透通る波 X


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漆黒の闇
詭弁も嘆願も全て
聞き入れられる余地の無い
それ程に業が深くとも
身を沈めるのに躊躇いは無い

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「元就、これをテーブルに持って行ってくれるか?」
「判った」

俺はトレイの上に、今晩の夕飯のメインの料理の皿を乗せて、元就へと渡した。
以前、料理の熱が皿に移ってて、それでぶちまけたコトがあったんで。
過保護なのは判ってっけど、又、あんなコトがあったら堪らねえ。
元就の落ち込みが、酷かったからさ。
ズドーンって、役立たずオーラを出しちまって。
暫く、腫れ物状態だったモンな。
んーと、チョットその落ち込んでる姿は。
元就には言えないけど、可愛かったけどな。
やっぱ、口を噤んで大人しくなっちまってる元就はなあ。

なんで、それから気を付けてる。俺も元就も。

だから、ほら、しっかりとトレイを左右から持って。
元就は足元に注意して、運んでってる。
学習能力は高いから、よっぽどのコトがなきゃ、もう大丈夫だ。
よし、大丈夫そうだな。
トレイごとだが、料理は無事にテーブルの上に到着した。

「元親、他に運ぶものはあるか」
「フォーク、2人分」
「判った」

食器棚の引き出しから、フォークを見つけた元就は。
満足気に又、テーブルへと持って行った。
その後ろ姿に、俺も満足しながら。

元就は、俺が外出して帰って来ると後を着いて来る。
産まれたばっかの雛みてえに。
無意識なんだろうな。きっと。
じゃなきゃ、元就はそんなコトしねえと思うんだ。

俺の傍に来る。
家事を手伝うって名目で。
離れたがらない。寄って来る。
それはメチャクチャ可愛い。可愛くて仕方ねえ。
可愛いんだよ、ホントに。

「元親、用意が出来たぞ」
「おお、今行く」

自慢気に笑いながら先にテーブルについてる元就に笑い返して。
俺も椅子に座った。


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「ほら、ちゃんと肩まで毛布掛けろよ」
「判っている」
「判ってんなら、ちゃんと掛けろって」
「…元親、煩い」
「お前が口煩くさせてんの」

ムッとした顔になった、元就の鼻を軽く摘んでやる。
嫌がって振る頭も押さえ込んでやる。
そして、俺は元就の額にキスをした。

「ほら、もう寝ろ」
「………うむ」

元就はもぞっと動いて、俺へとぴたっとくっついた。
顔を半分、毛布の中に潜り込ませて。
息、苦しくないのかと聞いたコトあんだけど。
この方が落ち着くって言われたから、元就の好きにさせてる。

不思議だ。
見掛けは元就なのに、昔はしなかったコトをする。
バカを言ってる自覚はある。
今、ココに居る元就は、中身は違うんだって。
そんなの判り切ってるのに、既視感が俺の判断を狂わせる。
外が同じなんだから、中も一緒…なんじゃないかって。
そんなワケねえのに。

申し訳ねえ。
俺のエゴだってのに、どうしても欲が出る。
元就は元就、なんだって。
ナンも変わってねえって。
事故で死んだなんてコト、なかったんだって。
元就は俺の腕ん中に、今も居るって。

そう思いたがってる俺が、いる。
バカだ。ホント、バカだ。
政宗が心配するのが判るって。
こんなバカなヤツ、いねえもんな。

「元親、どうかしたか?」
「え? ナンでだ?」
「音が…心音が、いつもと違う」
「…そう、か?」
「そうだ。我には判る」

きっぱりと言い切って、毛布から顔を出して元就は俺を見つめてくる。
心配して。
心配してくれるんだ、元就は。俺を。こんな俺を。

「大丈夫だって」
「本当にか」
「ん、お前が居てくれれば大丈夫になんだよ」
「…そうか」
「だからさ、ずっと居てくれな」
「居る」
「ありがとな、元就」
「礼を言われる事ではない。我の意志でもある」
「だから嬉しいんだよ、礼くらい言わせろって」
「だったら、物で感謝の意を現せれば良い」
「今度は何がいいんだよ」
「豆大福が良い」
「了解」

ぎゅうっと抱き締めた。
力加減なんか出来ねえ。
嬉しくて嬉しくて、幸せで。
この気持ちを元就に伝えたくって、腕に力が入る。
元就の苦しいという文句も一緒に。
俺は元就の身体を力一杯、抱き締めた。





2012.04.09
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Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
BGMはボカロの【歌に形はないけれど】でどうぞv
元親視点、ナリが好きで好きで仕方の無いアニキですv