全部抱きしめて〜(1)


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初対面が最悪って
それってラインの一番の下
しかも底辺の底の底
それを覆すのは無謀な賭けかどうかは
やってみなければ判らないっては
どんな先行き不安なものなのか

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新しい派遣先、仕事先は。
入り口のエントランスを見ただけで判る通りに、最上級のマンションで。
しかも、最上階。
おまけに、ワンフロア丸ごと1つ、てゆーなんつー贅沢な部屋。
一体、誰がこんなトコに住んでんだよって。
速攻、突っ込みを入れたくなったってしょうがねえ、くれえのだ。

まあ、掃除のしがいはあんだろうなあ。
まあ、それが俺の仕事の1つだからイイんだけどさ。
まあ、兎に角挨拶をしないとな。
と、俺はインターホンを押した。

待つ事、5分。
ウンともスンとも応答がナイんで、もう一回押す。
今日のこの時間に行くのは伝えてある。
それに了解も貰ってる。
おっかしいなあ。俺、スケジュール確認したよな。
間違ってねえよな。
と、又もう一回押してみる。
すると、インターホンの向こうで、人の気配がしたんで口を開こうとしたトコで。
聞こえてきた、一声。

「煩い」

は? ナンだ? 今、ナンて言われた?

「一体、誰だ」
「あ、俺、織田商会から派遣されたハウスキーパーの長曾我部って…」
「知らぬ」
「え? 知らないってそんなコトは…」
「知らぬものは知らぬ、帰れ」
「ちょ、チョイ待ち、ココって毛利元就さんのお宅ですよね?」
「そうだが、何故知っている。貴様は誰だ」
「だから、ハウスキーパーの長曾我部って…」
「知らん」

ナンなんだ、この堂々巡りは。
俺は頭が痛くなってきた。

「兎に角、話がしたいんで開けて下さいよ」
「見知らぬ者と話す事など無い」
「チョット、アンタねえっ」

怒鳴り掛けたトコで、インターホンの向こう側で携帯の着信が鳴ってるのが聞こえた。
それに向かって、パタパタと小走りするスリッパの音も聞こえてきた。
暫く、インターホンが沈黙する。
仕方ねえんで、待ってると。

「貴様」
「は、ハイっ」

どうすっかと、待ってたトコに、又一言。
思わず、返事をしちまった。

「今、開けてやる故、入れ」
「は、はあ…」

ナニ、この急展開??
一体、ナニがあったってんだ???
取り敢えず、外側へと開かれた扉を避けて、中に入ると。
そこには、超偉そうに腕組みをした男が一人立っていた。
真っ直ぐに、俺を睨んで。
おいおい、それが初対面の人間に対する態度かよ。

「話は聞いた」
「聞いた?」
「貴様を雇ったのは、我の仕事先の者だ」
「はい?」
「我の預かり知らぬ所で勝手に契約をしていた」
「はあ…」
「なので仕方がない、我は気に入らぬが、貴様を働かせてやろう」

ナニ、この唯我独尊は。
目眩を抑えつつ、俺はもう一度、目の前の男をマジマジと見た。
へえー、男にしては美人だ。キレイな顔してる。
全体的に、細っこい。俺と比べたからってワケじゃなく。
男にしては痩身で、けど、気の強さは満点で。
ふーん。

「何を見ている」
「あ、イヤ、別に」
「だったら、さっさと上がって貴様の仕事をしないか」
「あー、はいはい」

さっきまで追い返そうとしてたのアンタじゃん、って口に出そうになったのは止めた。
言っても無駄だ。
この短時間に、それが判っちまった。

「んじゃ、お邪魔しますよっと」
「無駄口はきくな」
「ハイハイ」

態と戯けた調子で言うと、キッと睨まれた。
けど、俺はそーゆーのに全然怯むような性格じゃねえもんで。
逆に、睨んで怒る顔も美人は美人なんだなあ、と。
思っちまった。あはは。

「9時出勤、昼休憩は1時間、6時に仕事上がりの契約だ」
「了解」
「食事、清掃、洗濯が、貴様の主な仕事だ」
「それも、了解」
「では、早速始めよ」
「はいよ〜」

持ってきた荷物の中から、愛用のエプロンを引っ張り出して。
俺は気合いを入れて、腕をグルグルと回し。
さあ、どっから手を付けてやろうかと。
リビングのドアを開けると、見たコトもねえ乱雑さを湛えた光景に。
俺は、本気で膝が崩れ落ちそうになったが。

くそっ、いいじゃねえか。やってやる。
遣り甲斐があっぞ。

と、自分を鼓舞して、俺はTシャツの袖を捲り上げ。
リビングん中への、突入を開始した。





2011.08.20
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元親×元就、現パロ、ハウスキーパーのアニキの話
元親視点、先ずは仕事先の主のナリとのご対面ーv