透通る波 XI


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避けようとして
無視しようとして
何も知らぬ振りをして
何もなかった様にしたけれど
そんな事は無理だった出来なかった

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出来るだけ静かに、部屋のドアを閉めたつもりだった。
けど、大きな音が立っちまった。
それが、俺と元就を隔てた音のようで。
俺は掌で顔を覆った。

ナンで、こんなコトになっちまった。
ナンで…。
ナンで、だっ。

全部、話し終わった時の元就の眼が焼き付いて離れねえ。
あんな…あんな眼、させたコトに。
俺は何も言えなかった。
済まない、なんて一言も。
そんな言葉で、謝罪する気も起きなかった。

自分がクローンだって知って、元就は動揺した。当然だ。
けど、泣き喚きもしなかった。
俺を責めもしなかった。
ただ、眼を揺らしていただけだった。
泣きそうな眼で。涙の無い眼で。

この日が来るコトを俺はずっと判ってて。
けど、出来るだけ考えないでいて。
先延ばしにばっかしていた。
政宗にも時折心配の忠告で言われてたが。
俺は考えるコトさえ放棄してた。

…怖かった、んだ。
怖くて仕方なかった。
元就に知られるコトが。
こんなにも怖かったんだって、知られた今、判った。

何も知らない元就が、俺と一緒に居てくれる。
それだけで、俺は良かった。
一度、喪った元就を。
俺は二度と、喪いたくない一心で。
エゴだと、それを免罪符にして。
俺は元就を、俺に束縛していた。

くそっ!

壁でも何でも殴り付けたかった。
けど、そんなコトしたら大きな音が立つ。
その音を聞いたら、元就がどう思う?
これ以上、元就を怯えさすなんて出来ねえ。

元就を苦しめているのは、俺だ。
苦しまなくていいコトで、元就は苦しんでる。辛い思いをしてる。
全部、俺の所為だってのに。

ごめん。
ごめん。
ごめん、元就。

謝ったって許されねえ。
今までしてたケンカの後みてえに、頭を下げて謝って。
元就が渋々許してくれたのをギュッと抱き締めて。
…なんて、もう出来ねえ。
出来ねえ。

ごめんな、元就。

俺はドアの前から離れ、一番遠い部屋へと向かった。
元就が一人にして欲しいと言ったから。
今の俺にはそれぐらいしか出来ねえ、もんな。
本当は、元就を一人にしたくねえ思いで一杯なのを。
後ろ髪を引かれながら、俺はその場を離れた。


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一晩。
俺は眠れず、朝を迎えた。
カーテンを開けると、晴天だった。
元就の好きな天気だ。
一睡も出来なかった眼には、眩しすぎる程良い天気だった。

一晩中、考えたが。
俺はナンの結論も、出せなかった。
この俺が、一体元就に何をしてやれるんだ?
それだけの堂々巡りでしかなかった。
情けねえ。
いつもいつも、元就の為ならナンでもしてやるって。
そう思って、傍に居たってのに。
判っていたコトにナンも出来ねえでいる。
けど、このまんまでいられねえ。
いる気もないんだ、俺は。

頬を両手で、パンッと叩く。
気合いを入れる為に。
元就と向き合う為に。
話さねえ、と。きちん、と。
判って貰えねえ、かもでも。
そして、元就の気持ちも聞きてえ。
手前勝手は承知の上で。

俺は、元就、お前が…。


「元就?」

部屋のドアを叩いてみたが、気配が感じられなくて。
俺は声を掛けながら、ドアを開けた。
そこには、空のベッドだけで、元就の姿はなかった。

「元就っ」

家中を走り回り、元就を見つけられなかった俺が。
外へと探しに行こうと、玄関のドアを開けた時。
そこに、丁度立っていた男とぶつかりかけた。

「えーと、長曾我部さん?」
「そうだけど、アンタは?」
「あ、俺は猿飛っていう者だけど、長曾我部さんに用事があってさ」
「俺に用事?」
「そう、毛利さんからの伝言。心配してるだろうからって」

どういうコトだ。
元就が俺に伝言って。
それに、ナンでこの男がそれを伝えに来たんだ。
俺は混乱したまま、猿飛ってヤツの話を聞き始めた。





2012.05.15
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Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
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元親視点、アニキの弱さ爆発です