【しるし】 白椿


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夜 闇 静寂
沈み込んでゆく
誰にも邪魔されないように

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諦めていた。
つーか、諦めるしかなかった。
たった一度だけ、抱いた元就を。

けど、それは勘違いだったワケで。
今は、大団円で元就を四国に連れて来て。
姫も一緒で、完璧な夫婦だってのに。
ナンでなかなか俺に懐いてくんねえのか。
姫はすっかり懐いてくれてるってのによ。
時々、他人行儀にされんのが、すっげえイヤだ。
しかも、元就のヤツ、意識的にやってっからなあ。
口に出さずによ。

どうやったら、自信をつけさせてやれんのかなあ。
元就自身に。
アイツは俺を信用してねえワケじゃない。
自分に自信がねえだけだ。
言葉でも行動でもナンでも、安心するならしてやりてえんだ。
元就が望むんなら、いっくらでも。


「お前だけだ」
「……あっ…もと、ち…か……」
「俺はお前だけが欲しいんだよ、元就」
「……我、を」
「そうだよ、信じろよ、ウソじゃねえんだから」

四国に連れて帰って来てから、殆ど毎晩抱いてる元就を。
抱き寄せて、言い聞かせてやる。
けど、まだまだ足らねえんだろうなあ。
俺を見上げてくる眸から、涙がポロポロ零れてくる。
気持ちイイからだけじゃないのは、顔を見りゃ一目瞭然。
こんな泣きそうな顔なんかさせたくねえってのにな。

…俺の甲斐性の問題、だよな。

「元就」
「……」

涙で濡れてる頬を撫でる。柔らかい頬が気持ちイイ。
元就の返事を待たないで、首筋に顔を埋める。
細い首に鼻を近付けて、元就の匂いを嗅いでみる。
元就自身の持ってる匂いは、清涼で、甘くて。
俺の本能を刺激してくる。

「時間、あるだろ」
「…時間?」
「俺とお前の。これからいくらでもあるだろ」

俺の言葉に元就が反応する。
首が俺の方へ向けられてきたんで、顔を上げる。
そこで見たパチクリとした眸と合った。ああ、可愛いじゃねえか。
紅くなってる唇に、軽く口吻けた。

「元就は俺を信じてる。俺も元就を信じてる。それは知ってんだろ?」
「…勿論、だ」
「ならよ、今はそれでイイって。俺、元就に無理させる気ねえし」
「…元親」
「ゆっくりでイイんだよ。お前がいるんならさ。だろ? 元就」

瞠られた眸が、嬉しそうに細められてく。
そうだ。俺はこんな元就の顔がもっと見たいんだ。
こんな顔を元就にもっとさせてやりてえ。

だから、その為にはだな。

繋がったまんまの躯を抱き寄せる。
きつく腕ん中に、抱き締める。
思った抵抗が無かったのに気を良くして、更に抱き締める。
細いけど柔らかい元就の身体は、俺の腕にドンドン馴染んでく。
離せるワケねえんだよ。
判れよ、元就…。

「………元親」
「ん?」
「もう少し、時間をくれまいか…もう少し時間が欲しい」
「ん――」
「我は、そなたの…」
「俺の?」
「傍にいたい…と」
「ん、俺もだ」
「それは本心からで、嘘では…」
「判ってる」
「元親、我は…」
「判ってるって、俺は。だから安心していいんだって、元就」

不安一つ吐き出すのにも、こんなにも不器用な元就が。
必死になる姿がいじらしい。俺だけに見せてくれ。
全部、俺に。全部、受け止めてやっから。
もう、俺から逃げんな。
逃げたりすんな、元就。

腕の力を弛めて、ゆったりと抱き締める。
元就の顔を覗き込んで、見つめてみる。
まだ眸は涙で潤んではいっけど、目許がほんのりと染まってて。
羞じらうように、俺のコトを見つめ返してて。
それがどんなに俺の胸を突いたかなんて。
元就は気付いてねえ。
ああ、全く。どうしようもねえ。

どうしようもなく、俺のコト惚れさせた責任、取って貰うからなっ!

「次は男な。ああ、でも姫も可愛いよなあ」
「も、元親?」
「俺の子、又産んでくれよ、元就」

元就を俺に縛りつけられんなら、どんな手段でも使ってやる。
ニヤリと笑ってやると、元就も苦笑した。

「いいだろ、なあ、元就ぃ」

態と甘えた声で言ってやると、元就の指が俺の頬に触れてきて。
次には、元就から唇が重ねられてきた。
それを了承の合図にして、俺は又元就へと覆い被さった。

朝が来ても離してやんねえからな。
覚悟はイイよな、元就。





2012.01.07                  back
元親×元就♀、しるしの番外編v
元親視点、頑張ってアニキ、貴方の頑張りに掛かってますv
そんな番外編、これにて終わりvv