(Sweet Drops) - 19
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考える
自分が何故こうするのか
そして
明確な答など出ないのに
何故動こうとするのか
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足が速くなったり、遅くなったりする。
待ち合わせの時間が近付いている。
待ち合わせの場所に行かなくては。
気ばかりが焦る。
会うと決めたのだから、行かなくては。
一刻も早くと。
なのに、気持ちがほんの少し引いてしまう。
今まで、こんな事はなかったというのに。
足が重くなる。一歩一歩が。
力を入れないと、止まりそうな程に。
何度も己を叱咤して、我は待ち合わせ場所へと辿り着いた。
どこからでも直ぐに見つけられるであろう、高い長身。
周りから、頭一つは飛び出ている。
それだけでも目立つというのに、銀の髪が更に…。
向こうはまだ気付いていない。
我は足を止めた。
深呼吸をする。
心は決めたのだ。決めてあるのだ。
だから、我は足を進め、声を掛けた。
「元就さん」
そして我へと振り返り、名を呼んだその顔に我は見取れてしまった。
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ここでは何だからと、近くの店へと入った。
落ち着いた雰囲気の店で、広く静かだった。
これならば、話しをするのに適している。
飲み物を頼み、暫く当たり障りの無い会話をする。
その間、気を落ち着けようと我はしていた。
きちんと、話をしたいのだ。
この儘では、いられないのだ。
我は居住まいを正した。
「今日は尋ねたい事がある、のだ」
「元就さん?」
危うく、噛みそうになった。
こんなにも緊張しているのかと、己に驚く。
膝の上に置いてある手をぎゅっと握り、気を取り直す。
「実は…」
「うん、俺も聞きたいコトがあるんだ、元就さんに」
「…我、に聞きたい事と?」
「そう。あの、先に聞いてもいいかな?」
我はそれに頷いた。
機先を削がれてしまったが、何を聞きたいのだろうと。
そちらの方が気になってしまった。
もう一度、手を固く握り、次の言葉を待った。
「俺、元就さんが好きです」
「えっ!?」
「見合いで、家同士ってのがあったから、今更こんなコト言っていいのかって、
悩んだんだけど、それはホントなんで出来たら信じて欲しい」
今…今、我は何を言われた?
「けど、それは俺からの一方的なコトだから、気にしないで欲しい、つーか。
重荷にしないで欲しい、つーか…あ、スミマセン、脱線しちまった」
「いや…」
心臓がドキンと鳴った後に聞かされた内容に、熱くなりかけたものが冷えていく感覚を覚える。
一体、何を言いたいのだろうか。
「だから、その、つまり、俺が言いたいのは」
「何ぞ」
「元就さんが本当に好きな人がいるんなら、そっちを優先してくれて構わないんだ、俺は」
「はっ?」
「先日、それらしい人と一緒に居たのを見ちまったんだ、悪ぃ」
何を…何を言い出す。
「だからさ、俺のコトも家のコトも気にしねえで、元就さんは元就さんの本当に好きなヤツと…
わっ! 冷てっ!」
勘違いも甚だし過ぎる。
我は溜まった怒りと共に立ち上がり、氷の入った水のグラスを傾けた。
見当違いの話ばかりしてる頭の上に。
「元就さん、何すんだって、わっ! 止めっ!」
「この馬鹿者っ、余計なお世話ぞっ」
「も、元就さん?」
「我が本当に好きなのは、他でもないそなたぞっ!
誰と勘違いをしているのは知らぬが」
「お、俺?」
「判らぬなら良いっ、もう話す事など無いっ」
激昂した。
今まで、こんなに感情が高ぶり荒れた事などなかった。
我が他の者を好きだと、家同士の見合いで仕方なくと思われていた事が。
腹立たしい。
腹立たしく、我は空になったグラスをテーブルへと戻し、踵を返した。
これ以上、話す事など無い。
終わりだ。
破談だ。
そう考えた途端、締め付けられた胸を抱え、我はその場を去ろうとしたつもりだったが。
後ろから、強く手首を掴まえられ。
思わず、振り返ってしまった。
そして、我を見る真剣な眼差しに、怒りはその儘に動けなくなってしまった。
一刻も早く、振り払って帰りたいというのに。
「待ってくれ、元就さん」
その一言に、我は足を止めてしまっていた。
2012.05.22 back
瀬戸内お見合い騒動記
元就視点、元々短い導火線が爆発しちゃいました〜