透通る波 XVIII
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目を開く
眩しさに瞬かせながら
ひたひたと満たされてゆく
心と共に
今ある穏やかさを甘受して
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日常を取り戻した。
以前と全く同じと云うのは出来ぬが。
元親との暮らしを我は取り戻す事が出来た。
全ては解決はしておらぬ。
まだ拘りや、納得し切れぬ事、受け入れるのに躊躇う事など。
幾つも抱えておる。
しかし、それは己の意志でだ。
投げ捨てる事も出来る、それを我は抱え込む事を決めたのだ。
元親の為に。
己の身がクローンなのは、歯痒く、本音を云えば辛い。
創られた物。複製。代理。身代わり。
そう考えてしまう、嫌でも。
必要なのは器だけであって、中身はおざなりにされるのではないか。
そんな恐怖もある。
足元が、どうにもぐらつく。
止められず、振動が大きくなり、立っていられなくなる。
膝を付いてしまえば、良いのかと。
その方が楽になると、我の弱さから声が聞こえていた。
実際、付きかけた。全てを投げ出そうとしていた。
我は。
『好きだ、俺は元就が好きなんだ』
我へと向けられた言葉。向けられた視線。
嘘偽りなど無い、真摯なストレートな吐露。
我が上手く形に出来なかったものを。
元親は与えてくれた。元親も苦しかっただろうに…。
だから、我は決めたのだ。
罪も罰も贖罪も全て、元親と共に飲み込んでしまおうと。
苦しいのなら、苦しいと。
辛いなら、辛いと。声に出して、伝えて、手を伸ばして。
元親と共にあろう、と。
そう決めたのだ。
我がそうしたいと、思ったのだ。
だから、そうするのだ。これからの、この先も、ずっとだ。
それがどんなに傲慢な事でも、いいと。構わぬと。
我は、我の中にあるだろう元の細胞へと。
そう告げた。
元親は我のものだ、と。
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「もーとなりーどーのーっ」
「幸村」
「こんにちはでござる、おげんきでしたかっ」
「ああ、元気だ。幸村も元気そうだな」
「はいっ、げんきでござる」
久しぶりに訪れた公園で、我を見つけた幸村が息を切らして飛んで来た。
大きな黒目を丸くし、いつも通り人懐こく。
「どうした?」
「あんしんいたしました」
「安心? それはどういう事だ?」
真っ直ぐに見上げてくる目に、つい聞いてしまったが…。
「くちだけでない、もとなりどののことばがきけたからです」
益々、判らぬ。
首を傾げると、幸村は更に力説し始めた。
「いっていただけないとわからないのでござる。
だからいってほしいのでござる。どうしたらわらっていただけるかを」
「云う?」
「はい、そうでござる。
もとなりどのはわらってはおりましたが、とてもとてもかなしそうでしたから」
哀しい、か。確かに。
だが、それだけではあらぬ。
元親が見ている、もう一人の我に。
我は嫉妬していた。醜い感情を持て余していた。
しかし、今は…。
「元就っ」
「元親?」
「もとちかどのっ」
「やっぱココだったか。
お、こんちは、幸村。今日も元気だな」
「はい、もとちかどのもおげんきでござるな」
「早かったのだな」
幸村の頭を撫でている元親へと声を掛ける。
今日はいつもの仕事で、元親は出掛けていた。
こんなに早く帰宅すると思っていなかった。
「おう、元就が待っててくれるんだもんな、早く帰って来るって」
「そうか」
満面の笑みを向けられる。
我も笑みで返す。
こうして、元親から与えられものに、我も同等のものを返していきたい。
今はまだ上手く出来なくとも。
「さ、帰るぞ」
「うむ」
差し出された手に、我も手を伸ばす。
握られた手から伝わったくる温もりに、我も握り返して。
「幸村、またな」
「はいっ、またでござる」
「気を付けて帰るのだぞ」
「はいっ、きをつけてかえるでござる」
幸村へと手を振り、我は元親と歩き出した。
元親と共に、同じ家へと帰る為に。
この手を離さぬ為に。
離さないでいる為に。
2012.06.20 back
Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の最終話
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