【しるし】 紅椿


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雪 雪 雪
しんしんと降り積もる雪を
溶かしてしまえる熱をくれる貴方がいる

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抱き上げられて、運ばれる。
気恥ずかしさが先に立つが、決して嫌な訳ではない。
寧ろ…。


四国の地に、姫と共に来てから初めての新年を迎えた。
だいぶ、ここでの生活にも慣れてきている。
我よりも姫の方が、やはり子供の為かすっかりと慣れたようだ。

そして、父である元親にもすっかりと懐いている。
あれだけ可愛がれば当然だろう。
溺愛と言っても過言ではない。
何度か諌めたのだが、離れていた分を埋めていると言われては。
我に反論の余地はなかった。
だが、やはり…。

「こーらっ、元就、ナニ考えてんだよ」
「…別に」
「ウソ吐くんじゃねえの」
「嘘では…」
「そーんな顔で言っても説得力ねえっての」

いつの間にか、褥の上に下ろされており。
元親の大きな身体が、我へと覆い被さっていた。
そうして、鼻先が触れる程に顔が近付いていた。

「ナニがそんなに心配なんだよ? 俺に話せって」
「…心配など」
「んじゃ、不安」
「……不安」

この痛みは、不安なのだろうか。
この追い立てられる様なものは。
落ち着かず、ただ苦しくなってしまうものが。

「元就は考え過ぎるんだって、もう少し気楽にしてイイんだぞ」
「気楽…に」
「そ。それにさ、元就は俺がいるだろ。ナンでも俺に言えばイイ。心配事も不安も」
「…それは」
「イイんだって。今はまだ無理だって言うんなら、それでもイイ。いつかでよ」
「…そなたはそれで、良いのか?」
「イイぞ。元就からだったらナンでも」
「…理不尽な事でもか?」
「但し、俺の為とか言って、俺から離れるってのはダメだかんな」

心の裡を見透かされた気がした。
いつも、どうしても、頭の中から離れぬ事なのだ。
元親の事は信じておる。
その言動の何もかもを我は信じる事が出来ている。
だからこそ、その分だけ。
我は我を信じる事が出来ぬ。想われる価値の無い我を。
いつか不必要になる。それだけは判る。納得が出来る、のだ。

「元就」

いきなり頬を叩かれる。軽くなので痛みはなかった。
ただ浸っていた思考から戻る、と。
真上から覗いてくる元親の眸は、怒っていた。

「ぜってえ、離さねえから」
「…元親」
「元就はどこにもやんねえんだよ。
 元就は俺のモンだって、ぜってえに判らせてやっから」

視線の強さに射竦められていると、元親の顔が首筋に埋められてきた。
ゆっくりと、元親の身体が重ねられてくる。
重みを加減し、それでも温もりで包むように。

…温かい。この儘、全て委ねてしまえば。
どんなにか、楽になれるのだろうか…。
…我に、それが出来るのだろうか。元親の言う通りに。
いつか…。


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きつく目を閉じる。
それでも、銀の光を眩しく感じる。
熱い。
熱い。身体の中に熱が隠っている。
吐き出そうにも、湧き上がる熱に身体だけでなく心も追い付かぬ。
身の裡の奥。深いところを元親に穿たれている事に。
気が狂いそうだ。

「大丈夫か、元就」
「だ…ぃ…じょ…、ぶ」
「ゴメンな、加減出来ねえや」
「……いぃ、しな……く、て」

切れ切れに、熱に浮かされた事で、本心を伝える。
我は本当に狡い事しか出来ぬ。
何かを理由にせねば、言葉にしないなど、と…。
一気に申し訳無さが広がり、我は唇を噛んだ。

「元就、イイんだって」
「……えっ?」
「俺はお前がこうしてくれりゃあ、そんでイイ」

繋がった儘の身体を抱き締められる。
息が詰まる。涙が眸から溢れ出す。
四肢が…その末端が、熱いのか冷えているのか。
考えられなくなる。
考えられるのは、元親一人の事になっている。
我に取って。

「…我、も…同じ…」
「そっ、同じなんだよな、俺達は」

元親の嬉しそうな声に、敷布ばかりを掴んでいた手を。
我は元親の背へと回し、離れまいと抱き締めた。
今の我に持てる全てで。





2012.01.05                  back
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