(Sweet Drops) - 8


--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--

反応が読めない
感触が掴めない
だからといって
手を引っ込める気はないから
先ずは一歩足を踏み出してみる

--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--


携帯の通話ボタンを切った指先が、微妙に震えてて。
俺はドンだけ緊張してたんだ、と苦笑した。
けど、相手が相手だ。
緊張して当然だって。

毛利家のお嬢さん。俺の見合い相手。
結婚を前提の付き合いを始める相手。

俺としては、家なんてなくても付き合いたい相手なんだけどよ。
向こうは、どう思ってんのか…判らねえんだけどよ。
それでも、この縁を離したくなくてよ。
ダメ元で、見合い後にOK出したら話がトントン拍子に進んでる。

上手くいってんだから、喜んでイイ筈。
なんだけどよ、どーしても手放しで喜べねえ。
向こうサンは、家が優先なんじゃねえかって。
疑惑が拭い切れなくてよ。

…失礼な考えってのは判ってるさ。
けどよ、家もそーだけど、本人自身の条件があんなにイーってのによ。
ナンで、俺でOKしたんだって疑問が湧くだろ。
別に卑下してるワケじゃねえ。純粋な疑問だって。

思い出せば思い出す程、俺の好みのど真ん中の容姿。
美人で可愛い。
ツンと澄ましてるトコも、ちっと不器用そうに見えるトコも。
ナンか俺の好み。理屈抜きで。
だから、もっと知りてえと思った。本人自身を。
もっと知ったら、きっとよ…うん。
俺のコトも知って欲しくなる。教えてえ。
んで、もっともっと…。

んー、キリがねえな。
ナンだよ、俺。こんなガキみてえに、気にしてばっかでよ。
考えてばっかで、動きが鈍ってるなんてよ。
俺らしくもねえ。
政宗あたりにバレたら、どんだけ冷やかされるか。
あ〜、ホント参った。参ってる。

持ったまんまだった携帯を見る。

さっきまで、コレで話してた。あのお嬢さんと。
言葉少なくて、返ってくる返事も簡潔で。
でも、拒否の言葉も雰囲気もなかった。
希望…持ってイイんだよな、俺は。
ああ、持ってイイんだ。そう決めた。

これからだ。全部、これからやってけばイイんだよ。
イイ方に転がせばよ。

今度の日曜。
晴れっとイイ。デート日和にすんだからな。


   --*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--


待ち合わせは、11時半…だったよな。
待たせねえようにと、10分前に待ち合わせ場所に来たら。
もう来てた。

「ゴメン! 待たせちまったか」
「いや、我が少し早く着いただけだ」

素っ気ない言い方だったが、少し困ったような顔で俯いたのを見たら。
ホッとしちまった。
嫌われてねえ。そう思えた。
大丈夫だな、これだったら。
でも、気を付けてはおかねえとな。

『アンタはガサツだからなあ、そんな深窓のお嬢に大声出したりすんなよ』
『些細な事でも気を付けて上げれば良いと思うよ、面倒がらずにね』
『頑張れば大丈夫だと思うでござる!』
『落ち着いてけば大丈夫でしょ。ダンナ、そこそこにイイ男なんだしさ』

…アドバイスになってんだか、なってない方の確率が高いダチ達の言葉を思い出して。
一旦、気を引き締める。
ヘタは打てねえからな。

「そっか、早めに来てくれたのか、ありがとな」
「礼を言われる筋は無い」
「いいじゃねえか、嬉しかったんだよ」
「…何故だ」
「来てくれたんだなあって思ってさ」
「約束したのだから、来るに決まってるであろう」
「それでもさ、こうして実際に来てくれてたら嬉しいじゃないか」
「そう、なのか?」
「そういうモンだって」

俺の言葉に、ちょっと目を丸くする。
それから、考え込む。又、俯いて目を伏せて。
あ、睫毛が長え。その俯き加減の顔、イイな。

「判ってくれたか」
「よく…判らぬ」
「そっかあ」
「済まぬ」

へえ、正直だな。誤魔化すなんてしねえんだな。
まだ自分なりの納得がいってねえって顔が、妙に色っポイ。
感情が揺れるってのが、もっと突きたくなる。
俺からのアクションで、どう動いて、どんな顔を見せてくれんのか。
すんごく興味が湧いた。
けど、焦るな俺。急いては、だ。
これから始めるんだからな。

「いいって。取り敢えず、昼メシを食べに行かないか、腹減ってんだ、俺」
「うむ、我も空いた」
「ナニがいい?」
「和食が良い」
「了解、天麩羅はどうだ?」
「それが良い」

はっきりきっぱりで、気持ちイイ。
一応、ピックアップしてきた店の中に天麩羅の店があったんで。
ソコにと速攻決める。

「じゃ、行くか」
「ああ」

自然に肩に回し掛けてた手を留めて、俺は彼女を促し歩き始めた。





2011.12.14
                  back
瀬戸内お見合い騒動記
自分だけが相手を好きだと思い込んでるお二人さん
元親視点、始めの一歩、頑張れアニキ!