受け取れる。これが女性の3分の1を占める「3号被保険者」。その保険料相当額は会社員全員で肩代わりする仕組みだ。
 3号被保険者制度への批判の1つは、保険料を払っている自営業者の妻や学生と比べ不公平という点だ。収入増で保険料負担が生じるのを避けるために就労を抑制せざるをえない主婦がいるとの指摘もある。
 厚労省の6案のうち3つは専業主婦の保険料を本人か会社員の夫が追加負担する内容。「働かない主婦の分を共稼ぎ世帯も負担する今の制度はおかしい」(駒村康平東洋大助教授)との考え方が底流にある。
 このうち本人が負担する方式(表のII案)に対しては「自分の収入がないのに負担を求めれば、支払いが滞り、老後に年金を受け取れない人が続出する」との批判が強い。このため妻の保険料も夫の給与から天引きする手法が主流になりそうだ。
 
「受益」か「能力」か
 厚労省の試算では、夫の月収に比例して妻の保険料を上乗せする定率方式(IV案)の場合、保険料は月収の19.3%に膨らむ。月収50万円の人だと月97,000円(労使合計)で、約10,000円の負担増だ。その代わり単身者や共稼ぎ夫婦の保険料は16%に下がり、月収50万円の場合で月80,000円と、約7,000円減る。
 一方で「専業主婦のいる世帯から追加徴収すれば世帯間の不公平が拡大する」(堀勝洋上智大教授)という反対も根強い。夫の月収が50万円で妻の専業主婦の世帯と夫婦の合計月収が50万円の共稼ぎ世帯を比べると、現在は世帯の保険料、年金額ともに同じ。専業主婦分の保険料を追加徴収すると、年金額は同じなのに負担は専業主婦のいる世帯の方が重くなる。
 追加負担は主婦も老後に年金を受け取るのだから「受益に応じた負担」が必要と主張。反対派は、無収入の人に負担を求めるのは「能力に応じた負担」という現行制度の理念を崩しかねないと反論する。
 
企業など反発必至
 専業主婦が高所得世帯に多いという実情に着目し、高所得者の保険料を一律に増やす案(VI案)も浮上している。今は基準月収が上限の62万円を超えると、労使合計の保険料は約107,500円で頭打ちとなる。男性会社員の約1割がこれに該当する。上限を上げれば高所得者に追加負担が生じ、これを専業主婦の保険料財源に当てることが可能だ。追加負担案のなかでも、育児・介護期間には保険料を免除する折衷案(V案)もある。
 追加負担方式は案によって違いはあるが、専業主婦の多い30-50歳代のサラリーマン世帯や、高所得の男性社員が多い大企業では負担増となる可能性が大きい。実際に負担のルールを変えるとなれば、こうした層からの反発は必至。検討会でも具体策をめぐる意見の隔たりは大きく、調整には時間がかかりそうだ。
 
専業主婦の保険料負担の主な選択肢
 

方法

負担者

ポイント

現行制度

定率

妻の分は会社員全員で負担

I案

定率

夫の賃金の半分を妻の賃金と見なして保険料・年金を2分割する

II案

定額

妻が自分の国民年金保険料を支払う

III案

定額

妻分の国民年金保険料を夫から上乗せ徴収

IV案

定率

妻の国民年金分の保険料を夫から報酬比例で上乗せ徴収

V案

保険料の免除を育児介護期間中に限定

VI案

定率

保険料上限を上げ高所得者の保険料を一律引き上げ
医療費月額上限 75歳以上40,200円に

2001/10/ 4 日本経済新聞朝刊

  自己負担で厚労省提示 外来、大幅に増加
 厚生労働省は3日、2002年の実施を目指す医療制度改革の同省試案に関連して、患者の医療費自己負担に一定に歯止めをかけるための「自己負担限度額」の詳細な見直し案をまとめた。75歳以上の高齢者では、基本的に外来・入院を問わず月額40,200円を上限とする。現行は外来が3,000-5,000円、入院が原則37,200円のため、特に外来の場合に大きな負担増になる。74歳以下の上限は現在より8,700円引き上げ、72,300円とする。
 見直し案は同日の自民党医療基本問題調査会・厚生労働部会合同会議に厚労省が示した。
 75歳以上でも十分な所得がある人の場合には、74歳以下と同じく月額72,300円を上限とする。かかった医療費が上限額を超える場合には、超過分の1%を追加の自己負担として求める。一方、住民税が非課税となる低所得者などについては、月額上限を現行のまま据え置く。
 制度改正が試案通りに実施されると、75歳以上の外来の負担額は最大で8-13倍に膨れ上がる。
 74歳以下の人のうち、月収56万円以上の高額所得者については、上限を18,000円引き上げて139,800円とする。低所得者の上限(35,400円)は現行のままとする。
 厚労省が9月下旬にまとめたい両制度改革の試案では、医療費負担などを優遇する高齢者医療の対象年齢を現在の70歳から1年ずつ段階的に引き上げ、2006年度から75歳以上にする。患者の負担割合は75歳以上の場合、かかった医療費の1割、70-74歳で2割、69歳以下で3割とする。これに加えて毎月の上限額も引き上げると、患者の負担は一段と大きくなる。
 政府・与党は厚労省の試案などを基に、年末までに医療制度改革の最終案をまとめる予定。だが、景気が低迷するなか国民に新たな負担増を求めることには与党内にも異論があり、調整は難航する見通しだ。
 
患者自己負担の上限の引き上げ
現行   厚労省試案
69歳以下   74歳以下
高所得者
(月収56万円以上)
121,800円+上限を超えた医療費の1%(以下同)

139,800円+1%
一般 63,600円+1%

72,300円+1%
低所得者
(住民税非課税者など)
35,400円

据え置き
     
70歳以上 外来 入院   75歳以上 外来・入院とも
一般 3,000円
(大病院は5,000円)

37,200円

現役並みの所得がある者

72,300円+1%

一般

40,200円

低所得者
(住民税非課税者など)

24,600円

低所得II
(住民税非課税者など)

24,600円

老齢福祉年金受給者

15,000円

低所得者I
(老齢福祉年金受給者以外にも拡大)

15,000円