(Sweet Drops) - 1


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日和
色々な理由を付けて
その日を迎えるけれど
ゼロから始まる日は
見合い日和?

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冗談ではなかった。
陰で行き遅れるのではない、どころか。
既に、行き遅れたのではと言われていたのは知っておる。
冗談では無い。
誰が我より下位の者に嫁ぐ事があろうか。

結婚とは互いのレベルが合ってこそのものだ。
尊重の出来る者。
すなわち人格、中身の重要性が大事だ。
当然であろう。

だというのに、何故、我が嫁に行かぬのを。
我が原因の様に言う輩がいるのか。
不愉快極まり無い。

だが、その諸処の不満を耐えたのは。
一様に、兄様の為だ。
両親を早くに亡くした我に取って、歳が離れている兄様は。
兄というだけでなく、保護者であり、唯一の肉親だ。
その兄様の心配して下さるお心を無碍になど。
我には決して出来ぬ。

『元就の花嫁姿を見ないとね、いてもたってもいられないからね』

古くからの財閥である毛利家には、幾らでも縁談はきていた。
それを我は悉く一蹴していた。
しかし、そんな我を杞憂された兄様からの直接の縁談話では。
受けざるを得なかった。

女子大を卒業して、三年。
兄様の秘書見習いから、実力を以て第一秘書になったばかりだと言うのに。
仕事を辞めて、家庭に入らなければならないのかと、思うと。
気鬱になる。
しかも、釣書の情報しか判らぬ男の元に嫁ぐのかと、思うと。
更に。

『でもね、元就が会ってみて嫌だったら断って良いんだよ。
 僕の願いは、元就の幸せであって、無理強いする気は全く無いからね』

優しく微笑まれる兄様に。
我は判りましたと返事をし、見合い当日の朝を迎えた。


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遅いっ。
一体、何事だ。
見合いと言う日に、遅刻をするとは言語道断だ。

確かに、乗り気では無いが。
この席に赴いた以上、きちんと見合いをする気ではいたのだ。
それが、何だ。
遅刻だと。
時間を守れもしない相手なのかと思うと、腹の底から沸々と怒りが湧いてくる。

しかし、困り顔で謝罪を繰り返す仲人の事など知らぬが。
我の隣で、何か突発的な事があったのかもしれないね、と。
お優しく心配をされている兄様が居るのだ。
不快感を顔に出す訳にはいかぬ。

頭を下げる仲人に、兄様は大丈夫ですよ、と。
穏やかな態度で、接している。
そのお姿に、我はこの人の妹である事に誇りを持てる。
人格者という言葉が、一番お似合いなのだ。

亡くなった両親の会社を継ぎ、沢山のご苦労があった筈だというのに。
それらを決して、表には出さない。
お仕事には厳しいが、社長としての責任を果たす為の事だ。
いつも一番良い結果が出るようにと、努力されている。

我の事も、大事にして下さる。
そして、我もそのお心にお応えしたいと、常々思っている。
兄様は我に取っても尊敬が出来、とても大事な方なのだ。


「あ、来たみたいだね、元就」
「はい、そのようです」

室の外、廊下を慌ただしく歩いてくる音が聞こえてきた。
何と、がさつな。

「きっと、理由があるだろうから、怒ったりしてはいけないよ」
「勿論です、兄様」

兄様の言葉に、苛ついている気持ちを宥める努力をする。
ハンケチで口元を覆い、一つコホンと咳をする。
落ち着かねば。
兄様の前では、きちんとせねばならぬ。
兄様の妹として、遅刻をしたぐらいで相手を咎めるなどせぬ。
兄様と同じよう、心を広く持つのだ。

だが。
釘は刺しておかねば、ならぬ。
先制を喫しておくべきだろう。

足音が障子の向こう側で止まる。
スッと開かれる。
その間に立っている男に、我は視線を向けた。
遅刻に対する非礼は許さぬ、と。
目に力を込めた…のだが。

「遅れてスンマセンでしたっ!」

え…っ。
頭が勢い良く下げられ、謝罪がされる。
そして、又勢い良く頭が上がり…。
我と目が合った。

その青い目に、我は。
己の心臓が跳ねるように、鳴ってしまったのを。
その時、確かに聞いてしまった。





2011.10.07
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元就視点、もーの凄いブラコンのナリ様ですv