僕にできること【承】
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何もかもが大きい気がする
身体も懐も
無駄に
それが悔しさよりも安堵を呼び起こす
複雑な心境と共に
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我があのお節介狼と会ったのは、幼少の頃だ。
悔しい事に、その時の記憶はある。
事ある毎に、昔の話を持ち出す彼奴に知らぬ存ぜぬで通してはいるが。
覚えている事に苛立ちを感じる。
いっそ、何も覚えていない方が良かったのだ。
…あんな情けない我など。
…子供の頃の事だから仕方無いと、割り切れるか。
神経の無い狼の彼奴になど、判られて堪るものか。
元親は、初めて会った時から図々しく。
遠慮などせずに、干渉してきた。
それは、今も続いており。
いくら改めよと、言うても聞かぬのだから。
きっと、馬鹿なのであろう。獣だしな。
本当に、変わった獣だ。
何故、我に纏わりつくのか判らぬ。
人と狼だというのに、それを元親は気にせぬ。
我以外に見つかれば、狩られる危険があるというのに。
…全く。
元親は白銀の大きな体躯の狼だ。
彼奴の森に足を踏み入れた我の前に、いきなり現れた。
不意な事だったというのに、その姿に目を奪われ。
人語を話したというのに、その時の我は違和感を覚えなかった。
何かも大きな驚きに、凌駕されてしまったのだ。
今、思えばだが。
『ほら、家まで送ってやるよ』
『いらぬ』
『は? 何、意地張ってんだよ、家の連中だって心配してんだろ』
『…我の心配など誰もせぬ』
『そんなコトあるわけねえって。
お前みたいなちっこいのが居なくなったら、心配するに決まってんだろ』
『貴様に何が判るっ』
『お、おいっ、落ち着けって』
『父上も母上も、兄上がいれば良いのだ、我など…』
興奮して感情の制御の利かなくなった我を元親は。
獣の分際で、慰めてきたのだったな。
…家に帰らぬと、譲らなかった我を宥め。
…一晩だけだと、彼奴の巣に寝かされた。
思い出したくも無い。
思い出すと、感情が揺らされる。堪ったものでは無い。
元親にしがみついて、泣いた事など。
泣き疲れて、眠ってしまった事も。
翌日、付き添われて家に帰った事も。
それら全部が。
忘れる事の出来ぬ思い出になっているなど。
元親には、決して話さぬ。話すものか。
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時折、我は元親の元を訪れている。
行かぬと、元親の方から我の所へと来てしまう。
流石に、狼の姿ではなく人の形を取って。
人に化けられるのかと、聞いた時。
これぐらい簡単だと、返された。
自分はとても偉い狼だからと、理解出来ない言葉と共に。
傲慢な奴だ。
お節介で、お喋りで、鬱陶しい奴だ。
どんなに拒絶の言葉を投げ付けても、めげる事など無い。
おかしな奴だ。
だが、我に取って…。
「どした、元就?」
「…何もあらぬ」
「そっか、だったらイイけどよ。
お前、直ぐに溜め込むからなあ、心配なんだよ」
「…子供扱いするな」
「ハイハイ」
頭だけでなく、身体ごと元親へと凭れ掛かる。
慣れた毛並みの感触に、心が落ち着いてゆく。
いつも、そうだ。
説明の出来ない、温かみで我を元親は包んでしまう。
父上も母上も、兄上も大事だ。
子供の時のような、癇癪はもう起こす事は無いが。
どうしようも無い時もある。
これは、我がまだ子供だという証なのか。癪に障る。
「ほおら、寝ちまえって」
「…眠くなど無い」
「考え過ぎっと、ロクでもナイんだぞ。
イイから、身体の力抜いて、俺に寄っ掛かれ」
「…貴様が煩く言うからだぞ」
「ん、よしよし、イイコイイコ」
「…黙れ」
器用に動く元親の尻尾が、我の頭を撫ぜる。
頬を擽る毛先に、首を竦めてしまう。
それでも、ゆるゆるとした眠気が襲ってくる。
元親が傍に居ると、いつもこうなる。
いつも抗えなくなる。…口惜しい事に。
「…元親」
「ナンだ?」
「…何でも無い」
「ん、そっか」
元親の声を聞きながら、我はその儘、眠りに落ちた。
心地良く。ゆったりと。
心の尖りが溶ける儘に。
2011.09.08 back
狼・元親×神社の子・元就、獣化パロ話
元就視点、37073のキリ番リクエストからですv
反撥を忘れずに、狼アニキに懐いてく、人の子のナリ様v