【かぞえ唄】 壱


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眩しい存在
目を細めて見つめる
光を散らした様に佇む姿に
ただただ見惚れてしまう

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「アニキ、お帰りなさいやし!」
「お帰りなさいませ、殿」
「おう、ただいま」

口々に帰城の言葉を掛けてくる野郎共や家臣達に、俺は手を挙げた。
歓声なのか囃し立てなのか、とにかく騒がしい。
慣れてる俺でも、久しぶりに聞く所為か煩かった。
俺の横に居る元就が、圧倒されている。
中国と違い過ぎるんだろうなあ。

「大丈夫か、元就」
「…大丈夫だ、心配ない」

一拍置いて答えた返事に、俺は一安心した。
けど、その分周りの奴等が息を飲んだ。

「えっ、姐さんの声が出てるじゃないっすか」
「声が戻られたのですね、奥方様」
「ああ、良い声だろ、元就のは」

どっ、とその場が一気に沸き立った。
良かったですねー、おめでとうございます、と祝いの言葉が飛んでくる。
心の底から口にしているのが判っているから、俺も嬉しくなる。

「良かったな、元就。皆、喜んでくれてるぞ」

元就の肩を抱いて、そう言ってやると。
元就が俺を見上げ、ゆっくりと微笑んだ。
うわっ、可愛いと思った途端、周りが一瞬静まり返りった。
そして次には、さっきの上をいく大騒ぎとなった。
耳が痛くなるくらいの、に。

「おい、見たか、今の見たか」
「見た見た、良いモン拝んじまったなあ」

興奮し切ってる野郎共の言葉の意味と。
家臣達の落ち着かない様子と…それでも視線は一点集中だ。
それらを総合して、俺は一つの結論に達した。
コイツ等全員、元就に見惚れやがって。

「お前等、煩っせえ、黙れっ」

肩どころじゃない、元就の背中に腕を回して。
俺は慌てて、元就を胸元深く抱き込んだ。
くそっ、冗談じゃねえ。油断しちまった。

「………元親、どうしたのだ?」

俺のいきなりの行動に、困惑し切った顔で見上げてくる元就に。
俺は説明のしようのない焦りに、苦笑いするしかなくなった。


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取り敢えず、一休みだと室へ戻り、一息付いた。
運ばれて来たお茶を飲みながら、元就は俺をちらりと見た。
言いたい事は判る。さっきの事だろ。
俺の機嫌が悪くなったのは判っても、その理由が元就には判らない。
…判れよってのと、判らないままでいてくれってのと。
男心は複雑だ。

「…あの、元親」

飲み終わった茶器を手元に置いて、一大決心した顔を元就はしてきた。
俺はこの顔に弱い。
俺にしかしない一寸不安そうな、縋ってるような。
保護欲を掻き立ててくれる、顔。
駄目だ。負けた。

「さっきの事だよな」

白旗をさっさと掲げて、元就の前に躙り寄り、その両手を握った。
下手に黙ってると、元就は自分の所為で考える。
そんで、どん詰まりにしちまう。
そんな事はさせねえよ、元就に。

「んー、なんて説明したらいいんだか…
 簡単に言うと、他の奴等には見せたくねえんだよ」
「見せる? 何をだ」
「お前」
「…我?」
「そ、俺さ欲張りなんだよ、元就の一っ欠片も渡す気はねえんだ、誰にもな」

ひとつひとつ言い含めるて、聞かせる。
元就にきちんと判らせる為に。
元就ってさ、頭良い分、感情面疎いだもんなー。
ホントは言いたくはねえんだよ。
ヤキモチ妬いて、アイツ等の目から元就を隠したなんてよ。

「…我は」
「ん? どうした、元就」
「…そなたの妻ぞ」

だから、渡されたくはない…って、小声で、それでもはっきりと。
元就の口から、真っ赤になった顔で言われりゃ。
俺だって、一瞬固まるわっ。

「絶対に渡さねえよ」

手首を引いて、思い切り抱き締めようとしたところで、元就が小さく呻いた。
元就の身体を引っ張った時に、両膝を着いちまった所為だ。
まだ、怪我したとこが治ってないってのに

「ご、ごめん、元就、大丈夫か
 いや大丈夫じゃないよな、痛いよな、ごめんな」
「大丈夫だ、心配ない」

痛みによる涙目で、それでも俺へと笑ってくれる元就を。
力を最小限に加減して、俺は抱き寄せた。





2011.01.01
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