「貴方に花を」 四


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会っていようが会っていまいが
どちらにしろ落ち着かない
それ程に
気にしている
気になっている

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忘れてきたのに気付いたのは、外洋に向けて船を出した瞬間だった。
あれを手に入れてから、必ず航海に持っていっている。
服の隠しに入れて、守りにしていた。
うわーっ、ドコに置いてきちまったんだ。
まさか、なくしちまったのか、俺。
すげぇ、気に入ってんのによ、アレ。
見つけた時から。
目にした時から。

小さな翡翠の珠。

即座に連想したのは、毛利だった。
アイツはこんな丸くはねえ、けど。
こんな風に、殻ん中に閉じ籠もってる、そんな気がした。
膝を抱え、傷つかねえように丸まっている。
そんなカンジがしてよ。

俺はその珠を手に取った。
それから、ずっと手元に置いてた。
それこそ肌身離さずに、な。

…参った。
マジで、いつ無くなっていたのかにも気付いてなかったもんで。
見当がつかねえ。
この間、中国に行った時に持っていったのは覚えてる。
何度も懐から出して、眺めたのも覚えてる。
…で、帰る時に、俺はどうした?
そこの記憶がねえ…。

ち、一寸待て。
思い出せ、思い出せ、俺。
帰る時は…いつも通り、毛利と同じ問答の繰り返しの半分ケンカみてえな言い合いして。
けど、毛利にやっぱり見惚れてて。
離れ難くて、グズグズしてたら出航時間ギリになって。
慌てて、船に乗ったよな…。

そん時、俺はあの珠を持っていたか?
んーーーーーーーーーーーーーー?
いつもなら、隠しんトコを手で叩いて確かめてたんだが。
それしたっけか? してない気もするな…。
すっげ、あやふやだ。
ヤベえ………。

無くしちまったのか、アレ。
大事にしてたってのによ。
ナンか、残念とか諦めるとか、そんな心境じゃねえよ。
ドコにいった?
ドコにあるんだ。
探せるモンなら探すさ。
航海中の海の上じゃなければよ!

今、持ってなきゃ、この船の中にはねえもんな。
その現実に、俺は暫く落ち込みながら航海を続けて行った。


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「貴様の忘れ物ぞ」
「え? コレって?」

航海の帰り道、当然で中国に寄り道をして、毛利んトコに行ったら。
いきなり箱を押し付けられた。
小さな箱だった。毛利が忘れ物だって云った。
もしかして。
コレってもしかして。
俺は深呼吸をひとつしてから、箱の蓋を開けた。
そこには予想通りの品が、布の包まれてちょこんとあった。

「毛利ぃ」
「しかと、渡したぞ」
「ありがとなーっ」
「ち、長曾我部っ」

俺は感激の余り、目の前の毛利に思いっ切り抱き着いた。
すっげえ嬉しかったんだ。
無くしたと思ってた、翡翠の珠が、戻ってきた事が。
それが、毛利の手から俺に渡された事が。
あと、俺の忘れ物として毛利が預かっててくれた事が。

「ありがと、ありがとな、毛利ぃ」
「いいから、離せっ、長曾我部っ」

とてもじゃねえが、嬉しさで腕の力を緩める気なんかなかった。
腕の中で、毛利がジタバタしてんのも。
怒鳴って、顔を赤くしてんのも。
全部、ナンかすげえ嬉しくってさ。
俺は毛利をぎゅうぎゅうと、抱き締めた。

「いい加減にしろっ、長曾我部っ」
「イイじゃねえか、これっくれえ」
「馬鹿者っ、苦しいのだっ、この馬鹿力がっ」
「あ、そっか」

腕の力を少しだけ緩めると、毛利はコホンと咳をした。

「下ろせ」
「あっ、ウン」

腰の辺りに回してた腕を外すと、身長差で浮き上がっていた身体が下りる。
爪先立ちしてたんだな。

「斯様に」
「ん?」
「大切な物ならば、忘れてゆく貴様の神経が判らぬ」
「…悪かったな」
「反省しておるならば、以後同じ轍を踏むでないぞ」
「…判ったよ」

いつもならどんなコトでも言い返すが、今回は完全に俺が悪い。
見上げてくる毛利の眉を寄せた説教を素直に聞いた。

「ならば良い」

ちょっ、一寸待てっ!
こんな時にばっか、そんな子供に言い聞かせるみてえな笑い顔すんなーっ!
不意打ち過ぎだろっ、と。
俺は内心で叫びながら、毛利を目の前に固まった。





2012.08.16
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元親×元就
忘れ物に気付くのが遅すぎアニキ
BGMはミクの【貴方に花を 私に唄を】でどうぞv