僕にできること【起】
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泣き虫で気が強く
小さい身体で態度が大きい
笑えば可愛いだろうに
いつも口をへの字にしてばかりだが
それはそれで可愛いと思う
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元就を俺が見つけたのは、元就が六つの時だった。
家のモンにナンでか怒られて、家出してきて。
俺の棲む森に、迷子になってやって来た時だった。
俺は元親。
ココ、白銀の森の主で。
狼だ。
仲間も沢山いる。
俺をアニキと言って慕ってくれてる奴等がいて。
普段は森の奥の方に、気儘に棲んでいる。
そこに乱入して来たのが、元就だった。
ぐずぐずと、泣きべそかきながら歩いて来るのに。
気紛れと好奇心で、声を掛けた。
こんな森の奥に人が来る事が珍しかったからな。
しかも、ちっこい。
おまけに、人間の子供のクセにキレイな顔していた。
将来、美人になるなって容貌だった。
『おい、ガキ。ナニ、泣いてんだ?』
『…煩い、泣いてなどおらぬ』
『じゃあ、その鼻水はナンだよ』
『煩い、黙れ。大体、貴様は何だ』
『俺か? 俺はこの森の主だよ。お前こそナンだ?』
『貴様になぞ名乗るものか』
『おーい、そーゆー生意気なコト言ってっと喰っちまうぞ』
あんまり生意気なモンで、軽くカチンときた俺は。
元就の前に、姿を現してやったんだよな。
案の定、狼の俺にビビッてはいたが。
相当、意地っ張りらしく小さな拳を握り締めて。
俺を睨んできたなあ。身体、震わせてよ。
『で、出来るものならやってみるがよいっ』
ぶわっと、涙を溢れされて、怒鳴ってきた元就を。
俺は一瞬で気にいっちまった。その場で。
大きさに関係ナイ気丈さにも。
恐い筈の負けず嫌いさにも。
狼の俺に真っ正面から向かってきたトコにも。
ガキのクセによ。
『やんねえよ、お前、不味そうだしな』
『こ、子供と思うて、馬鹿にするか』
『してねえって、そんなケンケンすんな』
『き、貴様がさせているのであろう』
声も震えてるクセに。
あー言えば、こー言うの見本だった。
ま、それもそれで気にいっちまったワケで。
俺は元就へと、もそりと一歩近付いた。
それが、俺達の付き合いの始まりだ。
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元就は、俺の森から一番近い神社の毛利一族のモンで。
次男坊。
俺んトコに泣きべそかきかき、迷い込んで来たのは。
…元就は今だ絶対に認めてねえけどな。
跡継ぎの兄ちゃんにヤキモチを妬いてらしい。
兄ちゃんは好きだけど、跡継ぎってコトで特別扱いされてるコトに。
ガキなりの理不尽さがあって、ぶーたれて。
それが積もり積もって。
それを両親に頭ごなしに叱られて、飛び出した。
まあ、詳しくは言わねえけど、そんな顛末だろ。
絶対に帰らないと、駄々捏ねまくり。
泣いてないと言いながら、泣くわ、喚くわの元就を。
俺は一晩だけと、俺んトコに預かってやった。
全く、ガキが我慢ばっかすんじゃねえよ。
だから、こんな風に爆発すんだろ。
ホント、人間なんてモンはしょうがねえなあ。
「貴様、何を考えておる」
「んー、元就のコト。昔は可愛かったなあってさ」
「止めよ」
「勿論、今も可愛いけどよ」
「止めよ、と言っているのが判らぬか」
「まあまあ、別にイーじゃないか。悪口じゃねえんだし」
「いい加減にせんと…」
「皮、剥ぐってんだろ。そーゆートコも変わってなくて可愛いよなあ」
「今すぐ剥いでやる、そこに直れ」
「ほらほら、機嫌治せって、可愛い顔が台無しになるぞ」
「元親っ」
俺に寄り掛かっていた身体をガバッと起こしたのを。
そんなの慣れてる俺は、尻尾で元就を制して。
又、同じように、元就を俺の身体へと寄り掛からせた。
あれから、10年。
元就もだいぶ大きくはなってるが、俺からしたらまだまだ、だ。
こうやって、ナンかあると俺んトコに来て。
こうして、俺の毛皮にしがみついてんだからな。
可愛いモンだよ。
「いいから、大人しくしてろって」
「貴様が余計な事を言うからだ」
「判った判った、俺が悪かったでいいだろ」
「…知らぬ」
身体だけでなく、元就は顔も擦り寄せてくる。
甘えたい時の、口に出来ない元就のクセだ。
ちっこい頃からの、変わんねえクセ。
無言になった元就の髪に。
鼻先を付けて、俺は元就を甘やかしてやるコトにした。
いつも通りに。
2011.09.06 back
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