(Sweet Drops) - 11


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落ち着かない
こんなに心騒ぐのは初めてで
どう対処すれば良いのかと
更に落ち着かなくなる
一体どうすれば良いのだろう

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「ただいま」
「お帰りなさい、お嬢様」
「兄様は?」
「まだでございます」
「そうか」
「お夕飯は如何されますか」
「頂く、いつもの時間通りで良い」
「判りました、お時間になりましたらお声掛けますね」
「頼む」

それだけ受け答えをし、我は自室へと戻った。
部屋着へと着替え、ソファにではなくベッドに腰掛け。
その儘、身体を倒した。
スプリングが、キシッと音を立てる。
行儀が悪いかと、頭を掠めたが身体を起こす気になれない。
枕を引き寄せ、顔を伏せる。

…疲れた。

こんなに緊張をするとは、思ってもみなかった。
ただ、人と会って来ただけだと、いうのに。
それが、見合いの相手だというだけで。
こんなにも、気を張っていたのかと。
こうして、一人になって自覚する。

我は、どれだけ意識していたのだろうか…。
こんなにも意識していたのかと思うと…。
顔が熱くなる。
気恥ずかしさが一気に襲ってくる。
枕へと顔を押し付けた。

…楽しいと、思えた。
今日一日、出掛けた事が。
こんな風に楽しいと、我が思える事に驚いてもいる。
実は…。

胸の奥が、音を立てている。
とくりと、音がする。
考えると。思い出すと。
この感情に答を出すとしたら、どんなものになるのであろうか。
…好意?
今まで…誰にも、感じた事のない、気持ちだ。
もう、認めてしまっても良いのだろうか。

そこまで考えた瞬間。
頭の中が沸騰するような熱さになった。
頬が先程より、更に熱くなる。
きっと今の我の顔は、真っ赤だ。
とても見られたものでは無い。

抱えていた枕に顔を押し付け。
我は熱くなってしまった息を細く吐き出した。


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「元就」

肩を揺すられ、名前を呼ばれ、我はぼんやりと目を開いた。
我は…一体、どうしていたの、か。

「転た寝したら風邪を引いてしまうよ、元就」

兄様の声。
我は一気に目が覚めた。慌てて、身体を起こす。

「目が覚めたかい?」
「兄様…」
「夕食の支度が整ったから呼びに来たのだけど、
 返事が無かったので悪いとは思ったけれど部屋に入らせて貰ったら、
 気持ち良さそうに元就が寝ていてね」
「兄様っ」
「起こすには忍びなかったけど、風邪を引いたら大変だからね」
「…済みません、お手数を掛けさせてしまって」
「いいよ、手数なんかじゃないからね」

にこにこと微笑まれる兄様に、我も釣られてしまう。
やはり、兄様の傍が一番安心出来てしまう。

「それよりも、元就」
「はい、何でしょうか?」
「本当に無理はしなくて良いのだからね」
「無理…ですか?」
「そうだよ。元就が転た寝をしてしまう程、気を遣って疲れてしまうのならば、
 この縁談は断っても構わないのだよ」
「いえ、大丈夫ですから」
「そうかい?」
「はい」

断りたくなど無い。
それは、我の本心だ。
家同士など関係無い…筈、だ。

「家同士の縁談なのだから、元就が無理する事は無いよ。
 犠牲になどさせたくないからね、私は」
「…はい」
「では、食事だから早くおいで」
「…はい、兄様」

兄様が部屋から出ていくのを見送ってしまった。
我も直ぐに行かなくては。
なのに、痺れたように身体が上手く動かぬ。

【家同士】…やはり、そうなのだろうか。
個人ではなく、我自身ではなく。
元より、その主旨の縁談だったのだから。

楽しかった気持ちが、沈んでゆく。
この儘、付き合いを続けても良いのだろうか。
息苦しさが、積もり出す。

我は一度抱えてしまった感情を持て余し始めていた。





2012.03.21
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