常套句 vii
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未知の感覚
今まで知らなかった事を知っていく感覚
不安や躊躇よりも
期待している
高揚している
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印象が変わる。
いっちゃん最初に見た時、知った時の印象は冷ややかさばっかが際立ってた。
当然だ。
敵国の相手なんだ。
武器を振るって、命の取り合いをした相手だったんだ。
それがよ…、一瞬で覆るなんてコトがあるなんてよ。
こんなコトがあるってのに、俺は驚いてた。
婚姻に依る同盟。
国同士の利益、そん時の情勢とかよ色んなモンから成立したモンだった。
俺と元就の婚姻は。
その筈だった…んだが。
今、湯中りでへたばって、寝かせてやった床の中から見上げてくる顔を見てっと。
ナンか…こう…愛おしいと、本気で思っちまった。
無防備。
正に、その通りの姿、仕草を俺に見せてくる。
これが、ホントにあの謀神の名を思いの儘に操ってた女なのか。
いやいや、これも一つの手じゃねえのか、とか。
まだまだ、油断は出来ねえぞ、ってなモンなんだが。
それが、頭から吹っ飛んだ。
「元就…」
えっ、と小さな唇が象った。声は無かった。
俺が塞いだからだ。
もっと冷たいかと思ったのが、湯中りもしてた所為か、熱を持ってたのに。
俺はナンかすげえ嬉しくなっちまった。
「元就」
軽く触れてから、一旦離す。
顔を見られる程度の距離を置いて、顔を見ると。
きょとんとしてた。こんな顔は初めて見た。
自分に何が起きたのか、理解出来ねえじゃなく、把握出来てねえって顔で。
目で、俺に訴えてきてる。
「…何、を」
元就が指を持ってきて、自分の唇に触れる。
何が起きたのかを確認するような、その仕草が可愛いかった。
「口吸い」
「えっ?」
今度は音になったな。
ま、それはいいからよ。
ほら、手、邪魔だと俺は元就の指先を握って、唇から外させた。
そんで、もう一度その唇を塞いだ。
小さくて柔らかい。
ペロリと舐めてやると、あっ、と声が漏れた。
その小さな声で、元就が動揺しているんだってのが判った。
握ったまんまの指も、握られたまんまで払われねえ。
そんだったら、と俺は調子に乗るコトにした。
「大丈夫か?」
「……何、が」
「もうチョイしても、いいかってコトだ」
コクンと顎が微かに動いた。目は俺をジッと見上げてきてる。
ドコまで判ってんのか、そこら辺は判らねえが。
それを知るのも、知らせるのも面白そうだ。
「ホントにいいんだな」
「良いと言って…」
「途中で止めんのって難しいからよ、先に断っとくわ」
「なっ///」
戦略だったら、いっくらでも計れるんだろ。
けど、この男と女の間の駆け引きってモンに、全く以てウブな元就は。
俺の言葉に、顔を真っ赤にしちまった。
おお、マジ可愛いじゃねえか。
俺は元就の背中に手を差し入れて、その細い身体を抱き起こした。
実は、そんなガッついてはなかったんだわ。
女に不自由したコトねえし、性欲の抑制は別に苦にしてねえ。
だから、初夜っていっても通過儀式みてえなトコがあったよ。
元就が湯中りしたってコトで、今晩しなくてもいっかって思ってた。
正直に言うとな。
元就には言わねえけどよ。
それが、俺の胡座を掻いた膝の上に、身体を座らされて。
所在なさ気に俯いて、肩を強張らせて、緊張しまくりの姿を見せられっと。
本気で、その気になっちまった。
据え膳、だよなあ。
俺のヤル気に、元就が反応してる。落ち着きがどんどんなくなってく。
女の身で武人をしてる智将じゃねえ。
ただの一人の女だ。
その姿を俺に晒してるんだって、思っちまったら。
ドコまで加減してやれっかな、と俺は内心で苦笑しつつ。
元就の躯を抱き締めて、俺の身体と密着させた。
「元就」
耳へと囁いてやる。ビクッと元就の躯が撥ねる。
それを背中をさすってやって宥めてやるが、元就は当然、どんどんと躯を強張らせてく。
極力、内心の動揺を押し殺そうとしてんだろうけど。
無駄だって。
こんなにくっついてんだぜ。丸わかりだって。
あー、やべえ。マジ、可愛いわ。
出来るだけ優しくシテやるつもりはあるんだが、ドコまで出来るかは。
俺も保証出来ねえよ。
「元就」
掌で、呼んでも俯いたまんまの元就の顎を多少強引に掬い上げる。
目は口ほどに物を言う。
元就は特にそれが顕著だろ。
ただ、ここまでの至近距離で見ねえと気付けねえんだろな。
俺はその優越感に浸りながら、元就へと口吸いを仕掛けた。
色々と判らせる為の本気の口吸いを。
2013.05.17 back
元親×にょ元就のお話です
アニキ視点
見切り発車の初夜開始…かなあ???