ずっと…。
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
何を望んでいるのだろうか
何を欲しているのだろうか
自分で自分が判らなくなる
底無しの穴の中から
抜け出したい
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
夜半。
ふと、目が覚めた。
しかし、頭の中に靄がかかっているように。
思考が、はっきりとせぬ。
何時だ…。
此処は…。
我は何処にいる、のだ。
何をしていた、のか。
頭を強めに振る。左右に。
酩酊感を振り払う為に。
酒は呑んではいない筈だ、と思うが。
くらりとする。
覚束無い。何なのだ、これは…。
「…………」
不意に、名を呼ばれた。
…気が、した。
横に顔を向ける。
そこには、男の寝顔があった。
…長曾我部。
心の蔵が跳ねる。
驚きで、声が上がるのを何とか止めた。
危ないところだった。
息をゆっくりと静かに、吐き出す。
長曾我部に気付かれぬよう。
起こさぬよう、にと。
起きると色々と煩いからな、この男は。
暫しの、沈黙を守る。
どうやら、大丈夫のようだな。
起きる気配は無い。
潜めていた息を解放し、視線を長曾我部へと向ける。
室の中には、月の明かりが仄かに差し込まれていて。
長曾我部の髪を浮き立たせている。
銀の光が、目に映る。
こんな時でもなければ、じっくりと顔を見る事は無い。
長曾我部から近付けてくれば、押し返しているからな。
この国にしては珍しい、色彩を持つ男だ。
但し、武将としての体格には恵まれている。
小憎らしい事に。
いっそ、今このまま縊ってやろうか、とさえ思う程にな。
だが、その考えも。
この男の無頓着な寝顔を見ていると、馬鹿馬鹿しくなる。
この男が、我に与えてくるものの所為で。
閉じられている隻眼の中には、青の色が有り。
もう片方の引き攣れた皮膚の下には、眼球は無いと言う。
我が抉ってやりたかった、と言うと。
アンタにだったら良かったのにな、と言われた。笑いながら。
貴様は可笑しいと、言うと。
アンタもな、と言ってくる。
嫌味も皮肉も通じない。
屁理屈で、返される。
長曾我部に、正論は通らぬ。
己のみの信念でしか、動かぬ。人は振り回すというのに。
そんな男だというのに。
そんな男だからこそ。
我は好いておる。長曾我部という男を。
ゆっくりと、身体を起こす。
両の腕を支えにし、上体を起こすと。
夜気の冷ややかさに、身体が震えた。
どれだけ人肌に温められていたかを知る。
肩から冷えていく。急激に。
しかし、冷えた事により思考が明確になった。
眠気も振り払えている。
「…長曾我部」
眠りが深いのを承知で、名を呼ぶ。
勿論、応えは無いが、それで良い。
慎重に身体を動かすと、微かな衣擦れの音だけが立つ。
静かに。ゆっくりと。
我は長曾我部の身体へと己の身を寄せた。
その身体に掌を当てると、血脈を感じる。
生きておる。
それに安堵する己に呆れる。
なので、面倒だ。
無駄にでかい長曾我部の身体の上に、我は乗り上げた。
「……っ、も、毛利っ? な、ナニしてんだ?」
「煩い、長曾我部。黙っておれ」
「は?」
長曾我部を無視し、胸へと耳を当てる。
とくとくと聞こえてくる鼓動の音に。
我は目を閉じる。
「毛利?」
「煩い」
再び、眠気が訪れた我は。
長曾我部の腕に抱き寄せられる儘、眠る事にした。
囁いてくる声を聞きながら。
2011.12.05 back
元親×元就
夜の話。微甘。
アニキに届かなくても構わない、ナリ様の独り言。