【 voice box 1 】


≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫


アンタが好きなんだ
だから
付き合って欲しいんだ

≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫


馬鹿か、此奴は。
睨み付けると、笑う男に。
我は口を開いた。

「断る」
「えーっ、ナンでだよ」
「付き合う気は無いからだ」
「付き合ってもみないうちから、そんなコト言うなよ」
「大体、我は貴様に恋愛感情を持っておらぬ」
「そんなのそれこそ付き合ってみねえと、判らねえじゃねえか」
「我に付き合う気は無いと言っておる、貴様の耳は飾りか」
「酷えなあ、ちゃんと聞こえてるって」
「だったらもう良いだろう、我は断ったぞ」
「そんなコト言わねえでさ、試しにさあ」
「断る」

頭痛がしてくる。
この会話の噛み合わさに。
昔もそうだった。
前世、戦国の時代に対峙していた時と同じだ。
瀬戸内の海を挟んで、我らは居たあの頃と。

だが、今の生まれ変わった現代では。
我の身は女で、現在は高校生だ。
前世の記憶のある。
そして、その我に交際を申し込んできたこの男は。
男の姿の儘で、記憶が無い…らしい。

そうだ。ある訳があらぬ。
あるならば、我に交際など申し込む筈など無い。
好意を持ってるなど言う訳が無い。
持つのは憎悪だけの筈だ。

戦国のあの時に。
殺してやる、と言われ。
殺された、のだから。
我は、長曾我部元親に。


≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫


物心付いた時には、もう既に前世の記憶を持っていた。
己は毛利元就の生まれ変わりなのだと。
ただ、性別が女になっていたのには驚いたが。
どうしようも無い事をあれこれ言う気はなかった。
記憶がある事にも、別に支障は無かったので。
その儘、現世を生きてきた。
何の問題も無く。

それが、高校に進学した時の入学式で。
戦国の世での面々を見つけてしまった。
厄介だった。
記憶のある者、無い者と分かれていたので。
関わりたくたくなど無かった。
実際、回避した。無視をした。

特に、その中で長曾我部を。
彼奴だけは、決して関わりたくなど無かった。
二度と会いたくなどない、男。
声も聞きたくなどない、姿も視界に入れたくなどない。
我の存在を知られたくなどない。彼奴には。

進学校の為、一年生の時からコースでクラス分けをする。
なので、長曾我部とはクラスも校舎も違っていた。
しかも、生徒数も多い。
だから、中学の時のように、顔も知らぬ儘卒業するだろう。
我が注意を払っていれば、大丈夫と高を括っていた。

それが、まさか。
向こうから交際を申し込んでくるとは。
青天の霹靂としか言い様がなかったのだ。





2011.12.09
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チカにょナリ、高校生瀬戸内物語
記憶のあるナリちゃんと無いアニキの話です
ナリちゃん、どうするんでしょうか?