(Sweet Drops) - 17
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
自ら動く事に勇気を必要とする
動かないのは楽だから
傷付かないで済むから
傷付くのは嫌だったから
けれどそれでもと思ってしまったから
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
ずっと握っていた儘の携帯を覚悟を決め、漸く開く。
着信履歴にある、一つの連絡先を確かめる。
長曾我部という表示に、胸がとくりと鳴る。
後は、指先に力を込めれば良い。
そうすれば、携帯から発信される。
そして、相手が出るのを待てば良い。
たった、それだけの事を我はずっと躊躇っている。
指に力が込められぬ。
携帯を閉じてしまいたい衝動に駆られる。
いっそ、向こうから今掛かってこぬかと思う。
何と、後ろ向きであろうか。
己の意気地の無さに呆れてしまうのだが。
手の中の携帯は、沈黙を守っている。
…情けない。
いつから、我はこんな臆病風に負けてしまっているのか。
いくら溜息を吐こうが、払拭が出来ないでいる。
本当に情けない。
『先ずは元就くんから連絡する事』
これが一番の優先事項だからと、竹中に念押しされたアドバイスだった。
何故、我からと言い掛けたが、思い直した。
いつまでも、この状況に身を置いていたくはない。
その為に、竹中に頭を下げたのだ。
ならば、実行するべきであろう。
心音が煩く、耳に付く。
呼び出しのコールの音を数える。
早く出て欲しいと思い、この儘切ってしまおうかと思う。
短い筈の時間が、長く感じる。
もう、切ってしまおうか。切ってしまえば…。
『…元就さん?』
瞬間、大きく動悸が撥ねた。
久しぶりに聞いた声に。
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
「では、明日に」
通話を切る。そこで指が震えているのに気付いた。
我は、どれだけ緊張していたのか。
掌に汗を滲ませていた。
携帯をテーブルへと置き、掌を開いたり握ったりする。
用意していた言葉は、頭の中から消えてしまった。
声を聞いた時に。
何を話せば…何か話さねばと焦っていたところで。
『久しぶり。どうしたんだ?』
簡潔な言葉が掛けられた。声色は丁寧だった。
まだ長い付き合いではないが、引っ掛かりを感じる言い方で。
何故、連絡をくれなくなっていたのか。
我が断ってばかりだったからなのか。
もしかしたら、こうして連絡をするのは迷惑でしかなくなっているのか。
尋ねたい事が、頭の中を錯綜した。
選んでおいた当たり障りの無い言葉は、一つも口から出る事はなかったが。
『忙しかったんだよな。元気?』
気遣われている言葉に、気を取り直す事が出来た。
元気だと伝え、勢いの儘に浮上してきた用意しておいた言葉を口にした。
一気に畳み込む様、気持ちが萎えないうちにと。
我は早口で捲し立てた。
久しぶり、との事。
先日、会えないかとの申し出を断った事への謝罪。
それから、もし都合が良かったら会えないだろうかとの、我からの申し出。
即時に返ってきた返答は、承諾のものだった。
ほんの少しの間があった事は、気にはなったが。
安堵をした事実の方が大きく、詳細を相談した。
そして、決まったのが明日だ。
明日、会える。会えるのだ。
じわりと、感情が高ぶってくるのを感じる。
我は会いたかったのだ。
色々な理由付けをし、己ばかりを守ろうとしていた事が。
愚かだったと思える。
竹中に言われた言葉を思い出す。
『君から素直って一番遠い言葉だとは思うけど、良い機会だよ。
考えてみてごらん? 実行するのはさほど難しい事じゃないよ。
君が素直になれば良いんだからね、元就くん。
判った? 判ったなら、即実行してみると良いよ』
延々と続く説教的な竹中の言葉を要約し、我は自ら動く事を決めたのだ。
これがどれ程の確率で成功をするのかは、未知数だった。
以前の我なら、そんな数字では実行する事などしない。
勝率の確実なものだけを選んできた。
無駄な事はする気などなかった。
第三者的に見地で、我を鑑みる。
止めた方が良いと、冷静に思う。
しかし。
止める気が無いのだ。行動を起こしたいと、思ったのだ。
感情が。
初めての事だ。
だから手探りだ。
それでも、そう決めたのだ。
明日、会いに行く。
そして、纏まらないこの気持ちを告白しようと思う。
どんな結果が見えなくても。
そう、我は決めたのだ。明日を。
2012.05.11 back
瀬戸内お見合い騒動記
自分で決めた事を実行中
元就視点、頑張ってます、小さな胸に勇気を溜めて(笑)