1999 Jan. 中期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

Feb. 21th (Sun.) - 22th (Mon.)

日曜日は家や三条の Cafe Riddle などで数学を考えていた。
月曜日は、朝から BKC へ。今日は修論の発表会だったので。

雑談で耳にしたのだが、 関西で「お箸の持ちかた教室」が子供の習いごととして流行ってきているそうな。 半年くらい訓練 すれば大抵の子供は正しく箸が使えるようになるんだそうな。 どういうことなんだろう。

今日の読書。"Yutaka Taniyama and His Time (Very Personal Recollections)" by Goro Shimura, Bull.London.Math.Soc.21 (1989) pp.186-196.
今日の夕方、色々な打ち合わせで数学科の A 君が研究室を訪ねてくれたのだが、 その時に D 先生にもらったと言ってこの「論文」をおいていったので。 Bull.London.Math.Soc. (ロンドン数学会紀要) は普通はもちろん数学の論文しか掲載されない。 これはその例外中の例外で、 (*1) 谷山豊という今は亡き数学者の思い出を語ったエッセイである。 こういう話はどうしても悲劇の英雄、夭逝の天才として 人物を書いてしまいがちだが、 所々ユーモアさえ感じられるゆったりとした文章で、 淡々と Taniyama がどんな人であったか、その時代はどんな時代であったのか、 をさらりと書いていて、しかもしんみりと哀しみが伝わってくる名文であった。 もちろん僕にはこの英語が文法的に名文であるかどうかはわからないが、 感動を伝えるという意味では間違いなく素晴しい文章だと思う。 谷山豊の名前を知っている人は読んでみると良いですよ。お勧めします。


(*1)谷山豊(1927-1958)
数学者。ユタカは通称で本名はトヨ。 虚数乗法論の高次元拡張についての志村との共同研究や、 フェルマーの最終定理の解決に決定的な役割を果たした 谷山-ヴェイユ予想などで有名。 外留、婚約者との結婚を目前に予定しながら、 数日後の31歳の誕生日を前にした1958年11月17日、アパートにて自殺。

Feb. 23th (Tues.)

午後から BKC へ。 NEC の電子商取引方面の偉い人が来て講演をしていた。

あれこれ考えてみるが、なかなかうまく行かないものだなあ… この前、名古屋で聞いた話について、なにか出来そうな予感があったのだが、 もうちょっとという齒痒い感じで手が届かない。 まあ、人の話を聞いてぱっと新しいことができるってものではないのだが。

Feb. 24th (Wed.)

京都は雨で冷え込む。午後から京大数理研に出かける。

T 師匠とゼミ。 お互いに材料不足だったため、 方針を確認し合うようなゼミで、 来週にまた仕切り直しということになった。

最初にあるアイデアがあって、そのアイデアが発展して、 どんどん大きな理論になり、どんどん整備が進み、 例えて言えば道路や各施設が整備された一つの都市のようになり、 多くの人がそこで研究をするようになったとする。 最初にあった素朴なアイデア、 町を作るための最初の礎石はもう見えなくなっている。 そうすると新参者は整理された綺麗な理論を学ぶようになるから、 その理論の背後にある「真の意味」を探ろうとする動きが出てくる。 しかしそれは、 実は一番最初にあったアイデアに他ならない、という可能性もある。 それは研究成果なのかな? それは最初にあった素朴なアイデアが再発見というプロセスを 通じてついに正しく認識されたということかも知れない。 でも、ただの再発見であって、一歩も前進していないのかも知れない。 そこが難しいところかね。

Feb. 25th (Thurs.)

午後から大学に出て、色々と雑務。 夜はチェロのレッスン。 ガット弦にこだわりを持つ先生が、 ガット弦についてとめどなく語ってくれたため帰りが遅くなった ;-)

久しぶりに「実用経済学講座」。
最近、外貨預金が注目されてますね。実際は少々利子が高くても、 為替の手数料と税金でかなりの部分が消えてしまう上に、 為替相場のリスクがある分、買ってもろくなことはなさそうだ、 と個人的には思うが、宣伝はかしましい。 例えば、円でドルを買って、ドルを円に戻すと普通は往復で 1ドルあたり2円の手数料がかかり、利子と為替差益には税金もかかるので (利子は20パーセントの源泉徴収、 為替損益はグレーゾーンだが普通は徴税側に有利に解釈して徴税される)、 ドル預金の利子が相当高かったとしても、その利益はかなり怪しい。 まあ、それはそれとして、さて本題。 外貨預金の宣伝の際に、次のような「為替リスク回避法」が広く紹介されている。 曰く、毎月一定額の円でドルを買っていきましょう。 そうすれば円高の時はたくさんドルを買えて、 円安の時は買えるドルの金額は小さくなるではないですか。 これによってあら不思議、為替リスクが自動的に平均化され、 ドル預金の高利子のメリットが亨受できるのです。 さてこれは本当かな? 色んなレベルの考え方があると思うが、 自分の頭でよーく考えてみましょう。 回答、というか私の考えについては二三日後に。 結構いい確率論の問題だと思うので、 将来確率論の講義を持ったら試験に出すかも(笑) 確率論の専門家の方は為替がランダムウォークするとでもして、 利益を計算してみてはいかがでしょうか。 為替がブラウン運動だとしてみるとどうか? より実状に則した確率微分方程式の解ならどうか? どうなんだろう?

Feb. 26th (Fri.)

朝から BKC へ。 卒業研究の発表会で。 僕の学生たちも無事に発表を終えてくれてめでたしめでたし。 ろくに指導もしなかったが、なんとか卒論を書いてくれてよかった。

これで今年度は、会議いくつかとパーティなどイベントを残すのみとなった。 一年がたつのは早いことであるなあ。 今年も無為徒食の日々であった…(深く反省)。

Feb. 27th (Sat.)

朝はチェロの練習。どうも弓が重い。 etude が急激に複雑になってきて、つい肩に力がはいり、 力んでしまっているらしい。

午後は解析力学の勉強。ずっと家でいると疲れてくるので、 三条に出て喫茶店で勉強を続ける。 夜は飲む予定だったが急にキャンセルになったので、 さらに夜まで解析力学の本を読んでいた。 解析力学って深いなあ。正準変換なんて手品みたいだね。

結局、夜は一人自宅で酒を飲みながら読書。 「プルーストによる人生改善法」(アラン・ド・ボトン)。 プルーストの「失なわれた時を求めて」を、 いかによく生きるかのマニュアルとして読むという変てこな本。 この作者は読むと西洋哲学と思想をおさらいできるという 恋愛小説「小説 恋愛をめぐる24の省察」でも有名。 ド・ボトン(名前も変てこだ)は有閑エリートらしく、 まさにそれらしい内容である。 私は好きですよ、こういうの。

Feb. 28th (Sun.)

たまにチェロを弾いたりして休憩しながら、朝から晩まで計算を続ける。 山のように反古は出来たが、はっきり何かが分かったという感じはなし。


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