透通る波 XIV


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信じるもの
信じられるもの
…信じられないもの
どれを一番にする?
それはとてもとても大事な事

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「取り敢えず、長曾我部さんにはちゃんと話してきたから、大丈夫だから」
「…手数を掛けた」
「ん〜それは気にしなくていいかな」
「しかし…」
「今はそれより頭を冷やす事、それと落ち着く事、じゃない?」
「………」
「一気に何でもやろうとすると苦しいだけだからね」

帰宅して来た猿飛という男に、一連の説明を受けた。
我がここに居る事、暫く離れる事、それらを伝えてきたので心配は無いとの事を。

「ウチのちび旦那、あ、幸村の事だけどね。
 あの子が面倒見るって息巻いてっけど、俺様が責任持つから安心していいから」
「そうか」

つい、釣られて笑ってしまった。
あの小さな子供に、我は助けられている。
子供というだけではなく、あの真っ直ぐに気性に。

「じゃあ、何でもって訳にはいかないだろうけど、何かあったら言ってくれればいいから。
 今日はゆっくり休んで、あまり色々と考え過ぎないように、疲れちゃうからね」
「判った」
「んじゃ、おやすみなさい」
「猿飛さん、世話を掛けた」
「佐助でいいよ、元就さん」

そう言って、手を振りながら部屋から出て行った。
我は、それを見送り、静かに息を吐いた。
一日が早かった。家を出て、幸村について来て、好意に甘えて。
あっという間に、夜となっていた。
考えも纏まらず、結論など全く出ていなくても、時間は経つのだな。

元親が我へと渡してくれと預けられた荷物の中から着替えを取り出す。
我が少しでも困らないようにと、配慮されている荷物の中身を見ると。
心が痛くなる。
大事にされているのは疑う事もないと云うのに。
その大事にされている指針が、我では無いと判ってしまった事に。
どうしようもなく、心が歪んでしまう。

我に取って、元親はオリジナルだと云うのに。
元親に取っては、我はクローンなのだ。
その差が、どうしようもなく辛い。苦しい。泣いてしまいたい。
そうだ。
我は泣いて、喚いて、詰め寄りたいのだ。
何故、我を創ったと。
オリジナルの身代わりにしたのだと。
きっと、元親には覚悟出来ていた言葉をそれでも投げ付けてしまいたい。
それでどうなるかなどと、判らないとしても。

…止めよう。
今夜は何も考えないようにしよう。
これでは、何にもならない。
元親を責める事などしたくはないのだ、我は。
その為に、離れたと云うのに。
こんな事では、いけない。

佐助の云う様、何も考えず、もう寝てしまおう。
これ以上、元親に責任を押し付けぬ様に。


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支度を済ませ、ベッドに入ろうとした時。
コンコンと小さなノックの後に、カチャリと開かれた扉から現れたのは幸村だった。
指を口に当てて、静かにと小さな声で言いながら入ってきた。

「どうしたのだ?」
「さすけにみつかるとおこられますので、おしずかに」
「判った」

我が頷くと、トコトコと小走りに幸村はやってきた。

「何かあったのか?」
「はい、おはなしにまいりました、どうぞすわってくだされ」

真剣な眼差しに、我はベッドへと腰掛けた。
その隣に、ベッドへとよじ上ってきた幸村が座ってきた。

「それで?」
「きょうはそれがしがいっしょにいますので」
「そなたが?」
「はい、もとなりどのをひとりにはしません」
「我は大丈夫ぞ」
「だめです、ひとりはさみしいです、かなしいです、こわいものなのです」
「幸村…」
「おやかたさまがいなくなってしまったとき、さすけがいっしょにいてくれました。
 かなしかったけど、たくさんなきましたけど、さすけがいっしょにいてくれたので。
 こんどは、それがしがもとなりどののそばにいると」

幸村の話を要約すると、幸村自身も大事な方を亡くされている。
そして、その時に傍に居たのが佐助だと。
その時の事を、今、我へと実行しようとしてくれいるのだと。
判った。

「…感謝する」
「もとなりどの」

ベッドの上に立ち上がった幸村が、我へと抱き付いてきた。
子供の手を大きく広げて、精一杯の力で。
子供の体温が温かい。
一緒に、幸村の気持ちが流れ込んでくる。
…暖かい。
その気持ちを感じる事が出来るのが嬉しい。
棘立っていた心が、少し溶ける気がした。

この夜、我は幸村と抱き合って一緒に眠りについた。
明日、目が覚めた時。
きっと、少しでも良いから何か変われる様にと願いながら。





2012.05.25
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