(Sweet Drops) - 20
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信じる
信じない
その前にやる事は
たったひとつ
大事なものはしっかりと掴まえておく事
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今、何を俺は聞いた?
今、元就さんは何って言った?
好き?
俺を好き?
元就さんが、俺を好きだって言ったのか?
脳細胞が全停止するかと思った。
思ったけど、何とか堪えた。
立ち上がって、真っ赤な顔になって、怒ってる元就さん。
そんな姿、見せられたらボケてる場合じゃねえ。
好きだって言ってくれたのは、後回しだ。
いや、違う。
後は回しじゃなくて、あーっ、もお、面倒だっ。
俺は元就さんを引き留める為に、咄嗟に手を伸ばした。
逃がしちゃダメだ。絶対に。
ここで逃がしたら、絶対に終わりだ。
「元就さん、今、何て言った?」
両腕を掴んで、俺へと向かせる。
真っ赤な顔が、そっぽを向いたけど構ってらんねえ。
俺は畳み掛けた。
「なあ、今、何て言った? 俺のコト、好きだって言ったよな?」
「聞こえているではないか」
「もう一度、聞きたいんだよ」
「何故」
「さっきはいきなりだろ。もしかしたら聞き間違いかってよ」
「そなたの耳は飾り物か」
「なあ、もう一回言ってくれ」
元就さんの腕を握ってる手に力を込める。
切羽詰まってるでも、何でもいい。
聞きたい。もう一回聞きたい。
嘘じゃない。本当だって。本当の事だって。
元就さんの口から聞きたいんだ。
そしたら。
「元就さん、頼む。お願いだ。
言ってくれたら、俺、何でもすっから」
息を飲む。覚悟をする。
俺の全神経は、元就さんの唇の動きに集中してる。
たった一言を俺は心の底から、待っていた。
「…好き、と。我はそなたの事が、と言ったのだ」
頭ん中で爆竹が撥ねたみてえだ。
腹の底から、わあっと叫び上がる。
ダメだ。もう、止まんねえ。
「元就さん、好きだっ」
両腕を掴んでた手を離して、今度は脇へと手を通して。
その場で、元就さんの軽い身体を持ち上げる。
「こ、こらっ、な、何をするっ」
「元就さん、好きだ。ホント、好きだ」
「お、下ろせっ、下ろさないかっ」
「結婚しよう、元就さん。俺と結婚して下さい」
下りようとジタバタしてた元就さんの動きが、一瞬で止まった。
真っ赤な真っ赤な顔で、俺を見つめてくる。瞬きを忘れてる程に。
「返事」
「…する」
一番、これしか聞きたくなかった返事が、元就さんの口から聞こえた。
しっかりと、聞いた。
全身が震えた。武者震いだ。
「ホントに? ホントにホントだな?」
「また、そのような事を。そなたの耳は本当に飾り物か」
体勢が不安定なのを物ともせず、元就さんは手を伸ばし。
俺の耳を抓った。笑いながら。
その綺麗な笑顔に、俺は見惚れながら。
持ち上げていた元就さんの身体を下ろして、抱き締めた。
周りからの拍手喝采に、恥ずかしがって怒る元就さんに。
足を思いっきり踏まれながらも。
離すもんかと、更に力を込めて元就さんを俺はギュウッと抱き締めた。
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怒濤の展開。
あれから、もう人任せなんかしてらんねえ。
一刻も早く結婚して、一緒に暮らしたいって希望を。
俺はどんどん進めってった。
夢なら夢でもいい。
目が覚める前にやっちまえばいいんだと、ばかりに。
兎に角、急いだ。大急ぎだ。
時折、元就さんが呆れたように文句を言ったり、窘めてくっけど。
頬が赤かったり、耳が赤かったりすっから。
単に照れてるだけなんだなあと、ニヤニヤすっと。
すかさず、足を踏まれる。
公開プロポーズした日から、事ある毎に踏まれるようになっちまった。
けど、それは元就さんの照れだってのが判ったんで。
ヒールで踏まれんのは、勿論痛えけど。
浮かれてる俺には、あんま効き目が無い。
「元就さん」
「何ぞ」
「幸せになろうな。俺が絶対幸せにすっから」
「当然ぞ。それにそなただけではあらぬ。
我もそなたを幸せにするのだからな」
「うん、頼むな」
コツンと額を合わせて目を見ると、元就さんは笑っていた。
それに、どうしようもない幸福感に包まれる。
俺は改めて、心ん中で誓った。
この人を幸せにして、俺も幸せになるってな。
明日は待ちに待った、元就さんと俺の結婚式だ。
愛してるよ、元就さん。
2012.05.22 back
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