(Sweet Drops) - 3
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綺麗なもの
眩しいもの
惹かれる理由は何だろう
目が離せなくなるのはどうしてだろう
その答はどこにあるのだろう
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「元就?」
隣からの、兄様の声に我はハッと気が付いた。
今、どうしていた…我は。
「どうかしたのかい」
「いいえ、兄様」
「珍しいね、元就がぼうっとするなんて」
「いえ…そんな事は」
少しだけ、我をからかう様に微笑まれる兄様に。
言葉を濁して返してしまった。
何をどう言えば良いのか…己自身で掴めぬ。
こんな事は今まで無かったというのに。
目の前に座る男から、目が離さないでいるというのは。
長曾我部元親、と名乗った男。
座っていても背が高く、少し見上げる形になる。
銀の髪と蒼の眸が、印象的に映る。
必死の形相で、遅刻した事を謝罪してくる。
それが…それから、我は目が離せないでいる。
「では、そろそろ…」
今度は世話役の仲人より掛けられた言葉に。
我はハッとし、促される儘立ち上がった。
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今日は何度目の驚きだろうか。
部屋が出る瞬間の事だった。
ガツン――と、大きな音が響いたと思った途端。
横に居た筈の男が蹲っていた。
額を押さえて。
何事が起きたのかと、状況が掴めないでいると。
「すまねえ…ビックリさせちまった」
下から、我を見上げている長曾我部に声を掛けられた。
先程と同じく、額を掌で押さえた儘で。
周りの者達の慌てた声が飛んでくる。
その内容から、長曾我部が部屋を出る際に。
鴨居に額をぶつけた様だ。
「大丈夫ですか、長曾我部さん」
「ああ、大丈夫デス。ホント、驚かせてスミマセン」
兄様も心配して、声を掛けられている。
なのに、我は一言も声が掛けられぬ。
大丈夫なのか、とそれだけを口にすれば良いというのに。
声が、喉が、詰まっている。
どうしたというのだ、我は。
「あ、ホント驚かせちまってスミマセン
俺、頑丈だから大丈夫なんで、ホント心配ナイんで」
そんな我とは対照的に、長曾我部は。
痛みからくる涙目で、周囲を宥めていた。
そして、立ち上がり。
「じゃ、庭散策して来ますんで」
そう言い、我へと向き合った。
それを。
我は振り切るよう、先に歩き出した。
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静けさを保っている庭であった。
設計が見事であり、緑の配置、光彩等が心地良く感じる。
いつもの我ならば、気に入っていた筈だ。
…いや、気に入っては、いる。
ただ、別の事に意識が集中されてしまい。
庭の景観を楽しむ事に至っておらぬのだ。
「…でさ、毛利さんは仕事してるんだよな」
「うむ、兄の会社に兄の秘書として働いておる」
「あ、そーなんだ。俺もオヤジの会社に見習いで働いてんだけどよ」
知っておる。身上書には一通り目は通してある故。
覚える気は無かったが、記憶にはある。
四国地方ではあるが、代々続く建設会社であり。
手堅くもあるが、時勢に上手く乗っている。
そこの跡取りの長男だと。
その背景もあって、我の所へ話がきた筈だ。
「身内ってのが公然だから、余計に頑張んなきゃってやってんだけどさ。
空回りしちまう時もあってさ、難しいなと」
「…うむ」
その気持ちは判る。我も立場は同じ様なものだ。
親族というだけで、見る目を変える輩だの。
直接、文句も抗議も言えない実力の無い者だの。
普段は全く気にはしておらぬが、時折、己の力不足を痛感してしまう。
兄様の役に立っているのだろうかと、自問自答する。
「でもさ、やるっきゃねえんだよな。
どーにかこーにかでも、やればさ、結果が出っからさ
上手くいきゃオーライで、失敗したら次頑張ればイイしな」
その言葉を聞き、心の中に安堵が広がる。
慰めでもなく、口先だけの励ましだけでもなく。
我が無意識に欲していた言葉が語られた事に。
我は、長年の拘りが一つ消えた様に気がした。
兄様にも、相談の出来なかった事が。
「…そう、だな」
「だろ? そうだよな、やっぱ、うん」
長曾我部へと顔を向けると。
満面の笑みというので、我を見ていた。
それに硬直をしてしまった身体の中で。
心音が強く響き出したのを我は止める術が見つけられずにいた。
2011.10.25 back
瀬戸内お見合い騒動記
自分だけが相手を好きだと思い込んでるお二人さん
元就視点、ナリ様の戸惑う揺れ幅の大きさが可愛らしく(笑)