ある晴れた日に、仲間と9-1を探す小さな旅に出た。


ス|スーパーマリオブラザーズ
SUPER MARIO BROTHERS

Nintendo
FAMILY COMPUTER
1985

ジャンル| アクション
目的| 魔王クッパにさらわれたピーチ姫を救うこと



大人達の間で阪神優勝の熱狂が印象的な1985年、初秋のその日、子供達の間でのもう一つの熱狂がまさに始まろうとしていた。あたりの空間全てが、地球から一番近い恒星の広大な宇宙空間を経由して到達した薄赤い光で満たされた、夕暮れのその時が、少年のスーパーマリオブラザーズ未知時代が唐突に終了した瞬間だった。

第一次接近。「スーパーマリオって知ってる?」テニスの練習に行くために、コーチの家の前でだらだらしていると、ふいに友人がそう言った。「へ?」ファミコン情報には当時はそれほど関心がなかった。ただ、人が自分の知らないことを知ってるのは悔しかった。

「マリオの続編がでて、すごいらしいよ、コウタが言ってた。」「キノコが敵らしいよ」「進んでくと海の世界があってマリオが泳ぐんだって」「溶岩のシーンがなかなか難しいらしいぜ」たたみこむように新知識を教えられた。

マリオブラザーズの新作だと言うことは分かった。だからおそらくマリオブラザーズの延長線上にあるのだろう。・・・キノコ・・・海・・・溶岩・・・マリオブラザーズの固定画面のアクションに話の中で出てきた物体をつぎつぎと当てはめてみた。画面全体の敵を小気味よく転ばすお気に入りのPOWはどうなったんだ?なにがなんだかさっぱりわからない。「お、待ったか、いくぞ」コーチが話をカットして、その第一次接近遭遇は、少年の心に数々の謎を残しっぱなしでフェイドアウトした。

第二次接近はその友人の家であった。「買ったから、家こない」気がついたときには、当時ファミコンの標準であるRF出力で繋がった本体の前で、軽快なスーパーマリオのサウンドを聞いていた。クリボー、ノコノコ、ハンマーブロス、メット、パタパタ、クッパなど、色とりどりの様々な敵が、8エリア各4ステージ合計32ステージのその世界に住んでいた。

点滅する[?]ボックスを叩くとファイヤーフラワーが優しく咲き乱れる。城にたどりつくと、その背景に花火が何発かドーンドーンと上がる。加速する時には、Bダッシュ。100個コインを集めると、ワンナップ。緑色のキノコもワンナップ。土管をくぐると地下世界。特定のブロック叩くと、豆の木が出て雲の上。チャラッチャチャラッチャチャラッチャラ、ゲームオーバーの音楽さえおいしく感じる。様々な見たこともないアイデアの竜巻が、モニターの中を渦巻いていた。その竜巻は日本各地を襲い、また日本だけにとどまらず、アメリカにも波及していった。

第三次接近は、意外な噂がきっかけだった。もう少年の中でのスーパーマリオブームが終わった頃、その噂は流れてきた。晴れた日だった。「WORLD9-1があるらしいよ」・・・「9-1・・・だって8-4までじゃん、嘘だ。だまされてんだよ」「なんかバグがあって、プログラムされてないんだけど不思議な海の面なんだって、今やってみせるね」友人はスーパーマリオブラザーズのオレンジ色のカセットと、テニスのカセットを取り出すと、それをガチャガチャとファミコンのカセットのさし込み口に差し込んだり外したりを繰り返した。そしてリセットボタンを押したその瞬間、あっ


WORLD
9-1


そこには確かにメーカーもプレイヤーも予期しなかったワールド9-1があった。驚いたというよりも、それを見てなぜか怖かったことを覚えている。よく子供のことを配慮したプログラムの上でぼくらは遊んでいたはずだった、それがファミリーコンピュータプラットフォームにおいての侵されることのない確固たるメタルールだった。

その後、映画スタンドバイミーで死体があるという噂を聞いて、子供達だけで死体を探しに行き、それを発見するシーンを見ると、少年はあの時の気持ちを思い出した。そこで彼らは僕らと同じように、この世界のやさしい人々によって子供の目から巧みに隠されていた一つの真理、日常と破綻した日常のあまりの近さをそこで、知ったのだ。


注:記憶で描いてますのでこのやり方が正しいかどうかは不明なのと、このやり方で9-1を出すとファミコン本体か、カセットが壊れるという話がその後噂として広がったので、今、試さないでください。


bitnik.jp
1998