(Sweet Drops) - 9


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そっと
気付かれない様に
ちらりと
見つめてみたい
どんな表情をしているのかを

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気付いた事が幾つかある。
歩き方が、我の歩調に合わせている事に。
自然と、我の右側に居る事に。
背が高いが、圧迫が無い事に。
言葉は粗雑だが、丁寧な物言いな事に。

そんな風に、指折り数えてしまう。
目に付いた事を。
そして、そこから好ましいものと感じている己に。

食事をと誘われた見合い相手を目の前にしている状況で。
色々と考えてしまう。
緊張はしている。会うのは二度目なのだ。
しかも、二人きりだ。何を話せば良いのか。
仕事とは勝手が違う。話題が思い付かぬ。
運ばれてきている食事は、どれも美味なのだが。
緊張感から、いつも通りに味わえぬ。我らしくもない。

「…えっと、あのさ、キレイな食べ方するんだな」
「?」
「いや、あのさ、俺んトコは男兄弟ばっかなんで、
 そんな小鳥みてえな食べ方してたら食いっぱぐれるからさ」
「食事の仕方を意識した事は無い」
「うん、だから、そういう風に育ってきたんだなあってナンか感心したつーか、
 ゴメン、変なコト言ってんな、俺」
「変では無い」
「そっか? 気ぃ悪くさせたんじゃねえかってよ」
「悪くしておらぬ」
「だったら良かった。ダチから思ったコト何でもかんでも口にすんなって言われててさ」
「そうなのか?」
「そう。俺としちゃ、つい口にしちまってんだけどよ、
 悪気は一切ねえつっても、受け取り方ってのもあんだから注意しろってさ」
「確かに、それはあるな」
「だから、誤解させねえようにって思ってんだ」
「うむ」
「だからさ、もし、もしな、俺の言葉でムッとしたコトがあったら言ってくれたら助かる」
「何故だ」
「毛利さんにはちゃんと説明してえし、言葉の行き違いってしたくねえんだ」

言ってくる事は正論であろう。
ただ、それを何故真摯に、我に言うのであろうか。
そして、それに対し、我は嬉しいと感じているのか。

「…判った」
「頼むな」

我の了解に、大袈裟に喜んだ顔に。
跳ねた心臓を宥めるのに、我は静かに息を吐いた。


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「じゃあ、今日はゆっくり休んでな」

自宅の玄関前まで、長曾我部は我を送って来た。
食事の後、クラシックコンサートに赴いた。
どうやら、我の好みというものを考慮したらしい。
特に好んでとはいないが、演目など演奏自体も良く。
耳には心地良いものであった。
但し。

「それから、えーっと…」
「仕方なかろう」
「あ……スミマセン、でした」

背中を丸め、必死に謝罪してくる姿に。
我は少し可笑しくなり、笑ってしまった。

「イヤ、マジ悪いと思ってっから」
「疲れているのだろう」
「あ〜、それは否定出来ねえけど、やっぱ俺が悪かったし…、恥、かかせちまったし」
「恥?」
「だってよお、あんなトコで連れが寝ちまうのって、イヤじゃないか」

確かに。
我ならば、その場で罵倒し、その場に置き去りにするだろう。
ただ今までに、その様な事柄に遭った事が無い。
その所為なのだろうか。呆れはしたが。

「でもさ、ありがとな。起こしてくれて嬉しかった」

そう、長曾我部の言う通り、周りに気付かれぬ様に。
長曾我部を気遣って、我は声を掛けたのだ。
考えると、恥とかではない。心配でだ。
しかし…。
心配? 我が? 誰を?
長曾我部を、だ。それしかない。そうしかない。
そう意識した途端、頬が熱くなった気がした。
我は思わず頬を押さえてしまった。

「毛利さん」
「何ぞ」
「いや、あのさ、又誘ってもいいか…な、と」

声を掛けられ、動揺を悟られぬよう、端的に返事をすると。
頭に手をあて、困っている様な顔の長曾我部が我を見ていた。
もう一度、会える。
次を約束出来る、のか。

「どう、かな」
「構わぬ」
「ホントか」
「本当だ」
「やったっ! あ、ゴメン、煩かったよな」
「平気だ」

好ましい。素直にそう思う。
思ってしまった。
これならば、何とかなるであろうか。
我でも、付き合う事が出来るであろうか。

「じゃ、改めて連絡するから」
「了解した」
「おやすみ、今日はホントありがとな」

大きく手を振りながら、長曾我部は帰って行った。
それを暫し見送った後、我は家の中へと入った。





2012.03.01
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瀬戸内お見合い騒動記
お見合い後の初デートですv
元就視点、色々小難しく考えちゃってますが嬉しいようですv