常套句 iii


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興味が湧く
それが何を意味するのか
考えてみる
試行錯誤の上で辿り着く答に
期待しながら

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従順、そのものだ。
態度も言葉遣いも、全てな。
元敵国、現同盟国に嫁いで来た人質。
それを完璧にこなしていた、元就は。
不平不満は云わない。
無いと、云うのみだ。
改善、要望は口にする。
出来ればとの、前置き付きで。
中国と四国じゃ、風習も違う。
それを出来るだけ理解し、受け入れようとしている気概は伺える。
両国間の締結の為にって、云ってたしな。
完璧だ。
申し分ねえ。
国主の嫁、としてはな。
その点に関しては、俺からも文句はねえ。
はなっから、情なんてモンはねえんだ。
国同士の遣り取りの婚姻だ。
だから、元就に対してもナンの文句もねえ…筈なんだが。
やっぱなあ…どうしたってなあ…勘繰っちまう。
腹に一物溜めてんだろ、ってな。

キレイ事じゃねえ。
謀だらけだ。
ひとつひとつ、カラクリの歯車を噛み合わせていってるような状態だ。今は。
これを如何に、滑らかにしてくかってトコなワケだ。
俺も俺なりに考えてる。
元就も、あの小さな頭ん中で色々考えてんだろ。
どうやって、中国を有利にさせるか。優先させるか。
囲碁みてえに、一手の先の先を見据えてんだろ。
女でも、毛利元就だ。
決して、侮れねえ。
それが判ってっから、俺も油断してねえ。

けどな、まあ、その。
今は婚礼の前準備で、城中が沸き立ってる。
ナンだかんだと云って、祝い事だからな。
アレコレ考えて暗くするより、騒いで明るくしちまった方がイイだろ。
一応、一生に一度のコトなんだからな。
元就も初め面食らっていたみたいだが、腹括ったみてえで。
侍女達に、あーだこーだとやられてる。
で、俺としても、元就にナンかしてやりたくなった。
俺にしか、出来ねえコトをしてやろう思ったんだ。


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「邪魔するぜ」

俺は荷物を両手に抱え、元就に与えてある室へと踏み込んだ。
ギリだけと間に合った荷物を一刻も早く、元就に見せたくて。

「如何されましたか」
「うん、チョッとな」

ちょこんと座ってる元就の前に、荷物をドサドサッと下ろす。
元就はその荷物の山を見てから、俺へと視線を寄越した。
そりゃあ、いきなりナンなんだよな。
俺は苦笑いしながら、元就の前に腰を下ろした。

「これは…」
「ああ、お前の婚礼衣装だ。注文しといたのが届いたんだ」
「我の…ですか?」
「そうだ。いいから、開けてみろ」
「はい…」

恐る恐るといったカンジで、元就は箱の蓋を開ける。
中を見ると、怪訝そうな顔をした。
元就の考えているモンとは違うモンが入ってるんだから、当然だな。

「あの…」
「南蛮のモンだ。【うえでいんぐどれす】ってモンだ」
「あの、お心遣いは有り難いのですが、国から用意してきたものが」
「ああ、そっちも着てくれりゃイイ。こっちのは【お色直し】で着て貰おうと思ってな」

元就の目が、パチクリとした。
へえ、こんな顔もすんのか。出来んのか、と。
ジッと、見つめると、スッと、表情が消えちまった。

「気にいらねえか?」
「いいえ、我には勿体無いかと」
「ナニが勿体ねえんだ。これぐれえはしてやるって」
「判りました。頂戴致します」

蓋を横に置いて、元就が頭を下げる。
いい加減見慣れたな。この形式ばった所作も。

「元就」
「はい」
「チョイ、立ってみろ」
「立てば良いのですか」
「ああ」

元就が立ち上がるのと同時に、俺は箱の中に手を伸ばした。
畳まれていた婚礼衣装を広げて、元就の身体へと当てた。
よし、似合ってる。
俺の見立て通りだ。
元就に映える。この衣装の白は。
無理云って、急がせた甲斐があったってモンだ。

「ありがとうございます」
「ありがとな」
「何故、礼を? 我が云うべきものですが」
「受け取ってくれただろ。それが嬉しかったからさ」
「そう…なのですか」
「そういうモンだ」

藪蛇をしねえって姿勢の元就が、こんな風に途惑うってのは。
なかなか見所があるな。
興味が俄然湧いてくる。
…俺の悪ぃクセだ。
ヤバい、な。けど、止める気はねえ。

なんで、建前だろう、元就の儀礼的な笑顔に。
俺は、思いっ切り笑い返してやった。





2012.11.06
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元親×にょ元就のお話です
アニキ視点
こっちも結構楽し気に準備してます