透通る波 XV


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手に入れたいもの
手放せないもの
何が優先するのか
自分に問い掛ける
答を見つけるまで

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元就が出て行ってから、3日経った。
俺は毎日、元就からの連絡を待っていた。
佐助からの連絡でも良かった。
何か一つでも、元就からの何かが欲しくて。
俺は待っていた、家からは出ずに。

一歩でも外に出たら、俺は押さえられない。
元就んトコに行って、きっと…酷いコトを云っちまう。
元就を傷付けるような言葉を、きっと。
今、凄く気持ちを抑えつけているんだ。
きっと、元就の顔を見たら箍が外れる。
断言する。きっと俺はバカやるだろう。

…これ以上、何する気だよ。
俺は。
どんだけ、元就を傷付けたら気が済むんだ。
そんなコトしたくねえのに。
俺がするコトは、元就を傷付けてばっかだ。

でもな。…でもな、俺は元就を手放せねえんだ。
どんな非難も罵倒もうけっから、俺から離れねえでくれ。
傍に居て欲しいんだ。
死んでしまった元就のように、俺の傍から消えねえで欲しい。
ただ、そんだけで。
ただ、それだけの気持ちで、俺は今の元就に最低のコトをした。
ずっと、してたんだ…よな。

ダメだ。思考がループする。
堂々巡りにも程がある。こんなんじゃ、ダメだ。
ダメだ。ダメだ。ダメだ。………。
俺がしっかりしねえと。
元就には何の責任もねえんだからな。
俺がきちんと取らねえと。

俺は頭を振りながら、気を落ち着かせる為にコーヒーを飲むコトにし。
キッチンへと足を向けた。


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『Hey,元親、今からそっちに行くからな』
「政宗? おい、来るって?」
『言葉通りだ。面倒臭えから家の鍵開けとけよ?
 一時間後にそっちに着くからな、いいな? じゃあな!』
「お、おいっ…」

切れた。一方的に。
いきなり電話を掛けてきて、喋るだけ喋ったら切られた。
携帯のプープーって音が、空しい。
何なんだ、一体?
来るって、俺んトコだよな?
一体、何の用事だ? その肝心なコトは一つも聞いてねえ。

…ま、いっか。来りゃ判るだろう。
と、思ってたら一時間後じゃなく、三十分後に政宗は来た。
悠然と、片倉さんに車で送られて。


「で、何だよ。この訪問の目的は?」
「そりゃ、勿論、アンタの様子を見に来たんだよ、you see?」

リビングのローテーブルの上に所狭しと、食べ物と酒が置かれている。
政宗が持参してきたものだ。
酒はビールからウィスキーから日本酒等々。政宗のセレクトだろう。
料理を作ったのは片倉さんだろうけどな。
並べて用意してくれたら、帰って行った。
明日、迎えに来ますの一言を残して。

「さあ、洗いざらい喋っちまえ、楽にしてやる」
「何だよ、人を犯罪者みてえに」
「ある意味、そうだろ? 元就さんに対しては」

グサッ、ときた。
容赦の無さに堪えたが、これも俺の罪の一つだ。
受け入れねえと、な。
何で、俺は一連のあったコトを政宗に掻い摘んで話し始めた。

「ほらな、とうとうその日が来ただろ?」
「うっせえよ」
「覚悟はしてたんだろ? 何をそんなに荒れてんだよ」
「…覚悟なんて役にも立たなかったんだよ」
「そんなに責められたのか?」
「いや」

俺は即座に首を横に振った。元就はしなかったからだ。
一つも、何も、云わなかった。
ただ、俺からの言葉を聞いていただけだ。
そして、距離を取った。俺から離れてった。

「責められた方が楽だったな」
「…ああ」
「何も言ってこなかったのか?」
「…一人になりたいって云われた、考えてえって」
「そっか、優しい人だな」
「ん」

政宗の言葉に、俺は頷いた。
元就は俺のコトを考えててくれてる。
それなのに…俺は?

「なあ、元親」
「何だ?」
「アンタはどうしたいんだ?」
「俺?」
「そうだ。先に動かなきゃいけないのは、アンタだろ?
 俺が来るまでに散々グダグダしてたんだろ?
 だったら、いい加減動け。潮時だ」
「けどよ…俺は元就を傷付けて…」
「だからだろうが。傷付けてしまった相手をいつまでほっとくんだ?」

あっ!
そうだ、そうだよな。
肝心なコトを俺は思い出した。
大事なコトは、一つだ。初めっから。
ストンと腹が決まった俺は、政宗の目の前で立ち上がった。





2012.05.29
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