透通る波 XVI


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伝えたい
今の自分がどう思っているのかを
伝えて
そして
貴方の気持ちを聞かせて欲しい

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好意に甘えていた。
その自覚はある。
早く、どうにかせねばと思ってはいても。
なかなか、それを実行出来ないでいる。
この儘で良いわけが無い。
それが、判っていると云うのに我は動けないでいた。

怖い、のだ。

元親と会うのが。顔を見るのが。話をするのが。
勝手をした己を、元親がどう思っているか。
それを考えるのすら、怖いのだ。
だから、動けぬ。一歩が踏み出せぬ。
何と、意気地の無い事か。

元親。
どうしておる?
離れたのは初めてだ。
初めて顔を合わせた日から、離れた事などなかった。
それが、今は、姿も声も、存在が傍に居ない。
それが、辛い。辛いのだ。
我はこんなにも依存していたのか、元親に。

違う。
依存では無い。

我は即座に首を振った。
我と元親は対等だ。そう過ごして来たのだ。
でなければ、一緒に暮らしてなどいなかった。

元親。
そうだと云ってくれ。
我という個を認めていたと。
でないと、我は…。

聞き出す勇気も無い。
この儘、曖昧にしてしまえないというのに。
もう一度、首を振る。
この後ろ向きな思考を振り払おうと。


「出掛けて来る」
「あれ? 元就さん、どこに行くの?」
「少し散歩をして来る」
「ウン、いいんじゃない? 気分転換になるしね、行ってらっしゃい」

洗濯物を抱えた佐助に断りを入れて、我は外へと出た。


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良い天気だ。
ただ、何処へ行くかは宛ては無い。
本当に、我はただ歩いていた。
行き先など判らずに。

好天の為、日差しは暖かく、風は心地良い。
鬱となっている気分を少しだけ軽減させてくれる。
ふらふらと、何処にも立ち寄る事なく歩き続けた我は。
ふと、目に付いた公園へ休憩をしようと入った。

そう云えば、幸村との出会いも公園だったな、と。
そんな事を思い出しながら、空を仰いだ。
光が眩しい。そして、空の青も眩しく感じる。
元親の目の色に似た、青に。

目を閉じる。
空気を吸い込んで、吐き出す。
それから。
…もう一度、考える。
我の一番にすべき…いや、為したい事を。

「元就っ!」

え? 突然呼ばれた己の名に目を開ける。
聞き覚えのある…声。一番、聞きたくなくて、聞きたい声に。

「…元親、どうして?」
「どうしって、お前に会いに来た」
「我、に?」
「そうだ、お前にだ」

ベンチに座る我の前に、元親が跪く。
我の両手を握って、真っ直ぐに我を見つめてくる。
あの時に見た迷いが、困惑が無い目で。

「ごめんな、元就」
「元親が謝る事は…」
「一杯あるって。一番は元就を泣かせたコトだけどな」
「我は、泣いてなぞ…」
「そうやって、云いたいコトも云わせないで我慢させて。
 俺の勝手に付き合わせて、振り回して、俯かせちまって」
「元親…」
「そんでもな、俺は元就に傍に居て欲しくてさ。
 沢山のコトを黙ってた。だから、ゴメン」

手がきつく握られてくる。元親の決心を伝える様に。
我は、この手を握り返して良いのだろうか。
身代わりでしかない、この身で。
それでも、我の気持ちの儘、動いて良いのだろうか。

「元親」
「ん?」
「我はクローンなのだろう?」
「…うん」
「良いのか? クローンなのだぞ? 元親が亡くした方の…」
「元就だろ、お前は」
「元親?」
「お前は元就だ、そうだろ。俺に取ってはそうだ」

云われた言葉に、我は目を瞠った。
ゆっくりと何かが浸透してくる。
元親の笑顔と共に。

「俺はお前が好きなんだ、元就」

嘘偽りが無いと判る。判ってゆく。
信じるという事が、素直に受け入れられてゆく。
元親の一言で。
一番、我が欲していた言葉を元親が与えてくれた事で。

我は握られていた手を振り払い、元親へと。
元親に伸ばし、抱き付いた。

「我もだ」

その返事だけは、しっかりと口にしながら。





2012.05.30
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元就視点、アンニュイ中…