「貴方に花を」 六


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夢なのか現なのか
その境が曖昧過ぎて
現実が掌から零れていきそうだ
確かに
手にした筈なのに

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話をしてみたかった。
そんだけだった。

毛利がいつもの通りに、酒宴の最中に抜け出す姿を見た時に。
俺は自然と腰を上げ、その後を追った。
追い返されるの覚悟の上で。
それが、あっさりと覆され、俺は毛利の私室に足を踏み入れた。
殺風景な部屋に。

「貴様の部屋が散らかっているからであろう、そんなものと比べるな」
「そんなコトねえって、って酷えなあ」

つい口にすると、即座に返ってくる反論。
確かに、俺の部屋は物が多いけどよ、生活してりゃそれなりの物ってあるだろ。
毛利の部屋には、そういうモンがねえ。
ホントに、ココに住んでんのかってカンジだ。
悪く云うと、寒々しい。
余計なモンがナイんじゃなくて、無駄が一切ねえ。
毛利のモンってのが、希薄なんだ。
楽しんでるモンが、ねえ。
これでイイのかってくれえに。

「いつまで、そこに立っている、良いから座れ」
「…ああ、邪魔するぜ」

取り敢えず、さっさと座る。毛利の横に。
指し示されたのが、そこだったからいいんだろうって判断して。

「ホント、ありがとな。助かった」
「もう良い」
「そんなコト云うなって、俺としちゃ何度も云いてえんだからよ」
「偶々、忘れた物を預かっただけぞ」
「それでもだよ」

隣同士で話すのが、いつもと勝手が違って、落ち着かねえ。
横へと視線だけ向けて、毛利の横顔をチラチラと見る。
淡々とした表情に、いつも通りのキレイな面。
感情のねえ人形のように見えるんだが、俺の言葉に一々突っ掛かってくる。
ナンでかねえ。今晩はそれに腹が立たねえ。
いつもなら、とっくにカチンときてる筈だってのに。

「…貴様には」
「ん? 俺には?」
「大事な物が沢山あるのだな」
「ああ…うん、そうだな」

何を云いたいんだ? いつもの嫌みや咎める口調じゃねえ。
謎掛けなのか? それとも酔ってるのか?
珍しく杯を交わしてくれてんだもんな。
毛利の酒の量って、ドコまで平気なのか知らねえ。
…もしかして、ヤバいのか? やっぱ酔ってんのか?

「長曾我部」

不意に呼ばれて、毛利を見ると。
毛利は俺をジッと見ていた。真っ直ぐに。研磨した石みてえな目で。
俺を見ていた。
何を…。

「長曾我部」

俺の焦りは、毛利に再び呼ばれたコトで霧散していった。


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人の肌ってのは、あったけえ。
触ると柔らかくて、温かい。
それが、毛利も同じなんだと、こうして触れて初めて思った。
生きてる。
俺と同じ人なんだから、考えなくてもそうなのを。
触ってみて、初めて判った。

温かくて。
柔らかい。
俺の腕の中にある、毛利の身体は。

何がどうなって、今のこの状況になったのかは。
丸っきし判んねえ。
頭ん中が、湯で沸騰してるみてえに。
ただ、熱い。熱くて考えらんねえ。考えたくねえ。

考えたら…現実に目を覚ましたら…毛利が。
居なくなっちまうんじゃないか。

そんな考えに囚われてる。
イヤだ。
それは、イヤだ。
夢でもウソでも、ナンでもイイ。
毛利を抱いてられんなら。

名を呼ばれた。
指先が、俺に伸びて来たのを見た。
袖を掴まれた。
顔を俯かせたまま、毛利が身体を寄せてきた。

信じるとか信じないじゃなかった。
躊躇っていた距離が、一気に縮まった。
戦場でも、部下達の前でも、ねえ。
2人きりの場所で、俺は毛利を抱き締めてた。

酔ってんのか?
本気なのか?
ウソじゃねえのか?

沢山聞きてえコトはあった。
あったが、口には出来なかった。
夢でイイ。それでイイ。
酔ってるんでも、気紛れでも、ナンでもイイ。
俺はそれしか思えなかった。

言葉で、確かめる気にはならなかった。

俺か軽く開かれてた、毛利の唇に口吻けてた。
目を瞑って。
腕に力を込めて。





2012.08.25
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元親×元就
名前だけを呼んでます 一応、それっぽいシーン有り
BGMはミクの【貴方に花を 私に唄を】でどうぞv