透通る波 W
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色の無い世界
白でもない
ただの無色の
そこを彩ってくれたのは
たった一人
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静かだ。
元親、一人が居ないというだけで。
この家は、静かになる。
朝、出掛ける元親を見送った後。
我は、本を読み続けていた。
他にする事が無いからだ。元親が居ないと。
兎角、元親は口煩い。
ああしろこうしろ、と規則正しい生活というものを我に守らせようとする。
本ばかり読んでいるんじゃない。
食事は2人で一緒に食べるんだ。
夜更かししないで早く寝ろ。
そんな事を一々細かく言ってくる。
元親自身はどうなのだ、と我に反論させてしまう程に。
我に対する面倒見は良い。
しかし、本人自身はだいぶアバウトだ。
元親は、我を構い過ぎる。
そして、我はそれに慣れ過ぎ切っている。
だが、疑問が湧いても、そこからは離れたくはない。
我は元親から離れられない。
離れようとは思わぬ。
我の居場所は、元親だと思っている。
それに、間違いはない。間違う事などない、のだ。
我は…何もトレースなどしていない。
自身の意志。確固たるもの。揺るぎなどない。
こうして、己に言い聞かせる。
漠然とした不安に襲われる前に。
『元就』
耳に馴染みきっている、声。
繰り返される、何度も元親に呼ばれる己の名は心地良い。
海の色と同じだという色彩の、眼。
一つだけしかない所為か、より深みのある色合いを持っている。
我は、その元親の眼を好んでいる。
美しいと思う。青の色は。
我は…限りなく青の世界に浸っている、気がする。
安全と不安の狭間をたゆたう様に。
何故、そう思うのかは判らないが。
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「…元就元就」
「元親?」
「こら、こんなトコで転た寝したらダメだろうが、風邪引くぞ」
「…我は寝ていたのか?」
「ああ、俺が帰って来たらグースカ寝てたぞ」
確かに眠っていたらしい。ぼんやりとしている。
軽く頭を左右に振って、我は意識を戻した。
「お帰り、元親」
「ん、ただいま、元就」
元親は、我の額と自身の額を合わせる。
至近距離から、眼を覗いてくる。
そして、ホッとした顔で笑う。
いつも、そうだ。まるで、儀式の様にこの行為を一連に行う。
元親は何が不安なのだろうか。
何をそんなに安心したいのだろう、か。
「昼飯は食ったか?」
「食べた」
「食器は?」
「水に浸けてある」
「よし、OK」
外から帰って来た元親は、たわいない事を一々確認する。
そして、我はそれに答える。一つ一つ。
それは、パズルを填める様な作業だ。
確認し、ここにあると安心し。
何一つ、抜けていないと言い聞かせているようだ、元親は。
「元親、土産は?」
「お前はそれが一番大事なのか」
「一番ではないが、大事な事だ」
「ハイハイ、買って来たって、元就の好きな店のチーズケーキ、ワンホール」
「食べる」
「直ぐにか?」
「勿論だ」
「了解。全く、俺は帰って来たばっかだってのによ」
「早くしろ」
「判ったって、この食いしん坊」
そう言って、笑いながら、元親はキッチンへと行く。
我は転た寝をしていたらしいソファの上に、起き上がる。
元親の背中が見えなくなるまで、じっと見ながら。
外の匂いが、する。
いつも元親が外出先から、運んできてしまう匂いだ。
それに、我はどうしても慣れぬ。
眼に見えず、元親との間に紛れ込まれている気がして。
気に入らぬ。
早く消えてしまえば良い。
好きではない。
嫌なのだ。
胸のざわつき出す、から。
何か知れぬものに、急き立てられる気がしてしまう、のだ。
早く消えてしまえ、と強く思う。
我には不要なものなのだから。
そう宥め、心を落ち着かせる努力を。
我はする。
元親の為に。
「元就ーっ、用意出来たぞーっ」
「今、行く」
この日常の為に。
2012.04.08 back
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