透通る波 Y
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衝動を受ける
大きなうねりに突き上げられるように
声を出したい
叫びたい
何をかが判らなくとも
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我は、元親と一緒に暮らしている。同じ家の中で。
食事から睡眠、日常の生活を共にしている。
名を呼び合い、会話をし、同じ時を過ごす。
これらが、我と元親の普段だ。
何の問題も無い。不満も無い。
寝室もベッドも同じ所の為。
朝、目覚めると元親の寝顔が一番初めに目に入る。
それを叩き起こし、食事を作らせ、一緒に食する。
毎日を些事を済ませながら、過ごしていく。淡々と。
穏やかなのだ。
とても。
とても、落ち着く。心が。
何も無い事で。無事に過ごせる事で。
少なくとも、我はそうだ。
元親の形容のし難い目に、見つめられても。
我は元親に好かれている。
それは判る。理解している。
何度も、言われているのだ。
抱き締められた腕の中で、耳へと囁かれ。
繰り返し、真摯な声で告げてくる。
疑いようなど無い。無いのだ。
我も元親と同じ気持ちでいるのだから。
我らの関係は、恋人同士だ。
好意を持ち合っている。
そう、元親に説明された。
元親に尋ねた時に、言われた。
我はその言葉に納得して、頷いた。
『恋人なのだな』
『ああ、そうだ』
その力強い言葉は、我の中に収まるべきものが収まるように。
ストンと落ち、続いている。続いていくのだ。
そこに疑いは無い。
疑っては…いけないのだ。
我はそう決めてある。
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我は、一日を家の中で過ごしている。
当然だが、知り合いなどいない。
家には元親だけだ。2人で居る。
それ以外は居ない。
元親は仕事があり、それに介在した知り合いが多数いるらしい。
仕事以外にも、友人という形で。
外出は、我以外の者に会いに行く事だ。
それを見送るのには、慣れている。
元親の仕事に取って必要な事だ。
止める理由など無い。
我が付いて行く必要も無い。
『留守番を頼むな』
その一言に、我はいつも頷く。
元親からの頼みだ。
そして、出掛けて帰って来るという約束だ。
我は元親の為に出来る事が少ない。
家事でも何でも、元親の方が出来る。
だから、頼み事をされるのは嬉しいのだ。
我に、元親の為に出来る事があるという事が。
ただ。
一抹の不安を感じてしまうの、だ。
我は約束を守る。
それしか出来ない。
だが。
元親は?
元親を信用していない訳ではないというのに。
その疑問を認識してしまった。
この儘、出掛けて帰って来ない可能性もあるのだ。
そう、気付いてしまった。気付かなければ良かった。
元親は我の行動に制限を掛けてはいない。
本を読む事も、テレビを見る事も、ネットを使う事も。
外界の情報を得る事を止める事はしない。
知りたい事を知れば良い、と。
判らない事があれば、自分の判る範囲で教える、と。
言っている。
だから、何でも聞いてきた。
少しでも疑問に、不思議に思った事は全て。
元親に、我は聞いていたのだ。
なのに、少しずつ聞けない事が増えている。
これは、元親への不信感なのか?
聞いたらいけない。そんな戒めを感じるようになっている。
聞いても、何だそんな事か、と。
いつも通りに答えてくれる筈だと、言い聞かせても。
言葉が詰まる。
我の中に留まる。言葉として声にならない。
そんな積み重ねが、増えている。
そして、それらが神経を圧迫している。
元親に気付かれないように努力はしているが。
いつまで続けられるだろう。
その不安が拭い切れぬ。浸食される。
この儘の見ないふりは、いつまで。
我は続ける事が出来るのか。
それでも。
元親の前では、何事も無いように過ごす。
この儘が良い。
我は変化など望んでおらぬのだから。
元親の書斎で見つけた写真に写る我の姿に。
どんな違和感を感じようとも。
猜疑心に押し潰されようとも。
2012.04.11 back
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