(Sweet Drops) - 16


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臆病風に吹かれている
一歩が踏み出せないでいる
こんな事は今までなかった
こんな風になるなんて知らなかったから
知ってしまった今は立ち尽くしているしかない

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思考が止まってる。
纏まらないってレベルじゃねえ。
真っ白で、動かねえ。
何も考えらんねえ。
ナンだよ。これは一体ナンだってんだよ。

息の仕方。
歩き方。
メシ食ったり、眠ったり、朝起きたり。
仕事をする事までは出来る。
身体が覚えてる日常は、ナンとかトレース出来てる。
けど、そこまでだ。
その先が、ちっとも動いてくれねえ。

ナンだよ。
ナンなんだよ。
一体、俺はどうなっちまってんだよ。
こんな…失恋したみてえな…。

………。

あっ、失恋したのか。俺は。
そうだ。そうだ。
あんなトコ見せられちまったんだ。
失恋決定じゃないか。
ナンで忘れてたんだ、俺は。

………。

元就さんって自体に、良く似合っていたヤツだった。
俺が相応しくねえ、とかそんな問題じゃなくてよ。
自然に横に立ってて、その姿が普通で。
元就さんも、親しそうに接してた。

…だよな。

つまり、そういうコトなんだよな。きっとさ。
連絡しても、都合が悪いって言われたのは。
そりゃ、都合悪いわな。遠回しに言ってたんだよな。

…はぁ。

そんな気遣いしてくんなくても良かったってのによ。
はっきり言っちゃってくれて良かったのにさ。
気…遣わせちまったってワケだ。俺の鈍さが。
やっぱ、家同士のコトだったんだよなあ。

…はぁ。

もう連絡しねえ方がいいよな。
一々、断るのも心苦しいだろうし。
自然消滅でいいのかね。
一応、仲人さんに断り入れといた方がいいんだろうか。
見合いだしな…。

…でもなあ。

まだ、そうする元気がねえつーか。
気力なんかぺっちゃんこだしよ。
向こうから、もう断ってるかもしんねえし。
だったら、それでいい…かもな。
うん。
わざわざ、こっちから断んなくてもなあ。
トドメ刺すみてえなモンだし。

あー、ダメだ。ナンもする気が起きねえ…。


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「んで、そこまで落ち込んでるって訳か」
「…そーだよ、悪ぃか」
「別に悪くはねえが、親泰に頼まれたんでな」
「…お節介」

俺は政宗から、ゴンっと脳天直撃の拳骨を食らった。
仕事帰りの飲み屋のテーブルに俺は、突っ伏した。

「痛えだろっ」
「おっ、吠える元気はあるじゃねえか」

ニヤニヤと笑う、政宗を睨んでやるが。
コイツに効くワケもない。
そんなの判ってるが、一応な。マジ、痛かったし。

「親泰がナンだって」
「大事な大事なお兄様が元気ないんで、心配だから原因聞き出して、慰めて下さい。
 事後報告もお願いしますって、軍資金付きで頼まれた」
「お前、報酬に目が眩んだんのかよ」
「それもあるが、こんな面白い事に首突っ込まない手はないだろ」
「…お前ってそういうヤツだもんなあ」
「何を今更」
「だよなあ…」

学生時代からのダチの政宗は、容赦は無い分サバサバしてて。
妙に気が合う、気の置けないヤツだ。
今日はいきなり呼び出され、何事かと思ったら。
こーゆーコトか。心配掛けちまってたんだな。
ホント、いいヤツな。親泰も、政宗も。

…だったら。

遠慮なく洗い浚い、喋っちまうか。
腹に溜めとくのは性に合わねえ。
酒呑んで、愚痴って、それ聞いて貰って。
さっぱりと、キリ付けちまった方がいいに決まってる。

好きになっちまってた分、もう少し掛かるだろうけど。
元就さんの為にも。
俺がさっさとキリ付けた方がいい。
支離滅裂でも、政宗なら聞いてくれんだろ。
辛辣に返しながらも、親身になってくれっから、コイツは。

「あのな…」

俺は腹積もりを付けて、口を開いた。





2012.04.15
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元親視点、どーんと下の下まで落ち込んでおります