透通る波 ]
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後悔をするという事
後で悔やむ事に何の意味がある
悩んだ末の行動に言動に
後悔をしてどうするのか
後悔をするくらいなら何もしないでいれば良かった
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元親の腕を強く掴んでいた。
大きく見開いた青の眼に、言葉を止めた元親に。
我は言い知れぬ恐怖で、きつく…きつく指に力を込めていた。
聞きたかった。
聞かずにいられなかった。
けれど、聞いて良かったのか。
聞いても。
聞いて、我は一体どうする気だったのか。
頭の中を駆け巡り出す。後悔というものが。
何故だ。
後悔などするつもりはなかった。
聞くと決めたのだ。だから口にしたのだ。
それが…それが…何故、だ。
胸が締め付けられる。元親の、我を見る眼に。
息が苦しくなる。苦しい。
心臓は動いているのか。息は出来ているのか。
青の眼から、眼が離せぬ。
「元就…」
元親の口から、我の名が絞り出すように漏れてきたのを。
耳にした瞬間、我は判ってしまった。
己が聞いてはいけない事を聞いたのだと言う事を。
誰でも触れられたくない事はある。
我は元親のその部分に、触れたのだ。
「見た、のか?」
「見た」
「そうか…」
質問に対する答は得られず、逆に問われた事に答えると。
元親の顔が歪んだ。
辛い、と。哀しい、と。無言だというのに、伝わってくる。
それ程、元親の我を見る眼は強かった。
「元就」
「何ぞ」
「聞きたいか?」
聞きたい。聞きたいから、聞いたのだ。
しかし…しかし、本当に聞いてしまって良いのか。
聞く事の意味など無いのかもしれぬというのに。
我は。
一体、元親に何を望んでいるのか。望もうとしているのか。
今、首を横に振れば、今まで通りの生活を過ごせるのか。
後から後から、結論の出ない感情が湧き上がってくる。
破裂しそうだ…。
「我は…」
「元就?」
「聞きたい、元親」
「そうか…判った」
苦く笑いながら頷いた元親の顔を、我はしっかりと見返した。
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バタンと寝室のドアが閉じられた音を。
我は毛布の中で聞いた。
元親の、何かあったら声掛けてくれ、との言葉と一緒に。
それに、我は返事はしなかったが。
聞きたい事を聞いた。
聞いたのだから、満足すべきだ。
納得すべきだ。我が望んだ事なのだから。
だが。
だが。
…聞かなければ、などと思ってしまった。
己が情けない。
元親に無理強いを強いたのは、我だというのに。
―――クローン
それが、我の素性。
我の元になった者が居た事実の受け止め方が判らぬ。
我は一体、何なのだ。何の為に。
何の為に、ここに居るのだ。生きているのだっ。
握り締めた掌に、爪が食い込み痛みを感じた。
この皮膚を破れば、赤い血液が流れてくるだろう。
創られた物の、我であっても。
生き物なのだから…。
「元親…」
返事は返って来ない。当然だ。
一人にして欲しいと、頼んだのだ。
元親はそれを聞き入れてくれたのだ。
残酷な優しさでしかない、というのに。
…違う。そうではない。
元親も苦しんでいる。いたのだ。
我への罪悪感を抱えて、元となった者へとの想いと。
元親も………。
………嫌だっ!
違う違う違う。そうではないっ。
苦しい。苦しいのだ、我は。
気付かされた事実に。
眼を逸らしていた事実に。
押し潰されてしまいそうだ。
この身代わりでしかない、己を。
我は、どうすれば良いのだ。
元親…。
そなたを恨んでしまいそうな、我を。
一体、どうすれば良いのだ。
怖い、のだ。怖いのだ、元親。
両手両足を縮めながら。
最小限の息をしながら、我は冷えていく心を。
重く持て余すしか術がなかった。
2012.05.07 back
Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
BGMはボカロの【歌に形はないけれど】でどうぞv
元就視点、覚悟してても、辛い事は辛いのです