「貴方に花を」 一


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一度だけ
たった一度だけと思った
その一度だけで
納得すると決めていた
出来ても出来なくても

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四国と同盟を結んだ。
敵対国からの一時休戦の形で、互いの利益の為に、と。
刃を交わしていた国と同盟を結んだ。
恒久ではないが、戦いに依って国をこれ以上疲弊させるのは得策では無い。
そう結論を出した結果だ。

国の為なら、良いと思った。
それを…いや、それが理由ならば良い、と。
他に理由など無いと、言い切れる。
唯一の理由と、己に言い聞かせられる。
そう、我は決めたのだった。

同盟を結んだ相手――長曾我部の嬉しそうに笑う顔を――見た時に。


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「これから宜しくな、毛利」
「うむ」

四国の主、長曾我部元親は今までの禍根をなかったかの様に、我へと笑いかけてくる。
この切り替えの早さは、何なのだろうか。
警戒というものは、無いのだろうか。
慎重という細やかさに欠ける男だとは、思っていた。
しかし、ここまで明け透けにされると不審が沸くのは当然であろう。

「そんな構えるなよ、折角同盟組んだんだからさ」
「構えてなどおらぬ」
「俺は裏切ったりしねえって、信用してくれていいぜ」
「言葉では何とでも云える」
「かってえなあ、アンタ」
「貴様の気が抜け過ぎておるのだ」

そうかもなあ、と大笑いしてくる長曾我部に呆れる。
本当に、どこをどうすればここまでいい加減な国主になるのだ。
どこまでも違い過ぎる男。
相容れる事など決して無い筈の、男だ。
それが…。
それこそ、いつの間に、だ。

我は長曾我部を。

認めようが認めまいが、事実として我の裡にある感情が根付いている。
信じられぬが、どうも出来ぬ。厄介なものだ。
こうして囚われるのを良しとせず、感情を切り捨ててきたというのに。
何故、今更に…長曾我部に、感情を抱こうとは。
捨て去れる物ならば、即座に打ち棄てておるものを。

思わず、溜息が零れた。

「おいおい、どうしたんだよ、疲れてんのか?」
「何でもあらぬ」
「何でもナイって顔じゃねえぞ? 何か心配事か? 話してみろよ」
「貴様に話してどうなる」
「ん〜相談に乗るし、話して気が楽になるってのもあるじゃねえか」

戯け、が。
我はきつく口を引き結んだ。
話してどうなる、と口にせず、心の中だけでもう一度呟いた。

「ほらほら、毛利。話してみろって」
「遠慮する」
「おいっ、こらっ、毛利ってばよ」

云えぬ。
云ったとしても、同じ事であろう。解決など無い。
ならば、云わぬ方を我は選ぶ。

「毛利っ、毛利っ、チョイ待てって」

これ以上、会話をする気などなく。
我は長曾我部を室に置き、退室した。


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我は頂点に居る駒、なのだ。
決して、動いてはならぬ。
象徴とも云えるのだ、この国を守る為の。
だから、己の感情を封印した。捨てたのだ。
持つ事を許されないと、考えた。
我には必要の無いものと、した。
それで良いと、それが正しいと過ごしてきた。
まさか、それらが揺らごうとは…。
信じられぬ、まさか…まさか、なのだ。

長曾我部と対峙する事に、こんな事を思う日が来るとは。
信じられぬ。

ただ、互いの国を守る主でおれば良かった、などと。
けれど、それだけでいられないと、思う己がいる、などと。
惑乱だけが大きくなってゆくのだ。
苦しい。
辛い。
苦しい…息が、出来なくなりそうな。
そんな思いが日々募り始めている。

どうすれば…。
どうすれば、良いのだ。
こんなものを抱えているなど、と。
捨て去れない己がいる、などと。
閉塞する。八方塞がりにだけしかならぬ。

この状態を一体、どうすれば良いのだ、我は…。
………。
………。
………。
そうか。
どうも出来ぬなら、いっそ、叶えてしまえば。
きっと。
良いのだ………。





2012.07.30
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元親×元就
アニキに片思いしてると思っているナリ様です
BGMはミクの【貴方に花を 私に唄を】でどうぞv