透通る波 XVII


--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--

答は一つじゃない
いくつもいくつもあって
その中からの一つに辿り着く
それを教えてくれたのは
それに気付かせてくれたのは

--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--


「世話になった」
「うん、世話した甲斐があったから良かったね」
「もとなりどの、またこうえんであそんでくだされ」

家に帰る前。
元就と一緒に挨拶と礼を言う為に、佐助の家に寄った。
恐縮はしてるけど、少し打ち解けてる感じの元就に。
俺は不思議な印象を受けた。
ヤキモチって感情と一緒に。

俺は一体、元就の何を見ていたんだろうなあ。
ある意味、閉じ込めて、俺だけの世界に置いて。
逃がさねえよう、壊さねえよう、自己中の心配ばっかで。
元就を縛り付けていた。
元就が何を感じて、何を考えてより、俺の傍に居るコトを。
ずっと強要し続けていた。守ってやるからってコトにして。

…どんだけ勝手だったんだよ、俺は。

「元親」
「あ、どした? 挨拶、終わったのか?」

袖を引かれて気が付くと、元就が俺を見ていた。
ほんの少し、嬉しそうに笑いながら。
だから、俺も元就へと笑い返した。穏やかな気持ちで。

あ、そうか。そうなんだな。
俺はずっとこうしたかったんだな。
確かに、胸の奥にある罪悪感はこれからも俺を刺すだろう。
それでいいのかって、事ある毎に俺を責めるだろう。
それでも、それは元就の存在があるからってコトなんだな。
元就が居るから、起きる感情。
なら、俺はそれを受け入れる。飲み込んでやる。
これから、どんなコトがあっても。

「じゃ、気を付けて帰ってね〜、仲良くね〜」
「おぅ、世話になったな」
「また、改めて礼に来る故」
「そんなに畏まらなくていいから、遊びに来てね〜」
「もとなりどの、やくそくでござる」

軽く手を振る佐助と両腕を大きく振る幸村に見送られて。
俺と元就は家路に着いた。


   --*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--


「コーヒー飲むか、元就」
「飲む」
「判った、一寸待ってろ」

家へと帰り、リビングのソファに、いつもの定位置に元就が座ったのを。
確認した俺は、コーヒーを淹れに行った。
元就が帰って来た。戻って来た。
それが、心を満たす。失えないものなんだ、俺の唯一の。

「お待たせ」
「戴く」

両手で慎重に受け取り、元就がカップに口を付ける。
俺はその横に座り、俺の分のコーヒーを飲み始める。
横目でチラリと見ると、元就のクセで、赤ん坊飲みをしてる。
すげえ、可愛いんだ。この飲み方してる元就は。
んで、このクセは、この元就のモンなんだよな。
こうして見てれば、元就は元就でいる。
ちゃんと、その存在を俺に見せている。
それを俺はどっかで、目を逸らしていた。
昔に執着してた。今も完全に吹っ切れたワケじゃねえ。
けど、けどな。
俺は元就と向き合ってく。そう決めた。

「元親」
「ん、どした?」
「もし、元親が我を置いて死んでしまったとしたら」
「おい、縁起でもない…」
「我も同じ事をする、だろう。きっと」
「元就…」
「離れていた間、考えていた、ずっと。
 そして、その結論に漸く辿り着いた。元親が我を迎えに来てくれた時に」
「…俺達、似たモン同士ってコトか」
「そうだ」

元就が笑って答える。俺の為に。
泣きそうな。
困ったような。
嬉しそうな、顔で。俺だけの為に。

「うん、そうだな」
「だから」
「だから?」
「一人で背負うな、我にも半分の権利はある」
「いいのか?」
「良い」
「判った、半分こな」
「そうだ、半分づつだ」

ヤベえ、泣きたくなった。
元就の顔に。元就の言葉に。
嬉しくて嬉しくて、こんな気持ちをどう伝えればいい?
どんなに、元就が好きなのかを。
何万回、何百回、言えばいいんだ?

伸ばされてきた手を取って、俺はその指先にキスする。
触れられる喜び。
伝えられる幸福。
色々な感情が湧き上がって、混ざりあってく。

「…元就、好きだ」
「我も、元親と同じだ」

腕の中に抱き締めた元就からの返事に。
俺は力強く、頷いた。
誤魔化そうとする弱さも全てひっくるめて。
俺は元就といるコトを居られるコトを願って。
自分に誓っていた。共にあるコトを。





2012.06.19
                  back
Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
BGMはボカロの【歌に形はないけれど】でどうぞv
元親視点、一緒にお家に帰ります、アニキの決心