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手を握る
包めるように 温めるように
愛してるからと 愛しい人の手を握る

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「元就、どうだ気分は?」
「変わりない」
「そっか、あ、何か食うか?」
「今はよい」
「ん、じゃ腹減ったら言えよ?」
「茶が飲みたい」
「了解、一寸待ってろな」

立ち上がる元親を目で追う。
別に意味は無い。
ただ、他にする事が無い所為だろう。


床に伏せて、時の感覚が鈍くなっている。
日がな一日が長いのか…短いのか。
死の病と侍医から告げられ、急ぎ家督を譲り、体裁を整えた。
我の死後も、この安芸の地の安寧の為に。

四国へ使者を送った。
同盟の存続の書状を送った。
案の定、元親自身が中国へと真意を問いに来た。
そこで我は、包み隠さず話した。
取り繕う事はしなかった。

事実だけを話した。
我の病を。近付いている死期を。

元親は情に弱い。その上で我は下手に出た。
出たというのに。
話を聞き終わった後の、元親の歪んだ顔。
固く握られた拳の震え。
それらを目にした時、言葉が途切れた。

そして、暫しの沈黙の後、部屋を無言で出て行った元親を。
我は止めなかった。

その数日後、元親が再び訪れた。
同盟の書状を携え、新しい国主としての息子を連れて。

『何故、このような事をした』
『あんたの傍にいる為だよ』
『だから、何故だと聞いておる』
『判ってんだろ、あんたを愛してるからだよ』
『馬鹿か、貴様は』
『そんなの今更だろうが』

この後、堂々巡りの言い争いをしたが。
元親は折れなかった。我が折れた。

その後も馬鹿者と散々罵ってやっても、元親には堪えない。
ただ、我の傍から離れようとはしない。
最後まで居る、と。
いつも以上の強行な態度と、強く握られる指先。
繰り返し、懇願される言葉。

元々、抵抗など出来る筈も無い。
遠ざけなくてはという気持ちの裏に、傍にと願う思いもあったのだから。
我は元親の手を取った。


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「元就、持って来たぞ」
「それは…」
「ついでだから、団子と薬もな」
「ついで、か」
「薬、ちゃんと飲んだら褒美に団子な」

以前なら一喝して、拒否していた物言いに笑ってしまう。
残りの時もあるのだろうが、心が全てを受け入れている。
元親と過ごす時を。

惜しんでいる。
希求している。
際限無く。
無くす事を怖がっている、我が。


薬を用意する元親の手元を見る。
器用に動き、我へと水と共に渡してくる。
そして、薬を飲みきるまで見つめてくる。

「飲んだぞ」
「よしよし、じゃあご褒美な」

上機嫌で、顔を近付けてきた元親が唇を重ねてくる。
その柔らかな触れ方に、目を閉じると。
元親の腕に抱き締められた。
我は、元親の背中へと腕を回し、しがみついた。

この腕の中から、我は何処にもいきたくはない…。


――全てを喪うのは、我のだろうか、元親なのだろうか。

それすらも判らない儘、我は元親へと身を預けた。





2010.10.30
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