OVERNIGHTS ADVENTURE


セ|ゼルダの伝説
THE LEGEND OF ZELDA

Nintendo
FAMILY COMPUTER
1986

ジャンル| アクションRPG
目的| 魔王ガノンを倒すこと



ガラス越しの人工光源に照らし出された128画面の大地を縦横無尽に、8つに分かれたトライフォースのかけらを探し求めた時間があった。ディスクシステムによって初めて可能になった、ゲームの中に消えないデータを記録する快感。

緑濃いハイラルの草原を走り抜けた軌跡が、ぼくの記憶や、友達の記憶だけでなく、この黄色いプラスチックの中で回転する磁気ディスクにも、ゼロとイチで刻印されていく体験。たとえどんなハイスコアを取ったとしても、リセットボタンを押せば、ソフトからは忘れられる、どんな過程もしょせん一夜限りのはかない記憶、というそれまでの慣習は破られた。ぼくらは少し大人になった。

ゲーム開始時に名前を登録するわくわく感。それは幼稚園から小学生にクラスチェンジする時に、買ったばかりの真新しいランドセルに、覚えたばかりの自分の名前を漢字で書き込んでいったことを思い出させた。何かがこれから始まるという、期待感。セーブという内緒の言葉をささやいて、幾度かの朝の光と夜の闇を貫いて、冒険は続いていく。

ディスクシステムの電源を入れる。岩壁に滝が流れるオープニングシーンが、ディスクシステムの音源を経由して声をあげ、カートリッジとは違うということを、宣言する。謎解き、レベルアップ、現在では見慣れたシステムの原型がそこにはあった。爆弾で壁を爆破し、いかだで海をわたり、木を燃やし、はしごで崖を超え、巧みに隠されたトライフォースを隠す迷宮への入り口を、コントローラの十字キィを親指で滑らせて、探し出す。

ミンナニハ、ナイショダヨといってコインをくれる洞窟に住むハイラルの住人。ナイショだと言われて、どきどきした。時おり、白い羽を持つ赤い妖精が、目の前にふらりと現れ、心のやすらぎと、ライフの回復をぼくに運んでくれる。笛を吹くと、どこからともなく画面の向こうから竜巻がまきおこり、迷宮の入り口へとぼくをいざなう。地下迷宮不覚に住む、行く手を阻もうとする意思が具象化したウォールマスター。影にひそむゾル、ゾルが分裂したゲル。

迷宮の中には、ぼくの冒険を面白くしてくれる個性豊かなボス連合が存在した。拮抗する力と力の饗宴。一角獣のアクオメンタス。巨大なサイ、ドドンゴ。人喰いバナ、テスタチート。首の長いドラゴン、グリオーク。怪物ウニ、デグドガ。一つ目化け物蟹ゴーマー。コウモリの集団パタラ。そして最後のボス、恐怖の魔王ガノン。

長い探索の旅を終え、トライフォースを完成し、懐かしいゼルダ姫とのずっと待ちわびていた再会。だが、その再会は、ぼくのコントローラーの操作を「リンクのアドベンチャー」として変換する、なじんだやさしい関数との悲しい別れを意味した。クリアして嬉しいはずなのになぜ寂しいんだろう。それはゲームで感じる初めての気持ちだった。晴れ晴れとした寂しさを残して、夜を超えた長い冒険は、終了した。

あれからもときどき、ハイラルの光さす一連の昼と夜とが訪れる。
ZELDA IS BACK,TODAY.
11.21.98



bitnik.jp
1998