星の在処 〜前〜
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願い事はひとつだけ
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いつもは、いっくら誘いをかけても、殆ど無視の奴が。
何を思ったのか、突然やって来た。
いつも通りの、澄ましたキレイな顔で。
「どういった風の吹き回しだ?」
「何か不都合があるのか?」
「いんや、俺の方は大歓迎なんだけどよお」
「ならば、問題はあるまい」
「珍しい事すっからさ、何かあったんじゃねえかと勘繰るワケだ」
「何もあらぬ」
簡単に口を開くなんて思ってねえけど、予想通りにぴしゃりかよ。
まあ、コイツらしいからな。
深くは追求しねえ。ヘソ曲げられると面倒だからな。
「不服か?」
「いーや、全然」
手首を掴んで、思いっ切り引っ張る。
強い抵抗は無く、ふわりと香の匂いと一緒に腕に治まってくる、細い身体。
毛利元就。中国の主。
俺の想い人。一方的なモンじゃねえからな。
「何をする」
「久しぶりだろ」
「だから、何だ」
「やる事やっておかねえと、な」
ぐっ、と腕に力を込めて距離を取ろうとする。
けど、それは形ばっかのモンで。
俺が腕に力を込めれば、抵抗は止んじまう。ほらな。
力がゆっくりと抜けていく。
俺に身体を預けてくるのを受け止める。
懐きの悪い猫が、懐いてくる瞬間。
コイツに言うと、目を尖らせるから言わねえ。
けど、可愛くて仕方ねえ。こんな事されるとよ。
「元就」
「何ぞ」
「いいんだよな?」
「わざわざ聞くな」
口では決して言わず、俺の着物の胸元を握ってくるのが。
元就の癖だ。了承の意の。
なんで、頭を撫でてやる。
睨まれるのと触り心地の良さは、いつも通りだ。
どんなに離れていようが、時間が経とうが。
柔らかくて、気持ちいい。
「貴様は…」
「ん? 何だ?」
「変わらぬな」
「アンタもな」
元就の両脇に手を差し込んで、抱き上げる。
俺の膝の上に、さっさと乗せる。
どうせ、小難しい顔するんだし、文句も聞かなきゃなんねえんだから。
これっくらいの、役得はねえとな。
「…馬鹿者が」
「ああ、それでいいさ」
おっ、今晩は大人しめだな。
やっぱ、七夕の夜だからか。
何かさ、こういった行事モンは好きみたいなんだよな、元就は。
それを口実に流されてくれる、つーか。
必要なんだろうなあ。
がっちがちに固まってる殻を壊せない分。
こうして、何かを理由にして寄っ掛かってくるには。
無言で寄せられてきた小さな頭。
その旋毛に唇を押し当てる。
指で頬の線を辿り、元就の形を確かめる。
ああ…俺のだ。
俺の元就だ。
胸ん中が温かくなっていく。
いつ、どうなるか判んねえ世だ。
俺が先か…元就が先か、そんな事も判らねえ。
絶対と口にはしても、曖昧なのは判ってる。
だからこそ、大事なんだよ、今が。
細い顎を取って、上を向かせる。
真っ直ぐに射抜く目で、俺を見る元就に。
俺は盛大に笑い顔を見せてやった。
不安なんか払拭してやれねえ。
与えてやれんのは、俺の気持ちだけだ。
それしかねえけどよ。
貰っとけ、なっ、元就。
「元就…元就…元就…」
「煩い」
「いいだろ、偶になんだからさ、言わせろよ」
「しつこい」
髪に隠されてる耳を探り当てて、しつこく囁いてやる。
何度も何度も、俺の声で元就の名前を呼んでやる。
ゆっくりと溶け出してくのが、判る。
元就の殻が。
溶け切る事はねえんだけどよ。
それでも、今のこの時だけでもいい。いいさ。
俺にだけしかしねえんだからよ。
「元就」
返事はねえ。けど、元就の腕が俺の首へと回される。
それを合図に受け取り、微かな笑みを浮かべた唇に俺は口吻けた。
2011.07.08 back
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