(Sweet Drops) - 13
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前向きであった筈
いつも全てにおいて
踏み出す事に躊躇など
考えた事も無いのに
何故こんなにも考えてしまうのか
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落ち着かぬ。
心がざわついた儘、何日も過ごしている。
原因は判り切っている。
だから尚更、落ち着かぬのだ。
先日の日曜に、再び出掛けて来た。
とても、申し訳なかった。
申し訳ないと、思っている。
どうしても、『家同士』という考えが頭から離れず。
一度目の時の様に、楽しむ事が出来ないでいた。
向こうが気を遣っているのが、判っていた。
我の様子がおかしいと、気付いていたのだろう。
『もし具合が悪いのだったら、送っていくので帰ろう』
『無理する事は無いから、遠慮なく言ってくれ』
そう…心配顔で、何度か言ってきた。
具合は悪くは無い。無理もしていない。
だから、我は首を横に振り大丈夫だと返した。
気が重くとも、帰りたくはなかったからだ。
どう思われていようと、会っているのが嬉しかったのだ。
我自身が。
何て事だろうか。こんな中途半端でいるなどと。
いつも白黒をはっきりとしてきている、我が。
どっち付かずの状態でいるなどと。
…信じられぬ。
いっそ、断りを入れてしまえば良いのか。
そうすれば、気持ちにけりを付けられる。
そうすれば、気持ちに振り回される事もなくなる。
…その方が。
いや、駄目だ。駄目だ。出来ぬ。
会えなくなる。
それは、駄目だ。会えなくなるのは。
縁を切りたくなど無い。我からなど。
…嫌、だ。
ここまで、考えて我は気が付いた。
我は、見合いの相手を―――長曾我部を。
好きになっている事に、気が付いた。
だから、こんなにも拘っているのだと。
ただ一体、どうすれば良いのか。
それだけが、判らないでいた。
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「さあ、元就くん、洗い浚い喋って貰おうか」
「…竹中」
仕事が終わり、帰社しようと部屋を出た所で。
我は呼び止められた。同じ秘書課勤務の、竹中に。
そのまま、話があるからと強引に連れて行かれた。
竹中の行きつけの店に。
「話す事など何も無い」
「そうかい? 嘘はいけないよ?」
「何が嘘だと言うのだ」
「ふーん、気付いてないんだ」
元より、竹中は我の神経を逆撫でする話し方をする。
しかも、優位に立った見方で、親切ごかしに。
なので、質が悪い。本人が判っている分、余計に。
「では、改めて元就くん」
「…何ぞ」
「悩み事は一人で抱えていてもろくな事にならないよ?」
「悩みなど…」
「ほら、そうやって突っ張ってもね、バレバレだし?」
「何がだ」
「お見合いしたんでしょ?」
いきなりの指摘に、息が詰まる。
けれど、動揺を表に出す事はせぬ。
竹中相手に、それは出来ぬ。隙を見せられぬ。
だが…。
「それが、元就くんの悩み事。ね、当たりでしょ?」
「話す必要は無い」
「でもね、話しちゃった方がすっきりすると思うんだけど?」
優雅な仕草で、カップを手にしながら竹中が微笑む。
我は、暫しその表情を見てみた。
油断はならない。それは判り切っている。
我は逡巡した。
「秘密は厳守するし、それに何よりね。
仕事に支障が出ちゃってるのは拙いんじゃないかなって」
「えっ?」
「ああ、やっぱり気付いてなかったんだね。
最近、元就くんらしくない凡ミスが、ね。一寸、続いているんだよね。
あ、でも大丈夫だよ。僕がちゃんとフォローしておいたから」
愕然とした。
まさか、そんな事になっていたなどと。
それに、気付いていなかったなどと。
己の未熟さに、我は衝撃を受けた。
思わず、口元を押さえてしまった。
あまりの事に。
「だからね、そんなの元就くんの本意じゃないでしょ?」
確かに、そうだ。そんな事は許せぬ。
何より、己自身が。
「竹中」
「はい、どうぞ」
我は覚悟を決め、確と目の前の竹中を見据え。
相談内容を口にし始めた。
ただ、竹中相手なので、簡潔にと。
余計な事は言わぬよう吟味しながら。
2012.04.05 back
瀬戸内お見合い騒動記
お節介さん登場v
元就視点、箱入りさんは大変です