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生まれつきの盲だった。
光の無い、音だけが頼りの世界で生きてきた。
一族の中で、欠損品であった。
しかし、我に一族の能力が、一族の中で一番多く授かっており、それが発覚してから、我は崇められるようになった。
代々続く陰陽師の毛利家の中で。
力の保有の為、障りの無いよう、屋敷の奥へと押し込まれている。
だが、それに不満など一つも無い。
他人との関わりは、苦痛でしか無い我に取って、渡りに船の暮らしを過ごせるからだ。
ほんの一握りの年季の入った使用人達だけに、世話をされ、我は静かにひっそりと息をして生きていた。
あの鬼に逢うまでは。
「元就様、他に御用は御座いますでしょうか」
「無い」
「では、下がらせて頂きます」
部屋の中央に座り、下がる使用人を見送る。
単に、障子が閉められる音を聞いていただけだが…、静かだ。
今の我は、いつもの屋敷の奥ではなく、別の場所に居る。
月に一度、この山の奥の屋敷へと籠もる。
この身に起こる月の障りの為に。
対外的には力のある者として、我は男とされておる。
女ではこの地位は駄目だとされながら、力の為に据えられている。
男へと身を窶して。
…いつまで、続くのか。
こんな歪んだものが。
自嘲して笑う。
決して望んでいないが、この儘でいるしかない己に、考えても栓無い事だ。
疾うに諦めていると云うのに。
…休むか。
身体が辛い。
床に横になり、身体を少しでも休めねば。
用意されてある寝所へと立ち上がると。
冷ややかな空気の中、微かな気配を感じた。
使用人のではない。
生き物の気配だ。
そして、この匂いは…血?
血の香りを辿り、我は歩を進め、手探りで障子を開けた。
血の香りが一層濃くなる。
目で確かめられぬ為、鼻をスンと嗅ぐ。
その香りに誘われ、我は縁側から庭へと足を下ろした。
定期的にしか来ぬ所だが、慣れた場所だ。
我は足袋の儘、庭を歩いた。
血の香りの根源を探しながら。
危険だ。
それは判っている。
だが、足が止まらぬ。
胸がざわつく。
落ち着かぬ。
早く早く、と。
その血の香りの元へと、我は急き立てられていた。
足を止める。
目に見えぬ、大きな蹲っている気配の前に。
我は足を止めた。
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(朱隠し 〜本文より抜粋)
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