(Sweet Drops) - 10


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ひとつひとつ
知っていきたいと思う
逸る気持ちはあるけれども
大切にしたいという気持ちの方が
強いから

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「兄貴、お帰り」
「おう、ただいま」

家に帰ると、丁度リビングから出てきた弟の親泰に声を掛けられた。
靴を脱いでると、妙に楽しげな顔で近づいて来た。

「何だよ」
「いやあ、兄貴がデートだってのにこんな早く帰ってくるなんてさ、珍しいじゃん。
 振られたのかなあ、と思ってさ」
「このバカ、縁起でもねえコト言うな」

ホント、縁起でもねえ。
通りすがりに、親泰の頭を軽く叩いてやる。

「痛っえな、心配してんじゃないか」
「それが余計なお世話ってんだよ、振られてなんかねえって」
「じゃあさ、何でこんなに早いんだよ。
 いつもだったら帰って来ないのがザラじゃないか」
「それはだなあ…」

そんなコト出来っか。見合いしたばっかの相手だぞ。お嬢さまだぞ。
今日が初デートで、手も握ってないんだぞ。
いっくら俺がせっかちだろうが、我慢が苦手だろうが。
出来るワケねえだろうが。…嫌われたらどうすんだよ。
おかげで、いつも通りの手が出せねえんだからよ。

「へえ〜、何か凄えな」
「何がだよ」
「ん、見合い相手の彼女、凄えなってさ」
「ん? どういうコトだ」

リビングに入り、ソファにドカッと座ると。
親泰が冷蔵庫から、俺の分のビールも出してきた。

「ほいよ」
「お、サンキュ」

一応の儀式みてえに、ビール缶をコンとぶつけてから一気飲みをする。
旨い。身体の力が抜けてった。
思ってたより、緊張してたんかね。

「で、さっきの続きな」
「ああ、言ってみろ」
「兄貴はさ、自分から動いてるみてえに見えるけど、それは生来のモンでさ、本気ってモンじゃねえじゃん」
「はあ?」
「不誠実とか、どうでもいいって訳じゃねえよ?」
「…ああ」
「けど、今まで本当に本気の本命っていなかったじゃねえか。だろ?」

親泰に言われたコトを考える。
…確かに、こんな風に俺から、俺自身から動いてるってコトはなかった。
先を考えて、どう動いてなんて慎重にしたコトなんかなかったな。
今まで付き合った子達には。

「それがさ、見合い相手だろ? 俺、向こうから断られると思ってたんだよなあ」
「おいっ」
「だってよ、兄貴だって乗り気じゃなかったじゃねえか」
「それはそうだけどよ…」
「それが見合いの返事をOKにして、初デートにしたら早め撤収でさ。
 努力してんだなあと感心したんだよ、俺は」

ビールを飲み終わった親泰が、俺を見ながらニヤニヤと笑っている。
俺は、ヘッと笑い返した。

「頑張れな、兄貴」
「おうよ」

全く、出来た弟だぜ。
そう感謝しつつ、残りのビールを飲みきった。


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風呂上がり、自室に戻ってベッドにダイブする。
俺にしたら、早い就寝だ。
けど、今日はもう何もする気になんねえ。
ゴソゴソと毛布を被り、目を瞑る。
そうすっと、頭にひとつの映像が浮かぶ。

毛利元就…俺の見合い相手、今日デートして来た相手。
毛利のお嬢さまで、俺が惚れちまった相手。

このまんま、上手くコトが進んでくれればイイよなあ…。
トントン拍子で、進んでくれればよ。苦労せずによ。
なあんて、考えてみっけど無理だろうなあ。
きっと、俺は試行錯誤、無我夢中になりそうだ。
ジタバタすんだろう。一喜一憂もな。
けど、俺はそれも楽しむんだろう。そうに決まってる。
全く、俺らしいわ。

「毛利…元就さん、かあ」

呟いてみると、ツンとした顔を思い出す。
ツンとしてっけど、感情不足じゃなくて。
どんな顔すればいいのか困ってるってカンジだった。
そんな不器用さが、垣間見えた。
それが何か凄え可愛らしくて、可愛いなと思っちまって。
どうにかしてえ、と思ったんだよ。

見合いはOK。初デートもOKで、してきた。
ココまでは、OKの筈。…筈、だよな。
後ろ向きに考えんのは、止めとこ。
際限なく、落ち込みそうだ。自分でそんなコトすんのは止めとく。

そうだ。次の約束、をしねえと。
曖昧なまんまで日数過ぎさせちゃダメだ、ダメだ。
出来るだけ立て続けにして、俺を印象付けねえとな。

明日、昼休みの時間帯を狙って連絡してみっか。
そう決めて、俺は本格的に寝るコトにした。
おやすみ…元就っと、名前呼べんのはいつだろうか。
呼んだら、どんな顔すんのかなっと、考えながら。





2012.03.03
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瀬戸内お見合い騒動記
お見合い後の初デート終了後ですv
元親視点、弟くんとの男同士兄弟トークしてますv