(Sweet Drops) - 7


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感覚が違う
今まで感じてきたものとは
その慣れなさに
未知への領域に
足踏みをしている

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見合いをしたのだから、断らず了承をしたのだから。
婚姻が前提の付き合いを始めるという事になる。

それは判っておる。
それを覚悟の上で、返事をしたのだ。
我は。だから良いのだ、これで。

そう何度も何度も、己に言い聞かせてはいるのだが。
本当に良いのだろうか。先方は、と考えてしまう。
あちらから先に、返事を寄越してきたというのに。
今のところ、何の問題も無いというのに。
胸がざわついて仕方がないのだ。

一挙手一投足を。
姿を。声を。
あの男を、長曾我部の事を思い出すと。
落ち着かなくなるのだ。
我は一体どうしたというのだろう。
気になってしまうのだ、どうしても。
長曾我部の事が。

もう認めてしまった方が良いのだろうか。
楽になれるのだろうか。
我が長曾我部を気に掛けている事を。
この儘では、いつまでも堂々巡りにしかならぬ。
答も出ぬ。
肝心な所から目を逸らし、先延ばしにするなど。
こんな我らしくもない事をいつまで、しておるのか。

そうだ。覚悟を決めてしまえば良い。
そうしてしまえば、今以上に思い悩む事はなくなる筈だ。
この儘ではいられぬ。こんなざわつきを抱えた儘など。
心臓が保たぬ。

しかし…。
どうすれば良いのか。
それが判らぬ。
こういった事は、どう対処すれば良いのか。
本当に判らぬ…。


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「元就」
「はい、何でしょうか、兄様」
「仲人さんから連絡があってね」
「あ、はい」

いきなり、心臓が跳ね上がった。
もしかしたら、やはり断るという連絡が入ったのだろうか。
返事だけをした儘、その後何もしないでいた為に。

「…それでね、元就」
「あのっ」
「ん? どうしたんだい?」
「あ、いえ何でもないです…」

思わず、兄様と声が被ってしまい。
我は慌てて、言葉を飲み込んでしまった。

「あの、それで連絡とは」
「そうそう、向こうの方から直接元就に連絡を入れたいそうなので、
 良いですかって事なんだけどね、構わないかい?」
「はい、構いません」
「じゃあ、その様に伝えておくよ」
「はい、お願いします」
「では、元就の携帯の番号を教えておくからね。それで良いかい?」
「あっ、はい…それで良いです」

穏やかに笑っている兄様に、頭を下げる。
普段から兄様には敬意を持っているので、ある程度の緊張があるのだが。
いつも以上に、緊張をしてしまうのは…。

まだ断られていないと、その事に安心した次に。
いつ連絡がくるかと、そちらに考えが移行した為だろう。
いつくるか。いつくれるだろうか。
………。
どうしてだ。どうして考えてしまうのだろうか。
我は…。
連絡を待っている、のか。欲しいのか。

ああ…、混乱する。
又、落ち着かぬ。落ち着かなくなる。
落ち着かなくなってゆく。
我はどうすれば良いのだ。
どうする事も出来ない筈なのに、心がざわついてゆく。

心を落ち着かせ様と拳をきつく握った、その時。
携帯の着信音が鳴った。
急いで携帯を手に取り、深く呼吸をして。
ゆっくりと着信ボタンを押した。

「…はい」
『長曾我部なん、ですが、あの毛利さんですか…いや、そうだよな』
「はい、毛利です」
『毛利さんの携帯に連絡してんだらか、その筈なんだから…
 あ、スンマセン、ナニ言ってんだ、俺』
「あの、ご用件は何でしょうか」
『そ、そーそー、ご用件なんだ。今度の日曜、会えないか…
 じゃなくって、会えませんかっ』

受話器を通しての大声に、我は耳から思わず携帯を離した。
けれど、用件の内容は耳に残った。
今、何と言われた? いや、ちゃんと聞き取っている。
会う? 今度の日曜に? 我が誰と? 長曾我部と?
今、それを伝えられたの、だな。
長曾我部から我に。

『…あの、もしもしー、毛利さん、聞こえてるか?』
「き、聞こえておる」
『で、あのさ返事貰えてえんだけど…』
「その日は空いておる。大丈夫だ」
『そっか、良かったぜ。じゃあさ…』

大きく明るい声に、どきりとしながら。
我は待ち合わせの詳細を言われる儘、急いでメモを取った。





2011.12.13
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瀬戸内お見合い騒動記
自分だけが相手を好きだと思い込んでるお二人さん
元就視点、合わせる様にナリ様もジタバタ中(笑)