Departures  -土佐-


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続くと
繋がっていくと
ひとつも疑いなどしなかった
疑うこと自体知らなかったから…
例え知っていたとしても…

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眠れなんかしねえ。
いくら周りから休んでくれと云われようが。
興奮してる心を落ち着かせる気なんかねえ。
落ち着く筈もねえんだ。

決戦前夜。

何度も何度も経験してきた夜だ。
だってのに、今回は今までのと違う。
高揚感なんてモンがねえ。
あるのは…ただ…ひたすら痛みだけだ。
裏切られて、激昂した心の痛みじゃねえ。
哀しみだ。
この状況を覆せない、自分の力の無さに。
動き出してるうねりの大きさに、歯止めが出来ねえ自分に。

後悔?
してるに決まってんだろ。
何故、こうなった。何故、こうなっちまったんだ、って。
他の道はなかったのか。
その道を進むコトは出来なかったのか、って。
俺ん中は、そんなコトばっかがぐるぐる渦巻いてる。

…どうしようも、ねえな。
俺ってヤツは、ホントに。

ドコでどう何を間違えたか、じゃねえんだ。
何が正しいとかでも、ねえ。
ここまで来たら引き返せねえ、ただ、そんだけになっただけなんだ。
そんでも、それをどうにか出来ねえかって足掻いてる。
諦めの悪さが、俺ん中にある。

毛利元就。
安芸の国主。
大毛利の当主。

ナンで、そんだけの存在で居てくんなかったんだよ。
敵同士で居られたら、どんだけ楽だったかしんねえ。
勝手は判ってっけどよ。
酷えのは、俺の方なんだよ。
アンタは嫌だって、最初に云ったもんな。
それを押し通したのは、俺だもんな。

同盟組んでよ。
顔を付き合わすようになってよ。
アンタの為人を少しずつ知ってよ。
どうしようもなくなっちまった、俺は。
アンタが惚れて、アンタが欲しくって。
手を伸ばして、腕を掴んで、力任せに引っ張り込んだ。
俺の腕ん中に。
そこに、アンタが収まってくれた時のコト、覚えてるぜ。
居心地悪そうに、触れ合うコトに慣れてねえから途惑ってよ。
俺を見上げてきた顔。
忘れらんねえ。忘れたくねえ。
忘れられねえんだよ、アンタのコトが。

惚れた、って告げた。
俺のモンになってくれって、よ。
首を振り続けるアンタを俺は掴まえた。強引に。
それが一番だと思ったんだよ、あん時は。
掴まえちまえば、ナンとかなるって思ってたんだよ。
アンタの云う通り、愚かでもよ。

なあ、毛利。
そんでもよ、俺のコト、拒まなかったろ。
アンタも、俺に惚れてたろ。
今も惚れてんだろ、俺とおんなじくさ。
なあ、元就。

『知らぬわ』

ぎゅっと抱き締めた腕ん中からの、アンタの口癖。
何を聞いても、答はくんなかったよな。
本心を口にはしてくんなかったな。
けど、俺はそれでも良かったんだ。
アンタが腕ん中にいる。
俺に抱き締められてる。
それが良かった。
アンタを抱き締められるのは、俺だけなんだってよ。
そう思えたコトが、俺には嬉しかったんだよ。
アンタだって、知ってたろ。俺の気持ちをさ。

優しくしてやりたかった。
大事にしてやりたかった。
アンタを甘やかして、ナンでも聞いてやって。
俺がいねえとダメにしてやりたかった。
俺とおんなじくしてやりたかった。

『戯言を』

布団に転がって向かい合って、額を付き合わせて、目を見てよ。
笑ったよな。
幸せでよ。
2人でいられるコトに、どんなに嬉しいか、幸せかを。
アンタに云ってよ。
抱き締めたんだ。
ほらな、忘れられるワケねえじゃねえか。
今でもよ、俺はアンタに惚れてんだ――元就。


『元親』

アンタはもう二度と呼んでくれねえんだろうな。
俺の名前を。
俺はアンタに、俺の名前を呼んで貰うのが好きだったてのによ。
頑固だもんな、こうと決めたら曲げられねえ程の。

明日、俺はアンタを殺しに行く。
待ってろな、必ず行ってやっから。
元就。
元就、元就、元就…俺の。

そんで、終わりにしような。
終わりにしてやっから。

ゴメンな、元就。
こんな俺に、付き合わせちまってよ。

『馬鹿が』

ん、俺もアンタもな。
だから、待っててくれ、元就。
俺が行くのを。
2人で終わらせような。

…元就。俺の。





2013.3.5
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ナリ様を一人にしないアニキの話です
葛藤と悔恨と愛しい想いが交錯してます
BGMは『Departures 〜あなたにおくるアイの歌』です