「貴方に花を」 十


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切望する
欲しくて欲しくて仕方が無い事だから
水を飲むように
空気を吸うように
それは自然な事だから

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時が無限なワケがねえ。
そんなのは知っていたってのに、忘れていた。俺は。
単に、気付いていなかったのか。
大丈夫だって、自分を誤魔化していたのか。
今となっては、全部遅い。遅すぎる。

俺は後悔しか出来なかった。

何時、何が、どうなるか、なんて。
この時代に、油断なんてしてられねえ。
あっちから仕掛けられるか、こっちから仕掛けるか。
そんな生き馬の目を抜く、ご時世だ。
俺だって、勿論気を抜くコトなんてしねえ。
それが国主の役目で、俺の背負うモンの為にも。

ただ…。

どうしても、後悔しちまう。
毛利のコトを。
もっと、どうにか出来たんじゃねえか、とか。
ナンで、尻込みなんかしたんだか、とか。
拒否されんのがイヤで、動けなくなった。
言葉も足んねえ。云いたいコト、伝えたいコト、ナンも云ってねえ。

あの夜が忘れられねえ。

確かに、俺はこの腕で毛利を抱いた。
酒の勢いに任せて、酒の所為にして抱いたんだ。
夢じゃねえ、筈。
例え、毛利が無かったコトにしたとしても。

ナンでよ、あん時によ。
もう一歩踏み込まなかったのか。
いくら踏み込めない壁を作られても、それを叩こうとしなかったのか。
そのおかげで、一度、失った切っ掛けは掴めなくなっちまった。

後悔ばっかだ。
毛利のコトは。

そんなコトばっかで、時間ばっか過ぎて。
会いてえのに、会いに行くコトが出来なくて。
うじうじぐじぐじ、してたらよ。
いきなり、時勢が動き出した。
豊臣の大猿が、奇をてらって動き始めた。
遅れは取ってねえ。
だが、うねりってモンがある。
どちらが多く、それを引き寄せられるか、だ。
確かにあるんだ。止められねえモンが。
自分の力だけじゃどうしようもねえってモンが。

そうだろ、毛利。

目を閉じて思い浮かべると、あの顔が浮かぶ。
困ってもいねえ、笑ってもいねえ、感情を削ぎ落とした顔が。
けど、それをよ。
俺がさ、いつか変えてやりてえ。変えてやれたらって思ってんだぜ。
アンタの顔、俺さ、好みだからよ。
笑ってくれたら、すんげえイイんだろうなあ、って思ってた。
色々、考えていたんだぜ、毛利。
アンタのコトを。俺はさ。


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「アニキーーーーーっ!」

済まねえな。
そんな悲痛な声で、叫ばせてよ。
慕って付いて来てくれてたってのに、こんな幕切れでよ。
ざまあねえ。

「アニキの所為じゃありませんからっ」

全部、俺の所為だ。
国を守れ切れなかったのも、野郎共を死なせたのも。
全部、俺に力がなった所為だ。
俺の首ひとつで、お前等の命乞いになるんなら。
いっくらでも、くれてやる。
それが、今の俺に出来る唯一だ。

「約束は守れよ、竹中」
「勿論だよ、元親くん」

首へと当てられた剣の冷たさに、ひやりとする。
けど、恐怖はねえ。
覚悟はいつでもしてたからな。
そん時が来ただけだ。
視線を向けると、豊臣の軍師は笑った。仮面の向こうから。

「心配はしなくて良いよ、無駄な殺生はするつもりは無いからね」
「それを聞いて安心したぜ。けどな違えた時は地獄から鬼の俺が戻って来るから」
「それは怖いから、肝に銘じておくよ。じゃあ、そろそろ良いかな」
「好きにしろ」

刃が首へと食い込む。
皮膚が切られ、血が噴き出す。
首の肉、骨が軋む音を立てる。
目の前が真っ赤に染まった。
耳が滴っていく血の音を拾っていく。

あぁ、最後だな。俺も。

毛利。
毛利。
毛利。

アンタはどうしてる?
アンタも大変なコトになってんだろうな。
すまねえ、駆け付けてやれなくて。
同盟、破棄されても文句云えねえや。
ゴメンな、ホントによ。

…アンタに、会いたかったなあ。
もう一度。
会って、今度こそ、俺はアンタに惚れてるって云ってよ。
アンタの返事を聞きたかった。聞けば良かったよな。

後悔ばっかだ。
アンタのコトだけは。
だから、もし、又会えた時は。
絶対に、アンタに………俺は。

これが、この戦国の世の俺の最後の意識だった。





2012.09.20
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元親×元就
アニキの最後です…
BGMはミクの【貴方に花を 私に唄を】でどうぞv