振動覚

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お前だけに 伝えたい事がある
だから 聞けよ
俺を 見ろよ

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一目惚れなんてモンがあるのを。
俺はアイツに出逢って、知った。

毛利元就――中国の大大名。

実物は見てなかった時、噂だけは耳にしていた。
冷酷、非情、血なんか通ってないんじゃないかって、悪評ばっかを。
まあ、確かに入ってくる戦略情報は。
それらの噂を納得させるモノばっかだから、そういう奴なんだってのが。
俺の認識だった。

ただ、認識と納得は違うぞ。
俺の一番気にくわない遣り方をしているのに。
俺が嫌悪感を抱くには、充分だった。

どんな奴、だ。
どんな面してる、のか。
どんだけ、冷たい奴なんだ。

そんな風に、あれこれ考えてもいた。
けど、胸糞悪くなっから、あんま考えないようにもしてた。

まあ、そんな事も言ってはいられないのは、世の情勢で。
乱世の時代、何時戦っても当然の位置に居たんだからな。
当たり前だ。
当たり前…なんだが…。

実際、目の前にしたらよ。
ちっこいわ、細いわ…可愛いわ、で焦ったぞ。
口の悪さには、驚いたが。
俺との対話に、感情が剥き出しになったのには、もっと驚いた。

人形なんかじゃ、ねえ。
心のある、一個の人間。
俺と同じ、なんだ。

と、判った。
つくづく、噂ってのはアテになんねえ。
この目で見て、聞いてが一番判る。

毛を逆立てた猫みてえな、奴。
警戒して、威嚇して、距離取って。
一人ぼっちで、寂しいじゃねえか。

簡単じゃねえのは、承知の上で。
俺は手を真っ直ぐに、伸ばした。
何度、振り払われたって構わねえ。
何度でも、伸ばしてやっから。


――アイツが俺の手を取るまで。
……だから、さっさと取れって。


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理解が出来ん。
何なのだ、あの鬼は。
不遜と言うのにも、程がある。

…知らん。
…あのような者は。
…惑わされるものか、決して。

我は一人で良い。
今まで、一人だったのだ。
今更…。

掻き乱すな。
止めろ。
我に必要無いものを押し付けるな。

…お前など要らない。
…欲しくなど無い。
…我は寂しくなど無い。

馬鹿鬼め…。






2010.04.23
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元親×元就、元親先行惚れ
甘甘、単なる惚気話