透通る波 T
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傍に居た君
傍に居る君
どっちも君なのに
どうして違うと
思ってしまうのだろう
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「…元親、元親」
「ん……あっ?」
「おはよう、朝だ」
「はよ、元就」
「腹が空いた、早く朝食を作ってくれ」
「ハイハイ、判った判った」
俺は肘を付いて身体を起こした。
隣で寝ていた元就は、ベッドの上に正座していた。
俺を起こす為に。自分の腹が減ったから。
「おはよ、元就」
「2度目だが」
「元就からは聞いてナイんだけど?」
「そうか。おはよう、元親」
元就へ、おはようのバードキス。
それだけして、俺はベッドから下りた。
「和? 洋?」
「和食が良い」
「了解、お前も着替えて顔洗ってこい」
「判った」
元就もベッドから下り、部屋の遮光カーテンを開ける。
ああ、今日も良い天気だな。
お日様の光が気持ちイイ。
元就も目を細めて、窓を開けて外を見ている。
空気も春だ。あたっけえ。
「元親、我は…」
「腹が空いてんだろ、判ってるって」
「判っているなら…」
「早くしろ、だろ、ハイハイ」
元就の言葉を先取りしてやると、案の定むくれた。
大した表情の変化はなくても、俺には判る。
俺にだけ向ける甘えのサインなんだからな。
「卵焼き、甘いのが良い」
「ウン」
「焦がすな」
「焦がしたコトねえだろうが、それは元就だろ」
「煩い、早く作りに行かぬか」
もう一度、戻ってキスしたくなる表情をする元就。
ホントに、そうしてやろうかって思うくらいの。
けど、これ以上はストップしとく。
あまり過剰に構うと元就は困惑する。
慣れてねえから。途惑っちまうから。
自分に。
俺を全面的に信じてるってのに。
自分に自信がねえから。
矛盾を起こす。ガキの癇癪のように。
引き付けを起こして、パニックになる。
―――俺の所為で。
ナンでもないように、過ごして来たツケ。
俺の罪を元就が受け入れてくれようとしてくれる摩擦。
悪いのは、俺。元就はナンも悪くねえ。
俺だけでイイってのにな。
「元親、どうしたのだ?」
「お前に見取れてた」
「馬鹿者っ」
瞬時に真っ赤になった顔と投げられる枕はセット、だ。
ボンと投げられた枕をキャッチして、元就に軽く投げ返す。
定型のお小言に、俺はウィンクで返してキッチンへと向かった。
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現在、一緒に暮らしている元就は【毛利元就】のクローンだ。
俺が創った。
非合法なのも、倫理的にも、何もかもにダメなのを承知で。
俺が創った。
そうしなければ、俺がダメになるからだった。
【毛利元就】
俺の恋人。ずっと一緒に生きていくと思っていた、恋人。
好きで好きで、喪うなんて思ってもなかった。
一緒に居るコトが、ずっと続く日々を疑うコトもなかった。
ある日。
目の前で。
事故で、歩道を歩いていただけの元就に、車が突っ込んで。
死んじまうまで。
即死で。
いきなりで。
感情が混乱して、引き千切られて、バラバラになって。
気が狂うかと思った。狂った方が楽だったかもってくれえ、に。
怒鳴って、叫いて、泣き叫んで、も。
何をしても、元就は生き返らなかった。当然だ。
けど、俺は諦めらんなくて。
逆に希望を持っちまう頭脳と技術だけ、中途半端に持ってた。
クローン。元就のクローン。
反対されんのも、止められんのも判ってたから。
俺は俺の意志で、実行した。
何に引き替えても、俺は元就を失いたくなかった。
それだけは、嫌だった。
そして、俺は手に入れた。
クローンを成功させた。思いの外、簡単に。
姿形が同じ、中身が真っ白の何も無い、クローンを。
俺は創り上げた。
そして、俺はそのクローンに元就と名付けて。
元就と呼んで、暮らし始めたんだ。
俺が、元就ともう一度幸せになる為に。
2012.03.28 back
Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
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元親視点、こんな始まりになりましたv