Monster


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そうだな、お前が俺の、後悔と未練だ

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「…貴様、何をしている」

何をしてるって言われてもなあ。
俺もどうなってんだか、良く判ってねぇんだよな。

「大体、何故、ここにいる」

あー、そりゃあ、アンタに会いたかったからだって。
決まってんだろ。

「死んだ身だと言うのにか」

そうなんだよなあ。
この間の戦で、俺は死んじまった。
だから、今の俺は幽霊って事になる。

「…油断などするからだ」

してねぇ、って。
仕方ねぇだろ、こうなったのは俺の所為じゃ…痛っ、痛っ!

「貴様の責に決まっておろうが」

信じらんねぇ事すんな、コイツ。
普通、幽霊の頬を抓ったりするか?
しかも、その幽霊の膝の上に座った状態で。

「貴様自体が非常識ぞ、何を今更言うか」

…え〜っと、それを言われるとなあ。
確かに、死んでるし、白装束着てるんだが。
お前に触れるんだよなあ、こうやって。

「く、苦しいっ、この馬鹿力が」

すっぽりと俺の腕ん中に収まる元就は。
相変わらず、ちっこくて細っこくて、抱き心地良くてさ。
ついつい調子に乗って抱き締めたら、頭を思いっ切り殴られた。
痛えよ、と訴えると。

「勝手に死んだ罰だ」

…ごめん、ごめんな。
口調はきつくても、震えてなくても。
元就の眸は、泣きそうに細められてた。
絶対、泣いたりしないんだろうけど。

「貴様と言う奴は…」

ホント、ごめん。
ホント、馬鹿だよ、俺は。
居るって言ったのにな、お前の隣にずっと。

「約束一つ守れない鬼とは、片腹痛い」

いくらでも言っていいぞ。
どんな罵詈雑言も聞いてやる。
…聞かせてくれ、元就、お前の声を言葉を。

「この…嘘吐き、め」

伸びてきた手に、又抓られるか殴られるかと構えたが。
その細い腕は、俺の首へと回り、顔を隠して抱き付いてきた。
髪に隠れていた耳が、顔を出す。真っ赤に染まって。
俺は元就の背中を抱き締め、片手で頭を撫でた。
ごめんな、と小さな耳の中に何度も呟いた。

「…許さん、決して」

いいぞ、許さなくてさ。
その方が俺も気が楽だ。
素直に泣くお前を置いてくなんて、酷い事しないで済む。
ホント、俺って勝手だよな。

「我はまだ行けぬ」

うんうん、判ってる。
でもさ、俺だってまだ行きたくはなかったんだぞ。
もっともっと、お前と一緒にいたかった。
一人になんてしたくなかった。
一人にしないって約束を守ってやりたかった。

愛してんだ、元就、俺はお前を。

縋ってる細身をきつく抱き締めた。
連れてってちまいたい衝動を噛み締めながら。

「さっさと逝け」

ん、ごめんな。
ゆっくりと腕を解くと、元就が笑んでいた。
それこそ、惚れ直すくらいの笑みで。
コイツ、本当に美人さんだよ。
俺以外に手、出されんじゃないぞ。

「痴れ者が」

大丈夫、次も手を出してやっから。
俺が必ず、お前の事見つけてやっから。
そうしたら、又、一緒にいような。
約束だ。

な、元就……………。


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保っていた姿が揺らいで、消えていく。
我には止める術がなく、ただ見つめていた。
気配が全て霧散した時、不思議と我の心は凪いでいた。

夜が明けた為、その場から立ち上がり思考を切った。
昇陽を拝む為に。
鬼を振り切る為に。

「約束ぞ」

次に相見えるまでの。
元親。





2010.07.23
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