透通る波 XIII
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何が一番良いのか
考えれば考える程
判らなくなる
ただ
笑っていて欲しいだけなのに
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「―――でね、そういった経緯でウチの子が元就さんの面倒を見るってきかなくてね」
大体の事情を説明された。猿飛って名乗った男から。
説明された事は筋が通っていて、それは理解出来た。
けど、元就が俺以外の人間と俺の知らない所で知り合っていたコトに。
俺は少なからず、衝撃を受けていた。
「それでね、お節介は重々承知の上なんだけど、喧嘩しちゃたみたいだし。
少し距離を置いてってので、元就さんをウチで暫く預かってもって話に来たって訳」
距離。
俺と元就の間の距離。
いつも、それがどんなものなのか、近いのか遠いのか、あやふやだった。
俺はその距離を縮めようとしたり、立ち止まったりしていた。
いつも、決められないでいた。先延ばしにばかりして。
「えーと、長曾我部さん、いいかな?」
「あ、ウン。そっちが迷惑じゃなけりゃ」
「迷惑にはなってないから、安心していいよ。
何しろ、ウチの子が元就さんを気に入っちゃってて、
まあ、コッチとしては有り難いっていうか」
「そっか」
あはは、と苦笑いする男に、俺は頭を下げた。
今は…今の俺も元就も、混乱しかない。
どうしていいのか、そんなコトも考えられねえ。
何をどうすべきか。どうするコトが一番いいのか。
全く、思い付かねえ。
そんな目隠しをされた状態だ。
闇雲に動いても、きっと傷付く。傷を広げるばっかだ。
「頼む、な。元就のコト」
「そんな畏まらないでよ。大丈夫、ちゃんとお預かりするから」
「ん」
「何かあったら連絡するし、心配ないから」
玄関先で、猿飛を見送る。
これで、暫く元就の顔を見られなくなる。
そう思うと、ズキズキと胸が痛んだ。
自分の引き起こしたコトに、苛まれる。
「長曾我部さんもさ、少し休んだ方がいいよ? 顔色悪いって」
「そんな酷えか?」
「ウン、確実に元就さんが心配するレベルだね。じゃ、俺帰るんで」
「ああ、気を付けて」
玄関のドアを閉める。
家の中に入った安心感、一人でしかないコトに。
俺は顔を覆って、大きく息を吐いた。
元就が傍にいねえ。
それだけのコトが、俺から気力をごっそりと奪っていた。
元就。
元就。
俺は…どうすればいいんだ? どうすれば、お前を…。
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あれから、俺は昨夜一睡もしてなかったモンで。
ベッドに倒れ込んで、爆睡していた。
ナンの夢も見ねえで、ひたすら寝て。
起きたら、夕方だった。
起き上がって、ぼんやりした頭で。
ああ、元就は居ねえんだったな。
距離を置きたいって、他人の家に世話になってんだったな。
だから、居ねえ。
家ん中から、元就の気配が消えちまってる。居ねえんだ。
後から後から湧きあがってくる、寂しさを。
俺は妙に醒めた頭で受け止めていた。
俺のしでかしたコト。
死んじまった元就のクローンを創って、一緒に居たコト。
外見を同じにしたって、中身は違うのを承知で。
自分のエゴを通し続けたコト。
…勝手過ぎて、ざまあねえ。
けどな。
けどな。
俺は元就を失えねえんだよ。
好きなんだ。愛してんだ。
エゴの塊の俺が、唯一、何を引き換えにしても無くしたくねえんだよ。
…元就。
許してくれ、なんて言えねえのに。
そんでも、許してくれって、俺はきっと言っちまう。
何事もなかったようになんて出来ねえのに、傍から離れないでくれって。
俺は、お前の苦しさよりも、きっと俺の願いを優先させちまう。
酷えよな。
その酷えコトをお前に押し付けてきたってのに。
それをまだ願ってんだからよ、俺は。
このまま、距離を置いて。
そんで解決なんか、するワケがねえ。
堂々巡り。
出口なんかねえ。
窒息しちまいそうだ。
元就。
元就。
元就。
頼む。もうお前を失わせないでくれ。
俺からお前を取り上げないでくれ。
お前がいねえと、俺はダメなんだ。
…あまりの勝手な考えに、俺はそれらを握り潰したくて。
拳を握って、抑え込んだ。
何の解決にもなんねえのが、判っていても。
俺には、これしか出来なかった。
2012.05.24 back
Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
BGMはボカロの【歌に形はないけれど】でどうぞv
元親視点、苦悩の泥沼に嵌り中